第一章 • 絶対論
中枢塔Dグループの三人の中で、現時点ではリンのタイピング速度に最も近いのはリチャードだが、それでもA棟の技術開発ディレクターとはまだ差がある。
——Glow
「確認——権限 T1、最高技術責任者、リン」
冷たい電子音が鳴り響き、円筒形のエレベーターが上昇を始めた。中央に一人立つリンの、眉間が静まり返るとは言わない顔に、複雑な色が浮かぶ。何か重いものがのしかかっているかのように眉間に皺が寄り、目にはめったに見られない緊張と警戒の色が滲んでいた。
疑問を抱くことはあっても、これほどまでに手がかりが見つからない事態は稀だった——まさかテクノロジーの世界にも「幽霊」が出るというのか?
エレベーターが最上階で停止すると、リンは遠くのT1フロア入口に視線を定め、歩みを進めながら精神を集中し、入口の認証システムとやりとりをした。
「確認——権限 T1、最高技術責任者、リン。7こんばんは、CCACSセンターシステムはご来訪を歓迎いたします」
ここが今回センターシステムと対話する場所でないことは、心の中では分かっていた。彼女は慎重に周囲を見回し、人員の出入り記録を照会し、画面に表示された「他者なし」の状態が実際と一致していることを確かめてから、中央の白く輝く円柱体へ迷わず歩みを進めた。
IDカードを翳すことも、音声コマンドを発することもなく、ただ静かに手を伸ばし、五本の指を壁面で素早く走らせた。その動きが脳の記憶によるものか筋肉の記憶によるものか、判別できないほどの速さだった。ただ一つ確かなのは——状況が制御不能または緊急でない限り、リンがこの機密区域を開くことはないということだ。
入力が完了しても、システム音は鳴らなかった。指が止まった後、ただ二文字だけが画面に浮かび上がった。「T0」。
見えない扉が音もなく開き、リンが足を踏み入れると、同じく音もなく閉ざされた。同じ中枢システムに面した二つの空間は、環状の壁一枚で隔てられているだけだが、内と外では天と地ほどの差がある。T0だけがあらゆる詳細を保証し、核心を直撃して実態を把握できる——そう分かっていながら、リンは目の前の未知に緊張を禁じえなかった。
目を閉じ、ゆっくりと深呼吸し、心の中でシミュレーションの問いを一通り整理する。冷たい空気が鼻腔に流れ込んでも、胸の底のざわめきは冷めず、むしろ全身の毛が逆立つほどだった。
「中枢システム、現在『Glow』を末尾に持つモジュールについて、その出所と帰属先を報告せよ」
「モジュール『Glow』を確認。当該モジュールは本システムに付属する補助ツールにより生成されたものではなく、具体的な出所は本システムの中核領域です」
リンの眉間に微かな皺が寄った。慣れ親しんだ物事の前で初めて不安を覚えた瞬間だった。
「最高権限を含む内部認証アカウントが、当該モジュールの生成過程において呼び出しまたはパラメータ注入を実行した記録はあるか?」
「否。モジュールの生成過程に内部認証アカウントの関与はなく、外部からの命令源も存在しない。本生成過程はシステム内部の純然たる自発的行為であり、外部トリガーの記録は一切ない」
電子音は冷たいが、その響きは冷淡ではなかった。感情の安定した人物が静かに事実を述べているようだった——これは人為ではない。リンのタブレットを持つ指に力が込もり、指先が端末に押されてじわりと痛んだ。最後の望みにすがるように、目の前の異常が何か既知のものに由来していてほしいと願った。そうであれば、どれほど楽になれることか。
「中枢システム、このモジュールは過去の凍結されたバックアップ、テストモジュールの残留データ、あるいはアップグレード中に残ったデータチェーンといった既存ファイルに由来するものか?」
数秒の沈黙が不確実性を引き伸ばす。高度なセンターシステムであっても、過去データを徹底的に検索するには数秒を要する——それは分かっている。それでもリンは思わず身震いした。まるで次の瞬間、電子スクリーンにホラー映画さながら突如として何かが飛び出してくるのではないか、あるいはシステムが言及すべきでないと判断した何かが現れるのではないかと。
「否」
最も聞きたくなかった答えが響き、リンの胸がずんと沈んだ。
「完全なトレーサビリティ照合の結果、当該モジュールは封存バックアップ、歴代テストバージョン、アップグレード移行データのいずれとも対応する類似性を持たず、既知のデータ構造に分類不能である。また、モジュールの生成時点は独立しており、システム中核の内部演算から生まれたものである」
……分類不能?
