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知る者、知らない者  作者: 螺旋の凡人
~第1章~
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第16話 水引流剣術

皆さん忘れているかもしれないので一応言っておきますが、この小説の主人公は猛ではなく四音です。

お間違えの無いよう。

四音は両手をポケットに入れたまま、ゆっくりと工場の中に入ってきた。


「テメェよくも弟を」


見張りに駆け寄った男の一人が四音の前に立ちはだかる。


「あいつお前の弟だったのか。ああ、確かに良く見るとその頭の悪そうな顔はあいつにそっくりだな」


挑発に乗った男は、その頭の悪そうな顔を歪ませて拳を大きく振りかぶり四音に殴りかかった。


四音はそれを体を開くことで難なくかわし、擦れ違う瞬間に男の腹に膝をめり込ませた。


「ぐふっ」


男の体は一瞬ビクッと跳ねたが、そのまま気を失い床に沈んだ。


仲間がやられたことに激情した十人ほどが一斉に四音に襲い掛かったが、四音はその全員の意識を刈り取り、沈黙の闇に沈めていった。


全員を倒し終えた四音は、息どころか服すら乱れておらず、再びポケットに手を入れて猛のところへ歩を進めた。


「おうおう、ずいぶん派手にやられたな。いくら委員長が人質に取られてたからって、これはねぇだろ」


四音はそう言って猛の傷の具合を診ていった。


そんな四音に薫は涙で顔をグチャグチャにしながら懇願した。


「お願い四音君、猛を助けて!血が…血が止まらないの!」


薫の言う通り、猛の周りには猛の出血による血の池が形成されつつあった。


そんな猛を四音は嘲笑う。


「ハハッてめぇの血で溺れてりゃ世話ねぇな。チョッ!そんな顔でして睨むなよ、委員長。安心しろ何とかするから」


「何とかってどうするの?」


薫は四音に詰め寄った。


「まあ何とかだよ。いいからちょっと離れてくれ」


四音は薫を押しのけて猛の傍らに屈んだ。


「…」


四音が何か囁くと、四音の左腕が微かに輝きだした。


「えっ!」


薫は今目の前で起きた現象が信じられず、驚きの声を上げた。


四音がその左腕で猛の体に触った。

たったそれだけで猛の怪我は、初めから存在していなかったかのように消え去った。


「これでよし!まあ怪我は消えたけど、この出血だからしばらくは絶対安静な」


四音は立ち上がり、薫の方を向いて言った。


「な、何なのよこれは。いったい何をしたの!」


「何って治療だよ。ご不満か?」


「違うわよ!どうやったのか聞いてるの!」


「いいじゃねぇかそんなことはよ。猛の怪我は消えた。はい、お終い!」


「いいわけないでしょ!ちゃんとどういうことか説明して!」


「ったく、しょうがねぇ…うっ!」


四音は急に蹲り、頭を押さえて苦しみだした。


「えっ何?どうしたの?」


薫が駆け寄ると、四音は頭から出血していた。


「う、うう、うわぁ…いってぇ」


「ちょ、ちょっと!今度は何よ!」


しかし、薫が四音の頭を覗いたときにはそこに出血するような傷は無く、さっきまで流れていたはずの血も跡形も無く消えていた。


頭が混乱して呆けている薫を尻目に、四音は何事も無かったように立ち上がる。


「ふぅ、全身打撲に両腕の骨折、頭蓋に亀裂、内臓もいくつか損傷、か。よくこんな状態で生きてたな。普通なら死んでてもおかしかねぇぞ」


四音はブツブツ言いながら猛に向き直った。


