第15話 告白
やっと今の話の佳境に入りました。
ここまで長かったー
猛が襲われ始めてからすでに三十分が過ぎようとしていた。
猛は着ていた制服は破れ、頭からは血を流し、目の焦点も合ってはいない。
そんな猛を周りの男達は猶も嬲り続けた。
ある者は殴り、ある者は蹴り、中には鉄パイプを持っているものまでいた。
「お願いもう止めて!それ以上やったらホントに死んじゃう!私ならどうなったっていいから!お願い!」
薫の必死の叫びが通じたのか、男達は猛の嬲る手を止めた。
気持ちの悪い笑みを浮かべた相坂が薫に聞いた。
「本当にどうなったっていいんだな?」
「…構わないわ」
すると相坂はその笑みを強くした。
「そうか。じゃあここにいる全員と一発ずつヤラせろや」
相坂はどういう意味か理解出来ていない薫の手を取って自分の股間を触らせた。
「何を!」
「コイツを助けて欲しいんだろ?だったらオレら全員のココを満足させろって言ってんだ。どうだ?悪くない取引だろ?」
「…………分かったわ」
薫はその取引に応じた。
「取引成立だな。もうキャンセルは出来ねぇぜ」
薫は弱弱しく頷いた。
「ハハッみんな聞いたかよ。コイツがヤラせてくれるってよ。さあ一番は誰だ?誰からだ?」
工場の中が男たちの汚い言葉で満たされる。
「オレが行く!」
「いや、俺だ!」
「ふざけんなよ!」
「おれに決まってんだろ!」
そんな中一人の男の声が工場内を支配した。
「フッザけんなあああぁぁぁぁ!!!!!!」
全員の視線がその男に集中する。
その声の主は満身創痍で足元も覚束ない猛だった。
「そんなこと認めるわけねぇだろ。そいつは俺の女だ。誰にも手出しはさせねぇ。
指一本でも触れてみろ。そんときは俺がてめぇらをブッ殺すぞ!」
猛の言葉には有無を言わせぬ迫力があった。
それから猛は視線を薫に移し、悲鳴を上げる体を引き摺りながら薫の前までやってきた。
その間、猛は自分を取り囲んでいる連中には目も暮れず、その怒りの籠もった目は薫だけを捉えていた。
「お前はまた何をフザケたことを言ってるんだ。俺を助けるために犠牲になるだ?俺に今助けが必要に見えるか?俺が殺されるとでも思ったか!」
「だ、だってあんなに殴られて、血も流して、それで……」
猛は遂に我慢の限界が来た。
そして、昼間にそうしたように薫の頬を叩いた。
パァン
工場内に乾いた音が響く。
それは力こそ弱かったが、薫が今まで受けた打撃の中で一番強烈なものだった。
薫は殴られた頬を押さえ、猛に向き直る。
猛は薫の肩を掴み、大きく息を吸った。
「どうしてお前は一人で背負っちまうんだ!お前の周りには誰もいねぇのか?いるだろうが!俺が、四音が、雪奈が、先生が!それじゃ不満なのか?そんなに俺達は…俺は頼りねぇか?」
だんだんと声に力が無くなる猛の目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。
それを見た薫は体の内から込み上げて来る何かを堪えることが出来なかった。
「俺にとってお前は大切な人なんだ。大切な人を守りたいと思うのは当然のことだろ?」
猛は肩の手を背中に回し、力いっぱい抱き締める。
「俺にお前を守らせてくれ」
猛は体を離し、薫の目を見つめた。
「お前のことが好きだ。愛してる。だからあんなこと二度と言わないでくれ。自分を犠牲にするなんて二度としないでくれ。お前のことはこの先一生俺が守ってみせるから」
「私は……」
薫が口を開いたとき、急に猛は崩れ落ちた。
猛が居なくなったことにより開けた薫の視界には、鉄パイプを振り下ろした姿勢の相坂がいた。
「もうキャンセルはできねぇって言ったろ。テメェはそこで寝ながらコイツが犯されてるの見てるしかねぇんだよ」
そう言って薫の腕を掴もうとする相坂の手を猛が弾いた。
猛は先ほどの一撃を頭に受けて、出血のせいで片目が塞がっている。
それでも相坂を弾く手は力強かった。
相坂はもう一度パイプを振り下ろした。
猛はそれを左腕で防いだ。
ボキッ!
猛の左腕から何かが折れる音がした。
相坂はさらにパイプを振るう。
今度は右腕でかわした。
相坂は両腕を潰されて防ぐ術の無い猛に容赦なく鉄パイプを振り下ろした。
猛はそれを頭に受ける。
「猛!」
叫ぶ薫に猛の体が力無く寄り掛かる。
誰もが猛の死を確信したとき、猛は最後の力を振り絞って薫を抱き締めた。
薫を守るために、何処にも行かないように、何処にも連れて行かせないようにその傷だらけの腕で優しく薫を包み込んだ。
相坂はそこに何度もパイプを打ち付けた。
猛はそのすべてを自分の体で防いでいる。
「俺は霊力やら呪力なんかを一族で一番強く受け継いじまったんだ」
突然、猛が薫にしか聞こえない声で話し始めた。
「そのせいで俺は将来、親父の仕事を継ぐ未来しか与えられなかった。物心が付く前から毎日毎日修行ばかりやらされていたよ。
俺はガキでな、そんな決められた生き方なんてクソくらえって思って修行を抜け出して暴力を振るうようになった」
それはまるで薫に向かって懺悔をしているかのようにも見えた。
「自分が間違ってることは分かってた。でも、止められなかった。俺にはもう帰るところが無かった」
猛の懺悔は続けられた。
「そんな俺のことをお前は叱ってくれた。友達が離れていって親父からも見放された俺をお前はいつも気にかけてくれてた。お前だけは隣りにいてくれた。
お前がいてくれたおかげで俺は今ここにいられる。俺はお前に人生の恩がある」
猛は薫から引き剥がされ、男たちに囲まれた。
そして、相坂が今度こそ確実に猛に止めを刺すために、懐から“ある物”を取り出した。
それはバネ仕掛けで金属同士を打ち合わせ、それによって生じた火花で火薬に着火し、鉛の玉を高速で打ち出す装置
簡単に言うなら銃である。
さすがにそれには驚いたようで、男たちに動揺が走る。
「あ、相坂さん。そんなモノ何処で手に入れたんで?」
「これか?これはな、親父が貸してくれたんだよ。なんでも今度からこれを扱い始めるらしいんだ。それで試し撃ちを頼まれたんだ」
相坂は撃鉄を起こし、銃口を猛の頭に向けた。
「最高の的だぜ。これなら親父にもいい報告ができそうだ」
(銃?親父?そうかこいつ、亜久間組の……)
引き金に掛けられた指に力が入る。
薫はもう駄目だと思って目を瞑った。
ドオォォォン!!!
凄まじい音と共に見張りの男が扉と一緒に中に吹っ飛ばされてきた。
数人の男が慌てて見張りに駆け寄る。
「どうした!何があった!」
「あ、あいつが……」
見張りは入り口の方を指差して力尽きた。
その場にいた全員の視線が入り口に集まる。
そこには先程までの胴着からいつもの服装に着替え、ドレードマークであるパーカーのポケットに両手を突っ込みながら、もう一人の見張りの顔面を踏みつけている四音がいた。
四音は見張りから足を下ろして、工場の中を見渡した。
そして最後に猛と薫を見て口を開いた。
「よう。遅くなったな。とりあえず相坂とか言ったか?てめぇは生きて帰れると思うなよ」
四音の目には静かな怒りが燃えていた。




