天気予報は雨だけど
瞬くと、頭上に迫る曇天から、ポツポツと雨粒が落ちてきた。
天気予報は雨の確率が80%だったから、学校が終わるまで持ちこたえただけすごい。
そんなことを考えながら呑気に自転車を漕いでいた。
傘を差した同窓生たちに何度も追い抜かれる。
たまにクラスメートに見つけられ、気の毒そうに言葉を掛けられた。
河川に跨がる橋をノロノロと渡っていると、よく空の模様が見て取れた。
「忘れたの? 傘」
本格的に降りだした頃、後ろから声を掛けられた。
並走しだした自転車には、特に仲が良い訳でもないのに帰り道で良く会う同級生が乗っていた。
ネコみたいな笑い方をする。
それがその子に対して抱いている印象だった。
「おう。おまえもか」
湿り出した髪を気にする素振りも見せず、女子は自分と同じようにペダルを漕ぐ。
「濡れるぞ」
さして興味がない風に前を向く。
「君もね」
ちょっと横目で伺うと、切れ長の目を細めながらどこか楽しそうに微笑みを湛えている。
「おまえのうち、近いの?」
その問いに女子は黙って首を振る。
「じゃーずぶ濡れじゃん」
今度は頷く。
「早く帰れよ」
淡いブルーの夏服が、肌にへばり付いている。
どうしてどんどん濡れているのに、この子は動じないのか。
「もう遅いでしょ」
そう言って笑う。
「見てこなかったの? 天気予報」
今度は質問される。
「見てたよ」
「じゃーなんで」
その問いの答えは明らかだったが、まともに答えれば笑われるとわかっていたから、曖昧に肩を竦めてみせた。
「わざとでしょ」
いきなり声色が変わった同級生に、思わず顔を向けてしまう。
女子はニヤリと満足げに笑い、こちらは少しムカついた。
「そっちだって、見てなかったのかよ」
「いや?」
「だったらおまえーーー」
もしかしたら、この子も濡れるのが好きなのかも。
そんなことを考えると、急に恥ずかしくなってきた。
「ねえ、歌わない?」
「はい?」
「雨の中で歌うと気持ちいいんだよ?」
不思議ちゃんは割りと本気でそんなことを言い出す。
「大丈夫。みんな帰ることに夢中で聴いてないから」
そして自信満々な笑顔を向けてくる。
たしかに今、世界は雨に遮断され、二人だけな気もしてくる。
間断なく車は行き来していたし、前後に同校生はいたのだけれど。
「いや、帰れよ」
それでも僕はすっとぼけて帰りを促す。
「これ以上濡れたら、ブラジャー見えちゃうぞ」
そうやって女子を脅す。
「男子ってそんなとこ見てんの?」
さいてーと言った割りに楽しそうに笑う。
濡れた黒髪から滴った雨粒が首筋を伝っていく。
いや、もうマジで帰ってくれないか。
そうしないと本当にーーー。
「じゃ、また明日ね!」
そう思った矢先に、同級生は角を曲がって行ってしまった。
彼女は別れるや否や、物凄い勢いで立ち漕ぎを始めた。
僕は呆然と後ろ姿を目で追った。
そして揺れるスカートを眺めながら、恋に落ちたのだと思った。