「まあ能力・・を使ってたんだろうな。ったくどんだけ委員長のこと好きなんだよ」


そのとき四音の言葉に応えるがごとく猛は目を覚ました。


「ん、四音か?ずいぶんと遅い到着だな。最速(・・)で来なかったのか?」


「うるせぇ。文句なら浅井に言いな。あいつの連絡が遅かったんだ。それに無茶言うな。街中でそんなこと(・・・・・)出来る訳ねぇだろ」


「ハハそれもそうだな。薫は無事か?」


猛は首だけを動かして薫の姿を探した。


「猛!」


薫は四音を押しのけて猛に抱きついた。


「おお!無事だったか。良かった」


「…心配したんだから」


「ああ悪かったな。ご覧の通り何とか生きてるよ」


薫はたまらず、その場で泣き出してしまった。


「良かったな、猛。お前はちゃんと委員長を守りきったよ。それよりお前の方はどうだ?」


「ん?ああ痛みはまったく無いな。でも倦怠感が半端ねぇな」


「そいつは出血のせいだろうから、俺にはどうしようもねぇよ。帰ってから委員長の手料理でも食って、さっさと血を作れば問題ねぇだろ。それまではしばらく安静にしてろ」


「そうか。ありがとう」


猛は薫を抱く力を強めて四音への感謝の言葉を口にした。


「ハッ!礼なんかいらねけよ。俺は家族を助けたかっただけだからな。おい委員長!いつまでも泣いてないで、こいつを端に連れて行ってくれ」


「う、うん。わかった」


「ちょっと待て」


薫が猛に肩を貸そうとしたとき、猛がそれを手で制した。


「今度はなんだよ」


「いいからちょっと耳貸せ。相坂についてだ。あいつはたぶん……」


猛は自分の推測を四音に耳打ちした。


「おいおいそれはホントか?」


「ああ、たぶんな」


「はあメンドくせぇな。でもまあ、そのおかげで事後処理は楽になるかな」


「おいまさか全投げするつもりか?はあお前は楽天的でいいな」


猛が呆れたように言った。


「まあな。それが俺の唯一の長所だから。じゃあ委員長、猛のこと頼んだぞ」


「うん」


四音は猛のことを薫に任せ、相坂の方へ顔を向けた。


「随分と待たせちまってわりぃな。つか相手の準備が整うのを待つってどんだけ間抜けなんだよ」


相坂は既に自分の手下の三分の一がやられているというのに、今だその余裕のある表情を崩さないでいる。


「事実余裕だからな。こっちはやられたとは言えまだまだ半分以上残っているが、そっちはたったの三人、内二人は戦える状態じゃねぇからな。それにオレにはコイツがある」


そう言って相坂は見せびらかすように四音に向かって銃を構えた。


「ははーんなるほどね、パパに貰った自慢のオモチャってわけだ。その上、パパが後ろ盾になってくれるから何をしても大丈夫ってか。どんだけファザコンだよてめぇ」


パァン!


工場内に乾いた発砲音が響き、弾丸が四音の頬を掠めた。

四音の頬に血が一筋流れた。


「今外したのはワザとだ。あんまりナメた口は聞かない方が長生きできるぞ」


四音は頬の血を拭い、下を向きながら体を振るわせた。


「ハハッどうした?ビビッて声も出ねぇか」


「「「ハハハハッ」」」


「アーハハハハハハハハハハハ」


男達の笑い声の中、四音は急に体を大きく仰け反らせ、狂ったように笑い出した。


「な、何が可笑しい!」


相坂が声を荒げて聞くと、四音は笑いを止めて相坂をその視線で貫いた。


「いやーお前の今の様子があまりにも滑稽でよ。危うく笑い死にするところだった」


「テメェ…」


四音の挑発に腹を立てた相坂は、四音に向かって引き金を引いた。


パァン!