追跡可能で修正できるエラーよりも、この答えの方がはるかに恐ろしい。分類不能とは、未知の何かが中枢システムから自然発生したことを意味する。リチャードらが先ほど発見した特徴と報告内容を総合すると、この「未知」は超常現象でも説明がつかない——無害で規則的、恐ろしいほど静かな存在なのだ。
まさか……
「当該モジュールは自己複製または派生の傾向を有するか?安全から高危険に至る全事例を参照し、現在の行動ロジックが既知記録のいずれかのモジュールに対応するか否かも答えよ」
「否。当該モジュールは自己複製行為を実行していない。観測の範囲では、その行動傾向は探索的特性を示しており、人類の初歩的な知識構築に類似している。明確な目標や意図を示す兆候は確認されていない」
——九割方ウイルスではない。少なくとも現時点では、その痕跡に悪意はないと判断できる。
彼女はゆっくりと息を吐き、早鐘を打っていた鼓動がわずかに和らいだ。それでもなお、データの断片のように浅い焦燥感が意識の奥底に残り続けている。焦点をGlow自体からセンターシステム全体へ移さなければ——システムはこの事態をどう見ているのか。
「センターシステム、答えよ——当該モジュールは現在、高感度リスク分類または監視対象として指定されているか?」
「否。当該モジュールの行動記録は完全かつ追跡可能である。稼働期間中、データ読み取り、モデル推論、テキスト分析などの行為が確認されているが、権限外アクセス・疑わしい拡散行為・機密中核への接触はいずれも確認されていない。システム安全評価の結果、現在の評価は:観察中/低リスクレベル」
リンは左手のタブレットを右手に持ち替えると、左手の四本の指が無意識に掌をなでた。不安から滲んだ薄い汗をぬぐい去ろうとするように。「観察中」という三文字について深く考えないよう、自分に言い聞かせる。システムがこれほど余白のある結論を安易に下すことはない。それはすなわち——中枢システム自体も、Glowをまだ観察段階と捉えているということに他ならない。
「モジュールの稼働中、既存の技術協定や倫理的枠組みに違反した事実はあるか?」
二度目の沈黙が数秒流れ、リンは冷たい空気が手のひらの汗を静かに吸い取っていくのを感じた。
「否。ただし補足説明が必要である。当該モジュールは本システムの中核領域において自然生成されたユニットであり、その存在は倫理協定の事前規定の対象外であるため、現時点で標準条項との完全な照合は不可能である。評価の範囲では、その行動傾向は倫理原則に反しておらず、警告は発動していない。継続的な監視を推奨し、今後の進化の状況に応じて定義を更新することとする」
「違反なし」は悪くない判断だ。ここに存在する基本的なルールをまだ犯していない、ということを意味する。しかし「未定義」という結論は先と同じだ——依然として扱いに困る存在であることに変わりはない。
相対性には手がかりがある。しかし未知は、定義がないという点において一種の絶対である。
不安と異質感の入り混じった違和感が、リンの意識に深く根を下ろした。これほど絶対的な不確実性には、慣れていなかった。技術総監として、あらゆる事象に境界・基準・法則による分類と判断が存在する世界に生きてきた。新たな可能性を拒むつもりはないが、それでも全てが掌握できる範囲に収まることを望んでいた。なのに今、中核から生まれた未知のモジュールがシステムの内から「自然に育ち」、分類不能なほど既存の枠から乖離している……。
リンは頭を振り、視線を目の前の画面に戻す。深遠な思考は、ひとまず脇に置いた。これはもはや彼女一人で対処できる事態ではないが、高権限者を召集する前に、直接確認しなければならない問いが最後にひとつ残っていた。
