崩壊した理科室と、あっけない死の承認
AIを使って自分が読みたかった小説を作ってみました。
ストックは現在7万文字です。
是非、読んでみてください。
「――いいかお前たち。理科の実験で最も重要なのはな、固定観念にとらわれない『仮説と検証』の繰り返しだ。教科書に書いてあることを鵜呑みにするな。自分の目で見て、手を動かして得た結果だけが真実なんだよ」
古びた中学校の第二理科室。
黒板の前で白亜のチョークを滑らせ、朗らかな声を響かせていたのは、理科教諭の志渡海人だった。
志渡海人、四十二歳。
中肉中背で、どこか温和で親しみやすい顔立ちをしている。若い頃はそれなりに女性からモテた時期もあったが、気づけば独身のままこの歳を迎えていた。両親は既に他界しており、兄弟もいない天涯孤独の身である。
だが、彼自身に悲壮感など微塵もなかった。
一度自分の好きな分野に没頭すると寝食を忘れるほどの熱中体質であり、そのオタク気質が遺憾なく発揮される彼の授業は、「面白くてめちゃくちゃ分かりやすい」と生徒たちから大評判だった。保護者からの信頼も厚く、彼自身もこのつつましくも充実した日々を気に入っていたのだ。
そして何より、彼には密かな趣味があった。
夜、一人きりのアパートで読む異世界転生もののライトノベルだ。現実の物理法則を魔法という未知のエネルギーで書き換える世界線に、理科教師としてのロマンを抱かずにはいられなかったのである。
そんな平和で平穏な日常は、ある放課後、あまりにも唐突かつあっけなく崩れ去った。
夕暮れ時の理科室。翌日の授業で使う薬品の整理をしていた志渡の足を、突如として猛烈な横揺れが襲う。
「――くっ、地震か!?」
咄嗟に身を低くしようとしたが、運悪く揺れによって試薬棚の上段から複数の薬品瓶が滑り落ちた。過酸化水素水と金属粉末、さらには有機溶剤の瓶が同時に床で割れ、凶悪な反応を起こす。
直後、目を覆うような眩い光と、理科室全体を吹き飛ばすほどの凄まじい爆発事故が発生した。
志渡の意識は、激痛を感じる間すらなく、一瞬で真っ黒な闇へと呑み込まれた。
◇
「……ん……う……?」
次に志渡が目を覚ました時、そこは上下左右の感覚すら曖昧な、一面の真っ白い空間だった。
自分の身体を見下ろすと、爆発に巻き込まれたはずなのに傷一つない。ただ、実験時に羽織っていた着古した白い実験用白衣――ポケットにペンを刺し、袖口が少し焦げたお気に入りの白衣だけは、そのまま着たままであった。
『すまん! 真にすまん志渡海人よ! 私の不注意で、君を巻き込む爆発事故を起こしてしまった……!』
突如として頭上から降り注いだのは、神々しくも平謝りする「神」を名乗る存在の声だった。
どうやら神が世界を監視する過程でほんの少し手元を狂わせ、それが原因で局地的な地震と化学反応が重なり、志渡の命を奪う結果になったのだという。
「……はぁ。なるほど……」
志渡は白衣のポケットに手を突っ込み、深く溜め息をついた。
(嘘だろ……僕、死んだのか。四十二歳、独身、天涯孤独のまま、理科室の爆発事故で木端微塵か……。悲しいな。いや、めちゃくちゃ悲しいぞ。これから観ようと思ってたアニメの最終回も観てないし、来週の給料日で買おうと思ってた専門書もあったのに。僕の人生って一体何だったんだろう……)
志渡の心の中に、暗くどんよりとした悲観的な思いが津波のように押し寄せてきた。自分が死んだという残酷な現実。自分の人生のあまりのあっけなさ。独身で誰も看取ってくれなかった寂しさ。
しかし――次の瞬間、志渡の脳内で「ラノベ好きの元理科教師」としての別のスイッチがカチリと入った。
(……まあ、死んじゃったものは仕方ないか! 天涯孤独だし、遺産相続で揉める家族もいないしな! むしろ未練を残す相手が誰もいないのは不幸中の幸いってやつだ。よし、受け入れよう!)