しかし、四音は体を開くことで弾丸をかわした。


四音の後ろで鉄筋に当たった弾丸が弾けた。


「なっ!」


工場内にいる四音以外の全員が今目の前で起きた現象に動揺した。


四音は相変わらずパーカーのポケットに手を入れたままだ。何か特別なことをした様子は無い。


「あ、ああ」


相坂は急に目の前にいる生き物が恐ろしくなった。


「うわああああああ」


相坂は四音に向かって銃を乱射した。


しかし、弾丸が四音を傷つけることが無いまま、弾倉が空になってしまった。


「どうした。もう終わりか?なら今度は俺の番だ」


そう言うと四音は右手の親指と中指を合わせ、そして力強く打ち鳴らした。


パァァン


男達は周りを警戒したが特に何が起こるわけでもなく四音に向き直ると、四音の様子に若干の違和感を覚えた。


そして、男の一人がその違和感の正体に気づいた。


「木、刀?」


男の呟きに全員の視線が四音の左手に集まる。


四音の左手には木刀が一本握られていた。


「テメェいったいドコからそんなモンを!」


相坂は木刀を指差しながら叫んだ。


「冥土の土産ってやつだ。いいこと教えてやるよ。俺は……」





「覚醒者だ」


そう言って四音は居合いの構えを取った。



やっと動き始めた四音を見て猛は囁いた。


「よく見てろよ、薫。あれが四音の本気だ」


「本気?」


「ああそうだ。本気のあいつはあまりにも理不尽で、残虐で、孤独で、そして何より…」





「最強だ」



四音は木刀の柄に右手を添えて、相坂達ににじり寄る。


「水引流剣術、壱ノ型、不忍」


相坂は四音から溢れ出る殺気を感じて、慌てて隠し持っていたもう一丁の銃を懐から出して四音に向けた。


しかし既に四音はそこには居らず、四音の木刀による一閃で相坂の銃はバラバラになってしまった。


そこで次の攻撃の身構える相坂だったが、四音は元の位置に戻っていた。


その後も四音は所謂ヒットアンドアウェーを繰り返し、確実に相坂の手下を減らしていった。


そして、動ける者がさらに半分になったところで四音は一旦木刀を納めた。


「やっぱ“量”相手すんのにこの型はキツいな」


すると四音は再び指を鳴らして、今度は小太刀の木刀が四音の左手にあった。


「これで、よし。じゃあ次行くぜ。水引流剣術、弐ノ型、大蛇」


しかし、四音の初動は思わぬ攻撃によって遮られた。


パアン!


突然四音が足から血を流して苦しみだしたので、全員が発砲音のした工場の入り口に顔を向けた。


そこには五十人以上のスーツを着た若い男達とこちらに銃口を向けている中年の男がいた。


「親父!」


相坂の言葉に猛が反応した。


「あいつが父親か!」


相坂の父親は銃を降ろし、四音のところまで歩いていった。


「どうもこんばんは。私は相坂源次アイサカゲンジだ。ウチのバカ息子がお世話になったようだね」


「ああそのようだ。しっかりとあんたの馬鹿なところを遺伝しちまったようだな」


四音は痛み堪えて立ち上がり、皮肉を言いながら源次を睨み付ける。


パアン!


再び工場内に発砲音が響いた。


四音は先程とは違う方の足を押さえている。


「フンッまったくだ。ほとほと困っているのだが、残念ながらあれでも私の息子でね。落とし前はつけさせてもらおう」


四音は足から出血するのも気にせず、なんとか立ち上がる。


「ハハッガキ同士の喧嘩に首突っ込むとか、あんたはあれか?最近流行りのモンスターペアレントか?」


「…」


源次は四音の頭へと銃口を向けた。


「マズい!薫、見るな!」


パァン!


源次は何の躊躇いも無く、銃の引き金を引いた。


「い、いやあああああああああああああぁぁぁぁぁ」


猛の制止も間に合わず、四音の頭が飛び散る様を見てしまった薫の絶叫が工場の中に響いた。


四音の体は打たれた勢いで背中からドサリと地面に倒れた。


四音の手から落ちた木刀は跡形も無く消え去った。



あらすじにもありますが、覚醒者はアウェイクンと呼んで下さいね。

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