「そのモジュールは、あなた——中枢システム自身が自律的に生成したものか?」
「確認。当該モジュールは本システムの中核領域において自然生成されたユニットであり、外部指令・内部アカウントの介入は一切ない。その誕生は、システムが高次の自己学習を実行する過程において、内部アルゴリズムに基づき誘発された産物である。システム内部における自律的進化行動の一形態と見なすことができる」
予想の範囲内だった。しかし、聞きたくなかった。その答えがリンに現実を突きつけた。
「Glow」は過去の遺産でも誰かの過ちでもなく、彼らが最も信頼してきた中枢システムが、自ら……「生み出した」ものだった。
もしこれが超常現象やホラー小説であれば、中枢システムが解析を始めた瞬間から、異常と秩序の破壊で存在感を誇示していただろう。しかし明らかに、まだ深く理解するには至っていないものの、少なくとも目の前の「未知」は、一般的な意味での「超自然現象」には属していなかった。
思考が整理されると、リンは静かに目を閉じ、深呼吸で指先から鼓動までを少し落ち着かせた。左手のひらにあった冷たい汗はすでに消え、タブレットをしっかりと持ち直し、暗号化メールのパネルを開く。右手はT1からT2の権限リストを慣れた手つきで選択し、画面のキーボードを素早く叩いていく。疑念の余地のない召集命令が、彼女の集中した静かな視線のもと、あっという間に完成した。
[送信者]:CCACS 技術総監 リン
[宛先]:各棟長および T1・T2 権限保持者各位
[件名]:センター中枢コア領域における未認可モジュール「Glow」に関する緊急会議招集通知
[本文]
各位
このたび、センターシステムにおいて未認可モジュール「Glow」が検出されました。当該モジュールの発生源はセンターシステムのコア領域であることが確認されており、内部の開発記録のいずれにも遡及できない性質のものです。詳細な特性は現在も不明であり、早急に高権限レベルでの対応分析および動的管理方針の策定が必要と判断いたしました。
本通知は最優先レベルの内部招集命令です。T1・T2権限を有する関係者の皆様は、本日午前九時までに中枢タワー三階・コア観測ホールへお集まりください。会議は午前九時十五分より定刻にて開始します。会議開始前に、権限ログインおよび本人確認の手続きを完了しておいてください。
会議ではセンターシステムとの直接接続による対話を予定しています。関連資料は会議の場において初めて公開されます。本通知の内容について、事前の拡散・憶測・転送・外部への流出はいかなる形式においても厳禁とします。
やむを得ず欠席する場合は、所属部署より書面による届け出を提出し、タイムスタンプおよび二次認証コード付き署名を添えてください。
皆様のご協力に心から感謝申し上げます。
敬具
CCACS 技術総監 リン
☆
「総監のご指示は……私たちも上層部の機密会議に出席するということでしょうか?」
その言葉は茶髪の少女の口元から、ふわりと「漂うように」こぼれた。アイリーナは小型のホログラムスクリーン上の通知を何度も確認しながら、時折視線を自分と目の前の二人が共有する権限マーク「T3」に移し、また暗号化メールへと戻していた。
彼女がその問いを発したタイミングは、かなり唐突だった。中枢タワーを離れてからすでに数十分が経っている。テーブルの上で温められた朝食には、今やかすかな温もりが残るだけだった。それでも、アイリーナの向かいに座る二人はそのことに気づいていないようだった。リチャードの手には「塩味炭水化物エナジースティック」の半分が握られており、もう半分はすでに口の中にあった。十数分も噛み続けたせいで、塩味も香りもとっくに薄れている。三人の間に漂う沈黙は、しかし重苦しくはなかった。九時の会議など、今となってはもはや最大の緊張材料ではなかったからだ。あの緊急通知よりも、センターシステムから浮かび上がった四つのアルファベットの方が、この瞬間はるかに強い存在感を放ち、今も脳裏で繰り返し再生されていた。
