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知る者、知らない者  作者: 螺旋の凡人
~第1章~
20/38

第20話 拒絶

2013 3月28日 サブタイ変更しました。

午前中の授業が終わり生徒達が思い思いに昼食を食べ始めたとき、教室の一角で黒いオーラを出している俺と猛に近づく人影が二つある。


「二人ともどうしたんだ?」


「まさか弁当忘れた、なんて古典的なこと言わないよね?」


ぐううぅぅ


そんな二人の問いに答えるのに言葉はいらなかった。


「ユウ、ジュウイチなんか恵んでくれぇ」


高校生とは思えないほどの体格をした浅井優アサイユウとジュウイチこと十一ツナシハジメ、二人とも元ディーラーズだ。


元々は別のグループのリーダーだったが、猛に負けてディーラーズに組みしたのだ。


リーダーをやっていただけあり、優は猛世代のナンバー2、一はナンバー3だった。


「昨日の喧嘩に呼ばなかった罰だ。せいぜい苦しむんだな」


浅井がこれ見よがしにコンビニのビニールからパンを取り出し口に含んだ。


「この薄情者!」


「ハハ、でも四音はともかく猛は弁当の心配する必要はないよね?」


一がメガネの位置を正しながら言った。


「どういうことだ?」


「え?だって薫に作ってきてもらってるんじゃないの?さっき薫が鞄から弁当箱を二つ取り出してるのを見たけど、薫が弁当を作ってくるなんて猛以外ありえないでしょ」


「マジか!?」


猛が期待を込めた視線を薫の座席の方に向けると、そこにはいつもと違う少し大きな包みを持ってこちらの様子を窺ってる薫がいた。


「おお!愛しの女神よ」


拝みだした猛に若干引きつつも薫は包みを差し出した。


「昨日のお礼よ。もし猛がどうしてもって言うなら、お小遣いが許す限りでこれからも作ってきてあげる」


頬を赤らめそっぽを向きながら言うその仕草に、突然浅井が反応した。


「ツンデレ、キタアアアアァァァァァ」


突然浅井がスーパーサ○ヤ人にでもなりそうな勢いで叫んだ。


そのせいで教室の窓ガラスの一枚にヒビが入った。


「っうう、突然耳元で叫ばないで下さい!」


「だってお前リアルツンデレだぞ。そりゃ叫びたくもなるってもんだろ!」


「なんで逆ギレしてるんですか!って、あれ?右耳が聞こえなくなってるじゃないですか!」


どうやら一番近くにいた一の右耳ギセイシャは天に召されたらしい。


「じゃあジュウイチ、よく聞け。お前の立場で例えてやる。俺にとってのツンデレってのはな、六十を越えたマダムがビキニで誘ってくるようなモンなんだ」


「それはとてもスバらしいですね」


今度は一が壊れた。


そう先の会話から分かるようにこの二人は何を隠そうHENTAIなのである。


浅井は二次元好きで特にツンデレが大好物、一は熟女好きストライクゾーンは五十オーバーという筋金入りだ。


こうしてみてみると重度のロリコン、二次元マニア、熟女好き、と猛世代の幹部には変態しかいない。


「ところで四音君、今日の放課後時間ある?」


変態談議を始めた二人を無視して薫が俺に話しかけてくる。


「ん?ああ」


「なら今日お願いできる?」


「何を?」


「私の覚悟を見てほしいの」


薫の発言でその場の空気が重くなった。


「…分かった」


俺は了承すると席を立った。


「亜久間先生にたかってくる。さすがに昼抜きはムリだからな」


俺が教室から出て行くと、談義を終わらせた二人が薫に詰め寄った。


「薫さん、覚悟を見てほしいってつまりはそういうことですよね?」


「うん。四音君の秘密を聞く」


はっきりと言葉を紡ぐ薫の決心は固いようだ。


「そうですか…」


「二人はもう知ってるんでしょ?」


「いんや、俺らにはそこまでの覚悟は無かった。俺らはあいつの仲間止まりだ。一度拒絶しちまったからな、もうあいつの家族にはなれねぇよ」


優と一は俯いた。


「そう…」





亜久間先生が少し慌てながら剣道場に入ってきた。


「遅れて悪かったね」


「これで全員揃ったか」


剣道場の中には俺と雪奈、猛、薫に先程来た亜久間先生がいる。


「じゃあ四音君、お願い」


「そのことなんだけどな、俺もいちいち説明するのは面倒なんだ。それに思い出したくもない昔のことを話すのも辛いしな。だから、委員長の方から俺に質問してくれ。俺は質問には全て答える。こんな感じでどうだ?」


