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matataki  作者: 大橋 秀人
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忘れ去られた道

瞬くと、ガードレールの切れ間にひっそりと口を開ける側道を見つけた。




どこにつながっているかわからないまま、時間に追われ直線距離が近いだろうはずの小道へ侵入した。




いいおっさんが目一杯に自転車を立ちこぎしている。




急がねば三男のお迎えに間に合わない。




昨今の幼稚園のお迎えは時間が厳格に決められている。




それも、14時05分から14時20分というわずか15分の間に行かなければならない。




はじめに聞いたときは冗談だと笑い飛ばしたが、園が始まるとどうやらそれが大真面目だったことが証明された。




とにかく親は一時的に園に集中して我が子を迎えに来ていた。




だから、油断して午睡などしようものなら、あっという間に時間オーバーしてしまう。




1分でも過ぎたら延長保育料がかかるシステムとなっているから、なんとしてでも間に合わせてと妻から厳しく仰せつかっているのだ。






「パパおそーい」




生意気を言うようになってきた年長さんが抱きついてくる。




息子の頭を撫でながら呼吸を整えた。




「パパ、今日は家から幼稚園まで、今までで一番早くきたんだぞ」




自転車の後ろに座る三男に半ば振り返りながら嘯いてみる。




「なになに? どうして?」




この年代は、一番速いことに執心しているからな。




覗きこむように訊ねてくる子どもを尻目にニヤリとする。




「実はな」




そう言って、ちょうど入り口に差し掛かった例の小道に入り込んだ。




「なにここ?」




普段と違うことに敏感な幼稚園児は、珍しそうに辺りを見渡す。




車で毎日のように通りすぎている道も、視点が変わるだけで別世界に見えるものだ。




「そうだな。ここはーーー」




改めて見渡すと、思いがけず懐かしい風景が目に飛び込んできた。




田んぼを挟んで向かいに、鬱蒼と繁る森があった。




その中で一際目を引く一本の木に目を奪われる。




背の高い、でも重々しく枝を方々に垂らした、どこか不気味な木。




「ここは、パパが小学生の時に通っていた道だった」




自分に確認するようにそう呟いた。




次の瞬間、当時の思い出が次々と甦ってきた。




夕立と追いかけっこした真夏のある日。




お腹が痛くて早く帰りたいのに、道のりが長過ぎて半泣きになったこと。




帰りが遅くなって薄暗くなった時、例の不気味な木が一層恐ろしく感じて走り出したこと。




「ずっとそばにあったのに、いつの間にか気にも留めなくなってたんだな」




田んぼの真ん中に四車線の道路が通り、必然的に通る機会が減ったんだっけ。




農道は時を経た分だけ放置されているのか、昔よりアスファルトが割れ、草があちこち飛び出していた。




車が行き交う新道が遠く、どこか置き去りにされたようだった。




「パパ? この道いいね」




自分の心証とは裏腹に、息子は満面の笑みを向けてきた。




「なんだか、ヒミツの道みたいでドキドキする」




なるほど、キレイに舗装された道ばかり通っている子どもには、荒れ放題の旧道がスリル満点のワイルドロードに映るらしい。




「よしわかった」




どういう訳か無性に心が踊り出した。




「しっかり捕まってろよ」




そしてデコボコ道もお構いなしにペダルを力の限り漕ぎ出したのだった。



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