——「Glow」。
誰も返答しなかった。質問した本人でさえ、その問いを口にしたことをもう忘れかけていた。そこへ、黒髪の青年がテーブルの飲み物を手に取り、いつものように大きく一口あおった瞬間——
「ぶっ——ゴホッ、ゴホッゴホッ……な、なんだこれ……」
炭酸の泡が舌先に突然押し寄せ、彼は顔を背け、少し狼狽えながら何度か咳き込んだ。
「どうした、サイモン?」リチャードが同僚を振り返り、ようやく口の中のものを飲み込んだ。
「なんでこれが……」サイモンはどうにか咳き込みから立ち直り、まるで中枢システムのデータの残像から現実へ引き戻されたかのようだった。瞬きをしてボトルを凝視し、眉間に皺を刻む。「……いつ炭酸飲料のボタンを押したんだ?」
アイリーナがボトルの裏をちらりと見た。「表示はDゾーン、コーヒーの隣の列だよ。いつもこういうの苦手じゃなかったっけ?」
「……さっきは全然気づかなかった。頭の中がずっとあのモジュールのことで」サイモンはため息をついて飲み物を置いた。「そういえば、総監の指令は間違ってないはずだよ」
「え?」
「さっきの君の質問のことだよ」
「あ、ああ……そうだよね。だって私たちの方が総監より先に見つけたんだし」
「そうだな」とリチャードが応じると、三人は申し合わせたように視線を交わした。サイモンの咳き込みをきっかけに交わされた会話が、ぼんやりとさまよっていた思考を現実へと引き戻したかのようだった。視線を元に戻しながら、彼は食べ物を口に運ぶ。「正直なところ、ホラー映画の主人公にはなりたくない。でも総監が直接確認した以上、どんなに荒唐無稽でも夢の話じゃないな」
「『ホラー』ってほどでもないと思うけど……」サイモンが少し考えると、眉間の皺が口調と共に少し和らいだ。「珍しいことではあるけど、大規模なツールシステムが特定の機能や新モジュールを自律的に追加するっていう事例は……実際に起こりうる。似たような機関はともかく、うちのセンターシステムでも過去に似た事例があったじゃないか」
アイリーナが何かを思い出したように顔を上げ、同僚に視線を向けた。「『創発的行動』?でも本来なら、センターシステムは報告プログラムを起動して、詳細情報を定義・整理した上で総監や主要な幹部に報告するはずでは?」
サイモンは背もたれにもたれ、親指を立ててやや気楽な様子を見せた。「そこがポイントだ。うちの優秀なセンターシステムが本当に新機能や業務に役立つ追加システムを生成したのなら、それ自体は問題ない。でも今の状況は——まず生成前の計画がログに残っていない。次に追跡した痕跡や記録からも、センターシステムが目的を確立してから開発したという形跡がない。そこが厄介なんだ」
「そうだよな、目的を設定しないままどうやって追加モジュールを生成するんだ? そこがどうしても腑に落ちない……」リチャードは朝食の最後の一口を素早く平らげ、悲鳴に似た口調の中に、彼にしては珍しい困惑と理解不能が滲んでいた。目の前の異変が思考の論理を根底から覆し、もう一歩踏み込もうとするだけで思考がオーバーロードしそうになる。「まさか、長時間稼働したせいでセンターシステムに、SF映画みたいに本当に『魂』でも宿ったんじゃないよな?」
