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知る者、知らない者  作者: 螺旋の凡人
~第1章~
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第19話 覚悟

結局最後まで相坂(息子)の名前は出てきませんでした。

土煙が晴れると、元の姿に戻った四音と四音の足元で気絶している源次がいた。


最悪の結果を考えていた薫はそれを見てホッと胸を撫で下ろした。


猛はもう一度周りの気を確認してから結界を解いた。


猛の四隅にあった紙切れが燃え上がった。


「生贄系の結界か。ずいぶんと大掛かりなのを張ってたんだな」


「ハッ!今更かよ」


生贄系の結界とは呪術や魔術における結界の一種である。


普通の結界とは違い、術を行使するときに行使する人の呪力や魔力だけでなく、生物を生贄にする必要がある。


生贄となる生物の格が高いほど強力な結界となるのだ。


四音が猛達に近づくと、薫は猛を抱えて四音から遠ざかった。


「ん?」


四音が一歩近づくと、薫は一歩後退る。


「おい委員長、何で逃げるんだ?傷つくだろ」


「だって四音君、あなた……」


薫の目には恐怖の色が滲んでいた。


「ああ、まあ、しょうがねぇか。大丈夫だ。そういうことは慣れてる」


四音はそう言うと工場を後にしようとした。


その背中には悲しみが顔を覗かせていた。


「ちょっと待って!」


薫の声が四音の足を止めるが、振り返らせるには至らない。


薫は構わず、四音の背中に言葉を投げる。


「終わったら知ってること全部話すってさっき約束したわよね」


「ああ、そうだったな」


四音は振り返ると、少しの殺気を込めて薫の目を見据えた。


「大丈夫だ。ちゃんと約束は守るよ。でもな、その前に委員長に確認したいことがあるんだ」


「何?」


四音は一呼吸おいて話し始めた。


「社会が抱える裏ってのはな、委員長が思ってるものより遥かに壮絶なものだ。そこでは法律なんて通用しねぇ。自分を守りたけりゃ、敵を殺すしかない。味方だって思ってた奴が突然裏切るなんてこともあるんだ」


四音は目に込める殺気を強めた。


「そんな裏の社会に一歩でも足を踏み入れたら、もう二度と表の社会には戻ってこられないんだ。もし委員長が興味本位や正義感で俺の話を聞こうとしてんなら、やめた方がいい。絶対に後悔する」


「それでも本当のことを知る覚悟があるなら、俺のところに来い。俺の知る全てを話してやる。ただし、表の社会との決別は済ませて来い」


四音はそう言うと、薫のところに来てパーカーを拾った。


「じゃあ猛、先生には連絡しとくからあとの事よろしくな」


四音は背中を向けるが、猛がそれを止める。


「ちょっと待て。助けるついでに薫の腕も治してくれ」


「分かった。委員長、腕を出して」


薫は言われた通りにまだ痛みの残る腕を四音の前に持ち上げた。


「閃け」


四音の左腕が輝きだす。


四音がその腕で薫の腕に触れると、薫の腕から腫れが消えた。


「うっ」


四音が輝きの消えた左腕を押さえると、左腕が燃え上がった。


「ふぅ、これでいいな?じゃあまた明日な」


四音は帰ろうとしたが、工場の入り口で振り返った。


「委員長、一つ言い忘れてたことがある」


「何?」


「剣道部は俺が守ったぜ」


それだけ言うと四音は今度こそ工場から去って行った。


「今のどういうこと?」


「ん?ああ、あいつ今日の大会で優勝したんだよ。相坂が一回戦の相手でな。四音の奴本気でボコボコにしてたよ。そんで、その勢いのまま決勝なんかたったの十秒で終わらせちまったからな」