「それでいいわ」


「そうか。じゃあ始めよう」


その場にいる全員が居住まいを正した。


「じゃあ始めに猛や私の怪我を治したのはどうやったの?」


「へえ、意外だな。てっきりいきなり突っ込んだ質問をしてくるかと思ったんだがな」


「昨日までは私もそうしようと思ってたんだけど、お父さんお話を聞いて考え直したの」


「ふーん、まあいいや。えっとどうやって怪我を治したかだったな。それを説明するにはまず俺の覚醒者アウェイクンとしての能力から話さないといけないな」


「能力って四音君は物質召喚や擬態以外の能力を持ってるの?」


薫の言葉に俺は難しい顔をした。


ちなみに、物質召喚とはこことは別の場所から欲しい物を持ってくる能力のことで、擬態とは人間ではない動物の容姿や力を使える能力のことである。擬態は、普通犬や猫といった動物のことが多いが極稀に妖怪や怪物といった空想上の生き物の力を持つ者がいる。


「うーん、まずはそっからだな。そもそも俺は能力を複数持ってない。大半の覚醒者と同様に目覚めた能力は一つだけだ」


「えっそうなの?」


「ああ。委員長も知っての通り覚醒者ってのは自分の中にある強い想いを現実に使える能力として具現化させた連中のことだ。人には喜怒哀楽と様々な想いつまりは感情があるわけだ。だから、理論上能力を複数持つことは可能だし、現に俺はそういう奴らを知っている。

だけどな、一つですら目覚めるのが難しいんだ。一人で四つも五つも能力を持ってる奴なんかそうそういるもんじゃない。俺が知ってる奴でも持ってる能力は三つが限度だ」


「で、でも実際四音君が複数の能力を使うところをこの目で見たのよ。それはどう説明するの?」


「まあそんな焦るなって、それについては俺が目覚めた能力による副産物みたいなモンだ」


俺は一泊おいてから再び話し始めた。


「俺の目覚めた能力は物質召喚でも擬態でもない。俺の能力は世界中に数多くいる覚醒者の中でも最強の力といわれているもの――捕食者プレデターだ」


「プレデター…捕食者ってこと?それはどんな能力なの?」


「まあ名は体を現すっていうか、そのままの能力だな。こいつは触れたものの存在を喰らうんだ」


薫だけが怪訝そうな顔をした。


「まあ、百聞は一見に如かずってね。雪奈、頼む」


雪奈が何故か持っていた木刀を俺に向ける。


「よく見てろよ、委員長。…閃け」


俺は昨日のように微かに輝きだした左腕で木刀を握った。


「喰らえ」


すると、さっきまで両端を俺と雪奈に握られていた木刀が跡形もなく消えた。


「!?」


「驚いたようだな。まあ無理もない」


「どういうこと。木刀はどこに行ったの?」


「木刀なら今委員長の目の前にあるじゃないか」


そう言って俺は自分を指し示す。


薫は眉間に皺を寄せた。


「ふざけてるの?」


「まあそう言うなって…つまり俺の能力は食事の延長みたいなモンなんだ」


薫は黙って続きを求めた。


「委員長だって毎日食事で物を食うだろ?」


「ええ」


「じゃあ食べた物はその後どうなる?」


「どうなるって胃で消化されて腸で吸収されるでしょ」


「その通りだ。俺の能力も大元はそれと変わらない。こいつは触れたものの存在を喰らって消化して吸収して自分の血肉とするんだ。俺は今木刀の存在を喰らって俺と同化させたんだ。だから、さっきまの木刀は今委員長の目の前にいる俺ということになるわけだ」


「まさか…そんなことが」


「ちなみに、こいつは覚醒者の能力を喰うことも出来る上に、こいつで後から付与されたモンは人間に元々備わってる呼吸とかの基礎能力と変わらない。だから覚醒者の能力を封じる能力を持ってる封印者キャンセラーにも通用する優れモンだぜ」