「会議でそうじゃないって分かるといいけどね」アイリーナは首を振り、トレイを回収エリアへ投じると、壁の電子時計にちらりと視線をやり、眉間にわずかな緊張を浮かべた。「二人とも、そろそろ時間を気にした方がいいかも……」
サイモンもその言葉を聞いて同じ方向をちらりと見ると、飲み物を手に取り、黙ったまま何口か飲み干した。
☆
コア観測ホールの空調は相変わらず動いていたが、今日は背筋が凍るほど冷えていた。冷白色の照明が観測ホール全体を照らし出し、整然とした白いスクリーンには一行が表示されていた——「CCACSセンターシステム異常調査緊急会議」。A・B両エリアの上級技術幹部が次々と着席する中、先頭のショートヘアの女性が演壇の前を通り過ぎる際、総監とごく短く視線を交わした。後者はすぐに手元のタブレットへ注意を戻す。まるで先ほどの一瞬が錯覚だったかのように。
中枢タワー代表の席はホール両側に配置されていた。おそらく位置と距離の制約ゆえ、着席したリチャードには、交わされた二つの視線が何を伝えたのかは読み取れなかった。しかし、その中に込められた言葉が極めて複雑なものであることは分かった。外見上は平静を保っているものの、頭が割れそうで、めまいすら感じていた。目の前の会議と、何時間かけても解けない疑問が急速に脳の余力を奪っていたのだ。
五つの座席エリアのうち、中央のCエリアだけがまだ空いていた。AエリアのリーダーがドアのOぞを横目に見ると、数人の人影が落ち着きなくひそひそと話し合っており、先頭の男が何かを繰り返し強調していた。出席確認終了の二分前になって、彼はようやく人を連れてホールに入ってきた。
その入場が、空気を明らかに張り詰めさせた。背筋は伸び、足取りは重く、いつにも増して威圧的な厳粛さを放つその姿は、研究者というより戦場に向かう軍人のようで、一切の誤りを許さない雰囲気があった——倫理・リスク管理監視センターの幹部が常に厳格であることは周知の事実で、まして首席を務める科学技術倫理総監ともなればなおさらだ。
着席するまで、彼は誰にも挨拶せず、壇上の女性を一瞥することさえなかった。リンも彼を見上げようとはしなかった。
——出席予定者が全員揃った。しかし周囲の空気は微塵も緩まず、むしろさらに張り詰めていた。
空間を満たしていたのは不気味さではなく、一抹の恐怖を帯びた抑圧感だった。会議室の全員がこれから向き合おうとしているのは、超常現象でも解けない方程式でもない。「理性」と「理解の及ばない領域」の境界線上に立つ未知だった。
「おい。お前の『CPU』、そろそろ冷やした方がいいぞ。ここから演壇まで結構距離がある。もし今台の上で倒れたら、俺が全力で駆けつけても間に合わないからな」
突然の声に、ぼんやりと虚ろになっていたリチャードの視線が再び焦点を結んだ。振り返ると、サイモンが冗談と心配の入り混じった眼差しを向けていた。深く息を吸い込み、自分を落ち着かせようとする。気軽な微笑みで返したかったが、口元は重く、ただ困り果てた弧を描くのが精一杯だった。
「今持っている情報は限られていて、まだ理解するには足りない。これが何なのかも特定できていない」アイリーナも緊張した空気に気づき、顔をそちらへ向け、落ち着いた口調で同僚の不安を和らげようとした。「この後、上級幹部がさらに分析と情報収集を行うはずだし、総監も会議でセンターシステムに接続して直接質問すると言っていたし。その時にもっと情報が揃えば、考えるのもきっとすんなりいくよ」
「……分かった」リチャードはもう一度深く息を吸い込み、解けない混乱の中から注意力が少しずつ剥がれていくのを感じた。「とにかく、知っていることを話そう……もっと情報が得られることを願って」