「そうだったんだ」


薫の表情が少し和らいだ。


「ねぇ猛」


「何だ?」


「猛は四音君の秘密知ってるんだよね」


「俺だけじゃない。雪奈や先生も、あいつの家族はみんな知ってるぞ」


「…私はそこには入ってなかったんだ」


猛は小さくため息を吐くと、薫の頭を撫でた。


「俺な、あいつの家族になる前に一度だけ喧嘩したんだ。そのとき思ったことがある」


「…」


「ああ、こいつが背負ってるものは俺なんかとは比べ物にならないほど重いものなんだな」


「…」


「それであいつの秘密――過去を知ったとき、俺はしばらくあいつと顔を合わせることさえ出来なくなった。あいつの過去は表の人間には刺激が強すぎる」


「あ、あの…」


「もしお前が俺の口からあいつのことを聞いたら、お前は絶対に一生後悔することになる」


「…」


「あいつの秘密を知るってことはあいつの家族になるってことだ。あいつは家族の敵を絶対に許さない。

もしまた今回のようなことが起きたら、あいつは何の躊躇いも無く相坂達を殺すだろう」


「…」


「あいつは世界が家族の敵になったら、容赦なく世界を滅ぼす。あいつの家族になるにはそれだけの覚悟が必要なんだ」


「どうして猛は四音君の家族になろうと思ったの?」


「俺か?俺は…」


猛は一瞬薫の方を見た。


「お前のためだ。お前を守るためもっと強くあろうと、四音のように本当の強さを手に入れたかったんだ」


猛の顔は真っ赤だった。


「そ、そう」


猛の答えを聞いた薫も顔を赤くした。


それ以降猛と薫の間で言葉が交わされることは無かった。



コンコン


誰かがドアを叩く音で男――化灰善行ケハイヨシユキは読書を中断した。


「入りなさい」


「失礼します」


ドアを開けて部屋に入ってきたのはいつも縛っている髪を下ろした薫だった。


「お父さん」


「薫か、どうしたんだいこんな時間に。僕に何か用かな?」


「お父さんは水引四音君って知ってる?」


「もちろんだよ。薫と同じ剣道部に所属してる彼だろ。今日は大活躍だったそうじゃないか」


「そうじゃなくて…」


薫は顔を俯けた。


「……のこと」

「ん?」


「四音君の裏のこと」


「…知ってるよ」


「だったらどうして捕まえないの?」


善行は黙って本を机に置いた。


「そうか、知ってしまったんだね。君には何も知らないまま、表の社会で生きていてほしかったんだけどね。そう上手くいかないものだ」


「お父さん!」


「分かったから、そんな大きな声を出すものじゃないよ。ご近所さんに迷惑だろう」


善行は薫に座るように促した。


薫は近くにあった椅子を持ってきて、自分の父の正面に座った。


「教えて下さい」


「その前に薫は四音君について何を知ってる?」


「…何も」


「そうか。なら僕が教えられることは一つだけだ。あとは四音君本人から聞きなさい」


「はい」


「よろしい。じゃあ教えてあげる。僕が彼を捕まえない理由を、それはね…」


薫は父の言葉を聞き逃さぬよう気を引き締めた。


「この街の住人が、いやこの街の大人が彼を護ると決めたからさ。それがたとえ世界を敵に回すことになるとしてもね」


善行の目は真剣だった。


薫は一度だけ善行のこの目を見たことがあった。


それは善行が若くして所長に就任する前、一件の覚醒者が起こした事件だ。




場所は週末の人で溢れかえる遊園地、一人の覚醒者が能力を乱用していた。覚醒者は薬物を使っていて手のつけようが無く、取り囲んでいた警察官に射殺の許可が下りた。

他の警察官が躊躇する中、善行だけが引き金を引いた。

銃弾は覚醒者の眉間を貫き即死させた。




そのときと同じ目をしていた。


つまり、善行にとって四音のことを語るには人に向かって引き金を引くのと同じくらいの覚悟を要するのだ。


父の覚悟を目の当たりにした薫はそれがひどくショックだった。


絶対の正義と疑わなかった父が、正義に反することをしていたのだ。


そんな薫に善行は声をかける。


「正直言うと、僕は親として薫にはあまり四音君に関わってほしくないんだ。

でもね、もし薫が本当の正義が何なのか知りたいなら、彼の話を聞くといい。そして、自分のその目で水引四音という人物を見定めなさい。自分の目で見たものだけは決して自分を裏切らない」


薫は父の言葉に顔を上げた。


「まあカッコいいこと言ってるけど、これは僕が昔ある人に言われたことなんだ。彼はとても強く、自分の正義を最後まで貫き通した。僕もいつか彼のような男になりたいな」


善行の目はどこか遠くを見ていた。


薫はそんな父の姿を見て覚悟を決めた。


「さあ今日は疲れただろう。もう寝なさい」


「はい。おやすみなさい、お父さん」


「うん。おやすみ」


薫は晴れ晴れとした気持ちで部屋をあとにした。

大事なことなので二回言いました。

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