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孤独の人魚姫  作者: K女史
1/15

1、成人の儀式

あらすじを書かれたK女氏から、小説に仕立ててなろう様で公開することの許可をいただいています。

主人公が16歳という年齢の割に幼いです。ですが話が進むにつれて大人になっていく予定です。

 プリンズランド──陸にほど近い位置に広大な領土を構える人魚の国。

 数ある人魚の国の中でもっとも栄えているといわれているこの国では、この日、国をあげてのお祭りが催されていた。

 プリンズランド王の末の娘、第八王女サーシアの16歳の誕生日だからだ。

 16歳といえば、人魚の国では成人する歳にあたる。

 だが、この日サーシアは子どものようにふくれっつらをしていた。


「つまんなーい! わたしのためのお祝いなのに、遊べないなんて!」

 駄々をこね、椅子に座ってピンク色の尾ひれで床を叩くサーシアを、世話係のリリアが苦笑してなだめた。

「サーシア様のお祝いだからこそです。サーシア様が式典や催し物に出席してくださらなければ、お祝いは始まりませんわ」

 リリアは、サーシアの艶やかで豊かに波打つ、ストロベリーブロンドを丁寧にくしけずる。

「父さまの誕生日の時は、お忍びで遊びに出れたのにぃ」

 サーシアは目の前の鏡越しに、茶色の癖っ毛を頭の後ろできっちりまとめたリリアに口をとがらせる。リリアは小さくため息をついた。

「サーシア様は今日で大人になられるのですから、あまりわがままをおっしゃってはいけませんわ」

「うー……」

 小さく唸り声を上げて、サーシアは黙り込む。

 サーシアにとって、四歳年上のリリアは一番身近な存在だった。末っ子で、小さい頃に母親を亡くしたため母の側仕えをしていたリリアの母親に育てられたが、かわいそうかわいそうと言って甘やかす母親に代わって、サーシアのわがままをたしなめてくれるのがリリアだった。また、“ここまでならいいだろう”と判断したわがままには付き合ってくれた。誰よりも側にいて身の周りの世話をしてくれるリリアのことをサーシアは信頼していて、リリアが頑として許してくれないことは、しぶしぶながらも言うことを聞くようにしている。

 ぶすくれていると、後ろのほうから声をかけられた。

「おやおや。お姫様はご機嫌斜めかい?」

「あ、セラ様……」

 サーシアより先に、リリアが声をかける。

 セラはこの国の有力貴族の息子で、サーシアより六つ年上で幼馴染の間柄だった。サーシアの世話係や父王や兄姉以外でただ一人、ここ、サーシアの私室に入ることを許されている。

 青みがかった銀髪を水流になびかせながら、青色の尾びれを緩く動かして移動し、リリアの横に並んでサーシアを鏡越しにのぞき込んだ。

「せっかくの誕生日にそんなぶすくれた顔をしていたら、しあわせが逃げてしまうよ?」

 サーシアは顔を赤くし、それからぷうっと頬をふくらませる。

「ぶすくれた顔なんてしてないもん!」

「ははっ、そうやって怒ってる顔がぶすくれてるっていうんだよ。国中のみんながお祝いしてくれてるんだから、今日くらいわがまま言わずにずっと笑顔でいたら?」

「わがままなんか──」

「言ってたんだろ? サーシアがぶすくれた顔をしてる時は、たいていリリアにわがままを止められた時だ」

 セラに笑顔で図星をさされて、サーシアはまたうなって黙り込むしかなくなる。

「そうそう。サーシア、君を呼びに来たんだった」

「え? まだ“成人の儀式”が始まる時間じゃないでしょ?」

 成人を迎える16歳の誕生日には、“成人の儀式”と呼ばれる儀式が行われる。それは人魚を一目でも見ようものならやっきになって狩り出そうとする危険なニンゲンを見に行く儀式で、人魚は大人になると海の上に出てもいいことになるので、十六歳の誕生日を迎えると必ず大人と一緒に一度は見に行かなくてはならないことになっている。そうして危険な場所を教えられ、どういう時に見つけられてしまうかをしっかり頭に叩き込まれて、ようやく一人で海の上に行くことを許され、大人になったと認められるようになる。

 海の上の世界には興味があるけど、サーシアはいろんなことを覚えなくてはならないその儀式には、始まる前からうんざりしていた。

 サーシアのどんよりした気分を察して、セラは苦笑する。

「“成人の儀式”の前に王様が大事な話をしたいとおっしゃってるんだ」

 それを聞いて、サーシアは眉間にしわを寄せた。

「えー? それってお説教?」

「サーシアは何かお説教をされるようなことでもしたのかい?」

「してないけど……儀式のことで何かくどくど言われそう……」

 サーシアは頭を抱える。

 だから気付かなかった。サーシアの後ろで、セラとリリアが鏡越しに悲しげにほほえみ合っていたことに。



 気が進まないまま、サーシアはセラに連れられて父王の私室に向かった。

 父王はプリンズランドを長きに渡って平和的繁栄に導いてきたことから、国中の民から信頼され慕われている偉大な王だ。まつりごとを行う時は威厳を持って厳しい処断も下すことのあるこの王も、年がいってから授かった末の王女にはめっぽう甘く、かなりの心配性になる。忙しいためめったに会えないせいか、会えば必ずと言っていいほど心配だ心配だという話になる。

