究極の焼肉メニュー
若い頃は焼肉と言えば白飯を飲み込むように食うものだった。
いわば体力競技。
しかし、何杯もメシが食えない歳になると焼肉はパズル。知的競技へと変貌する。
条件は大盛ライス一杯。
即ち、この一杯のライスの満足度を最大化する競技なのだ。
席に着くとオレはタブレットを操作し、アラカルトで注文を構成する。
冒頭に表示される季節メニューは軽く流す。
1人焼肉において、季節メニューは罠だ。
確かに美味いし、頻繁に行くには目新しさもある。
しかし、オレには既に「焼肉屋で満足したい」という確固たる目的、イメージがある。
季節メニューは、その確固たる欲求の前ではノイズ。
痛快な変身ヒーロー物が見たい時の人間ドラマや社会性、恋愛要素等と同じノイズなのだ。
さて、先鋒はキムチ。
焼肉屋のキムチはそれだけでメシが1杯食べれるほどの存在なので、避けると言う選択肢もある。
しかし、オレの目的は肉を食うことに留まらない。
焼肉屋で美味いメシを食う。それにはキムチの存在も不可欠だ。
ただし、クタクタの白菜の端を舐めながら二口も三口もメシを食うような学生食いはしない。
大人の特権で、出されたキムチの半分をむんずと掴み、豪快に口に放り込む。
そして、しばらくキムチだけを咀嚼する。
ボリボリと白菜を噛み砕き、えっ?まさかキムチだけで飲み込むの?メシは?というギリギリのタイミングで満を持して一口メシ。
それを米の甘みが広がるまで噛みしめ、一気に飲み込む。そんな食べ方だ。
そして、すかさず水。
こうして口をリセットし、もっとキムチでメシを食べたいと言う欲を抑え、次なる肉に備える。
2番手は、ここで既に最強のカルビ登場。
寿司であれば、淡泊な味わいから始めるのが王道だが、焼き肉はそれぞれが主張が強い。
何をどのタイミングで食べても、前に引きずられるということが無い。
いわば、寿司が団体競技ならば、焼き肉は個人競技の連続だ。
だから、最初にもうメインを登場させ、最低限の満足をしてしまう。
変身ヒーロー物で言えば、開始5分でもう変身し、一戦闘行い、必殺技まで出してしまうこと。
(これさえ見れれば、もう元は取った)という安心感を元に、その後の展開を余裕を持って楽しめる構成。
3番手はタン。
ここで咀嚼回数を増やし、満腹観点での満足感を上げる。そして、そこまでメシを消費しなくても満足できるのも利点。タンは良き中継ぎだ。
ただ、間違ってもネギタン塩は頼まないこと。
あれは、ライスにワンバウンドさせた際にこぼれたネギだけでメシが食えてしまい、計算が狂う。
トリはロースかハラミの二択で迷った。
最後はカルビほどの脂はいらない。
しかし、「肉を食った!」という満足感が欲しい。
少し固めに焼いて、むにむにと噛み、赤身の味わいを引き出すという食べ方もしたい。
付き合いで不意に来るならハラミを選ぶことが最近は多い。
しかし、今日は満を持して焼肉の為に来ている。
ならば、キャパシティ的にはイケるはず!
オレはロースを選択した。
軽く炙ろうが、しっかり焼こうが別の味わいを見せるロースであれば、焼き時間に追われず、ゆっくりと最後のメシとバランスよく堪能できるというものだ。
ポイントは、ここでメシを食べきらない。一口だけ残しておく。そういう絶妙なコントロールもロースならできる。
最後のメシ一口は、残しておいたキムチの半分でいただく。
なんだかんだ言っても、日本人は最後に漬物とメシで〆ると特別な加点があるものだ。
作戦は完璧。
タブレットの注文確定操作をすると、一仕事終えた気分で出されていた水を飲んだ。
旨い!
グラスに色が付いていたので気づかなかったが、これは水ではない。
コーン茶だ。
いいじゃないか。
飲み物が旨ければ、この作戦の唯一の懸念点、ビールが飲みたいという誘惑が鳴りを潜める。
「おまたせしました」
店員がやって来た。
高鳴る期待感。
しかし、出された皿を見てオレは愕然とした。
タンが先に来てしまった…
―了―