俺は薫に向かってサムズアップを決める。


「そんな強すぎる能力聞いたことがないわ」


「だから言ったろ、最強の能力だって。まあ俺自身かなりチート過ぎると思ってるけどな。そうそうどうやって怪我を治したかだったな。それはこいつでお前らの怪我の存在を喰って俺に移したんだ」


「移したって、その移った怪我は何処に行ったの?」


「その説明か。それは大分面倒くせぇんだけどな。さて、何から話したらいい…『それは我が話そう』…」


俺の言葉を遮ったのは一昨日、着替え中に更衣室の中に響いた声だった。


「驚くのも無理はない。この声は…『よい。名乗りくらい己で出来る。少し変われ』…そうかよ」


俺は不満そうな声を洩らしながらも言葉に従い目を閉じる。


俺の目が開かれたとき、そこに居たのは俺ではなかった。


普段は眠そうに半開きになっている瞼は開かれ、その中には燃えるような赤い瞳が納まっていた。

髪も瞳と同じ色に染まり、心なしか少し伸びている。

口から吐き出されると息にはまるで猛火を前にしているかのような熱を感じる。


『始めて相見アイマミえるな、娘よ。我の名はカグツチ。この四音に救われた神の一柱ヒトバシラである。先程のお主の問いには我が答えよう』


薫は目の前で起きた現象が理解できなかった。


それはそうだろう。

ついさっきまで話していた友人がいきなり声も口調も変わり神と名乗り始めたのだから。


薫は自分一人では解決できないと思い、後ろにいた猛の方を見た。


猛は薫の意図に気付きその言葉で現実を突き付けた。


「薫の前にいらっしゃるのは正真正銘イザナギ様とイザナミ様の間に誕生した火の神カグツチ様だ」


『おお猛か、久しいな。先日の怪我はもう癒えたのか?』


「はい。四音とカグツチ様のおかげでこの通りでございます」


『そうか。それは良かった。さて娘よ、確か薫と申したな、お主の問いに答えようではないか』


「は、はい!よろしくお願いします!」


薫は急に名前を呼ばれたことに緊張して声が裏返ってしまっていた。


『うむ、四音は神である我を喰ろうたのだ』


「は、はあ。ですがそれが怪我とどのような関係が?」


薫は戸惑いながらも丁寧に聞いた。


『ん、先程の説明で四音の能力については理解したな?』


「はい。つまり四音君は神であるカグツチ様を取り込んで神と同等の存在になったということですか?」


『概ねその通りだが、一つ。神と同等ではなく神そのものとなったのだ。神は絶対の存在だ。故に死ぬことはない。であるから、たとえ傷を負おうとも瞬時に消え去ってしまうのだ。これがお主らの怪我を治した方法だ。納得いったか?』


「はい。わざわざ私のような者のためにご説明していただいたこと、光栄の至りでございます」


薫は深々と頭を下げた。


『うむ。では我は四音の中へ戻るとしよう』


再び四音の目が閉じられて髪が元の色と長さに戻った。


そして四音が目を開けた。


「ま、そういうことだ。次の質問は?」


四音に促され、一番聞きたいことを聞けて満足した薫の頭には覚醒者に聞くにはあまりに一般的で稚拙な疑問だった。


「四音君が覚醒者に成った想いとその対象は?」


俺の体はいずれ来るであろうと予想していた質問に反応した。


自分でもこの質問はされるだろうと覚悟はしていたが、いざその場面になるとどうしても身構えてしまうようだ。


「それは…想いは愛と憎悪、対象は…」





「双子の妹だ」





その後、俺は自分の過去を話し始めた。まあ過去と言っても中1からのことだけどな。


薫は初めの内は真剣に聞いていたが、話が俺の家族が殺されて俺が研究所に入れられるあたりのなると、耳を塞いでそれを聞くのを拒絶したが、俺は構わず最後まで話し切った。話が終わってから薫は俺に顔を向けようとしなかった。


放心状態の薫を猛に家まで送ってもらい、俺は残った雪奈と亜久間先生に肩を抱かれていた。


「四音、お前…」


「まあこうなることは分かってましたから。俺は全てを話した。後は委員長次第ですよ」


俺は先生の言葉を故意に遮った。


「じゃあ俺らはこれで失礼します。雪奈、帰ろう」


雪奈は黙って俺の手を強く握ってくれた。

※5月20日改稿

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