自分のあまりに悲惨な死を、志渡はわずか数秒で「コロッ」と受け入れてしまった。悲観的になりはするものの、過ぎ去った過去や不可能な事象にいつまでも固執しないのが志渡の長所であり、変人たる所以であった。
「それで、神様。死んだ僕をわざわざこんな場所に呼んだってことは、あれですか? 異世界転生ってやつですか?」
『おお……! なんという理解の早さ! さすが異世界ものの知識がある者は話が早くて助かる! そうだ、私の不始末のお詫びとして、君を魔法が存在する異世界へと転移させてあげよう!』
神の説明によれば、転移先は中世ヨーロッパに似た文化レベルの世界。だが、決定的な違いがひとつあった。
そこには『魔素』と呼ばれる未知の物質が存在し、人々が『魔法』を行使する世界だというのだ。
「魔法には火・水・風・土の4元素が存在する。志渡よ、君には神の詫びの品として、どれかひとつの魔法を扱う力を授けよう。どれが良いかね?」
白衣を着た志渡は、眼鏡を上げる仕草で指先を鼻元にやりながら、理科教師としての分析回路を高速回転させた。
(火・水・風・土の4元素……。普通なら華やかな火魔法や、格好いい風魔法を選びがちだが……待てよ。火は熱エネルギーの発生だが、摩擦熱や火打石などで代用が効く。風は空気の流動、汎用性という面では少し弱い。土は無機物の操作で便利ではあるが、これも汎用性に限界がある。だが――水は違う)
水は生命の源だ。飲むこともできれば、洗浄、冷却、さらには相移転(状態変化)によって氷(固体)にも水蒸気(気体)にも変化する。分子構造から見ても、これほど応用力と拡張性に富んだ物質はない。
「『水魔法』を教えてください。水属性の力を希望します」
『ふむ、水魔法だな。分かった。君に水魔法の基本術式を授けよう』
神の言葉とともに、志渡の頭の中に水魔法の「概念」が直接流れ込んできた。
直後、志渡の視界が眩い光に包まれる。
◇
眩暈が収まった時、志渡は鬱蒼とした深い森の中に立っていた。
背後には小さな古びた山小屋が一つ。そして山小屋を中心に、半径数十メートルほどの範囲を囲むように、うっすらとした白い霧が立ち込めていた。
『聞こえるか、志渡海人よ。そこが君の新しい拠点だ。その山小屋の周りを覆う霧の内側は絶対安全エリアとなっている。外の危険な魔物は侵入できないから安心するといい』
頭の中に直接響いた神の声に、志渡は「ありがとうございます」と呟いた。
神との交信が完全に途切れ、一人残された志渡だったが、先ほどまで抱いていた死への悲観は綺麗さっぱり消え去っていた。白衣の裾を風になびかせながら、彼の温和な瞳には、子どものような爛々とした好奇心が宿っていた。
「魔法……本当に魔法がある世界に来てしまったのか……!」
志渡は胸を躍らせながら、まずは自身の身体と周囲の環境を観察した。
神の説明によれば、この世界の住民は身体の中で魔素を生成し、それを消費して魔法を使う。しかし地球人である志渡は体内で魔素を作ることができない。その代わり、神からの特別な措置として「世界の空間上に漂う外の魔素を直接操作する能力」を与えられていた。
さらに幸運なことに、この山小屋の安全エリアは高濃度の魔素で満ちており、いくら使っても枯渇することがない。
つまり、この世界の人間が「体内の魔素(成人男性で約100)」を削りながら魔法を使うのに対し、志渡は「空間の無限の魔素」を使えるため、事実上の無制限・魔素切れなしという破格の環境にいたのである。
「よし……まずは実験だ。理科教師として、この『魔法』という物理現象を検証しない手はない!」
志渡は白衣の袖をまくり上げ、右手のひらを前に突き出した。
この世界の人々は、神や先人から「魔法の名前」と「その威力」を教わり、それをそのまま暗唱して発動させる。
例えば、初歩的な水魔法『ウォーターボール』を唱えれば、一定の大きさの水球が出現し、魔素を5消費する。中級なら15、上級なら30。それがこの世界の圧倒的な「固定概念」だった。
しかし、志渡はそのような魔法名など一つも教わっていなかった。
志渡が頭に浮かべたのは、明確な物質の構造とイメージである。
水分子――H2O。水素原子二つと酸素原子一つが共有結合した極性分子。無色透明の液体。
「出ろ……!」
――チョロチョロ……。
志渡の手のひらの中心空間から、小さな水滴が集まり、手のひらを伝ってぽたぽたと地面に落ちた。
「出た……! 本当に出たぞ!! 魔法だ!!」
志渡は思わずガッツポーズを決め、四十を超えた大人が見せるとは思えないほどはしゃぎ回った。白衣の裾がひらひらと揺れる。誰に見られているわけでもない、ここは彼だけの実験室なのだ。
ここから、元理科教師・志渡海人の狂人的な「実験の日々」が幕を開けた。