 今回の呼び出しも、成人の儀式のことで心配になったからだろう。無茶をするな、ちゃんと教えに従えと口酸っぱく言うに違いない。

 そう思って父王の前まで泳いでいったサーシアは、思わぬことを言われて目を丸くした。

「え? 結婚──?」

「そうだ。おまえも今日で大人になったことだし、成人の儀式の前に行われる宴の席で、セラとの婚約を発表しようと思う。結婚式は一カ月後だ」

「ちょ、ちょっと待って! まだ結婚してない兄さまや姉さまもいるのに何で!?」

 焦るサーシアに、父王は白髪の混じるようになった長いあごひげをなでつけながら、重々しく答えた。

「おまえは16歳にもなったのに、危なっかしくていかん。結婚をしてセラの妻としての責任を果たすようになれば、少しは落ち着けるようになるだろう」

「そんな……!」

 父王の横暴に、サーシアは愕然とする。


 サーシアには夢があった。

 16歳になったら社交界に出られるようになる。そうしたら素敵な人と知り合って、とびっきりの恋をしようと。

 でも、結婚したら恋なんかできなくなる。

 セラが結婚相手?

 考えられない。セラは小さい頃からリリアと三人で遊んできた幼馴染で、兄のように慕っているけど恋愛対象にはならない。

 それはきっと、セラも同じはず。


 一緒に反対して……!

 すがるような思いで振り返ると、セラはあきらめたような笑みを浮かべて肩をすくめた。

「まあ、観念することだね。──王様には誰も逆らえない」

 それだけのことだったけど、わかってしまった。セラはサーシアのことを愛してるわけじゃないのに、王に命令されたから仕方なく結婚することにしたのだ。

 怒りがふつふつと込み上げてきた。結婚を強要する父王にも、仕方なくそれに従うセラにも。

 サーシアは父王に向きなおり、鈴を鳴らすような愛らしい声を大にして怒鳴った。

「絶っっ対、嫌!!!」

 そして王の私室を飛び出していく。

「サーシア!」

「放っておけ」

 サーシアを追いかけようとしたセラを、王は声をかけて止めた。

「そのうちにわかる。セラ、小さい頃から親しかったおまえと結婚することが、一番幸せなのだと」

 セラは困ったような顔をして遠慮がちに言った。

「そうかもしれませんが、今放っておいたら危ないような気がします。サーシアは嫌なことを強要されて、それを黙って受け入れるような子じゃありません。下手をすると誕生日のお祝いのために厳重な警戒下にあるこの城から抜け出して、成人の儀式もすっぽかすかもしれませんよ?」

「あ……」

 その可能性に気付かされ、普段厳めしい顔をすることで威厳を保っている王は、ぽかんと口を開け間抜け顔になる。


 そうして、城内外をひっくり返すほどの大捜索が始まった。



 その頃サーシアは、セラが心配した通り城を抜け出していた。小柄なサーシアなら通れる抜け道があって、誰にも知られていないために、厳重な警備もやすやすとかいくぐってしまったのだ。

 絶対結婚なんかしないっ!

 成人の儀式もすっぽかすつもりで、サーシアはまっすぐ上を目指して泳いでいた。海底に沿って泳いでいると、夜通し行われるお祝いの光に照らされて、すぐに見つかってしまう。そのため上に向かうしかなかった。


 怒りに任せて泳ぎ続けたため、うっかり海の上に顔を出してしまう。

 儀式もまだ済ませてないのにと怖くなったが、サーシアは怒りを思い出して怖さを振り払った。

 父さまがいつまでもわたしを子ども扱いするからいけないのよ!

 心配されなくったって、自分のことは自分でちゃんとできる。

 一人で海の上に出たからって、ほら、怖いことなんか何にもない。

 初めて見る海の上の世界は、サーシアが知らなかった輝きに満ちていた。空に浮かぶのは、大きくてまあるい光。水面が揺れてきらきらと光を反射し、海の底よりはるか遠くまで見渡せる。

 陸地の、高い崖の上にそびえ立つ城。サーシアを挟んで反対側には、海の上に大きな何かが浮かんでいる。そこから陽気な音楽が聞こえてきて、サーシアは興味を引かれて、そちらに向かって泳ぎ始めた。

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