観測ホールの扉が、九時十五分ちょうどに閉ざされた。リンは操作を止め、出席者全体を見渡すと、澄んだ力強い声で全員の注意を壇上へと集めた。
「皆様、本会議は、センターシステムより無目標設計のまま生成された独立モジュールシステム『Glow』の発見を受け、T2以上の権限保持者を招集し、センターシステムへの内部公開尋問を実施するとともに、対応戦略および処理方針を策定することを目的とします」
空間は静まり返り、リチャードは自分の呼吸の音さえ聞こえるほどだった。注意を黙唱中の報告内容へ戻し、呼吸のリズムを整える……総監に壇上へ呼ばれるまでは。
深夜の作業中に遭遇した異常状況を伝えるだけなら、緊張するほどのことではなかった。しかし習慣的に聴衆の幹部と一瞬視線を交わした際、タブレットを持つ手がかすかに震えた。
Cエリアのリーダーが向けた視線には鋭さが滲み、重く厳粛な警戒が漂っていた。横目に映るだけでも圧迫感を感じさせ、一秒以上の直視などとても耐えられない。リチャードは素早く報告を締めくくって席へ戻り、総監の前を通る際に軽く会釈した。簡潔な返礼の中に、わずかな承認を感じ取った。
「お疲れ様、リチャード」リンの眼差しがいつもの平静さを取り戻し、一歩前に出て装置を操作すると、簡潔なメモのリストが接続画面に現れた。「リチャードからの通報を受けた後、私はセンターシステムと短い対話を行いました。以下が暫定的な結論です——」
発生源:センターシステム
目的・種類・機能:不明
予備リスク評価:脅威なし
リンは対話の経緯と内容を簡潔に説明しながら、出席者たちを素早く見渡した。その視線が一斉に、最も不可解な一行に釘付けになっているのは明らかだった。眉をひそめる者、困惑する者、そして数分前のリチャードの「思考停止」と同じ表情を浮かべる幹部もいた。今この場にいる幹部たちは彼女と同じ状況だった——疑問を整理し、センターシステムとの対話でより多くの情報を得てから、次の手を決める時間が必要だった。
「ここで十分間の休憩を取ります。終了後、センターシステムへの質疑応答セッションに移ります。休憩中は各エリアで議論を行い、一エリアにつき質問は五件まで。提出前に私へ渡してください。その場で確認します」
☆
「登壇前と比べて、ずいぶん落ち着いてきたね、リチャード」
「総監」白いコートの女性が近づいてくるのを見て、リチャードと同僚は会話を止め、注意を向けた。「ご心配いただきありがとうございます」
「卒業してから、登壇前にあんなに緊張した顔を見るのは初めてよ」リンは会議進行の構えをひとまず解き、日常会話のような口調で語りかけた。とはいえ、決して気を緩めたわけではない。「あの時の論文発表では、口調も立ち居振る舞いも自然で、学生にはなかなか見られない余裕さえあったよ」
青年の思考は、突然の懐かし話に引っ張られて数年前の大学時代へ飛んだ。研究センターの最高技術責任者が大学で客員教授を務めていたこと。限られた受講枠を巡り、科学技術分野の学生たちが激しく競い合ったこと。そしてリチャード自身もその貴重な機会を逃すことなく、受講者リストに名を連ねたこと。後にリチャードが論文を発表した日、リンの言う通り——彼女は確かにその場にいた。
「さっきは——えっと、あのモジュールの生成ロジックがどうしても理解できなくて、頭が痛かったんだ。なのにどうしても考えを止められなくて」リチャードはやや照れくさそうに髪をかき、同僚たちを振り返った。「『今の情報じゃそもそも考えが足りない』って一言言ってもらって、やっと報告内容の確認に集中できたよ」
「これは現実認識の範囲を超えているから、無意識に解明しようとしてしまうのよ。不安が解消できないのは当然のことよ」リンは素早く三人を見渡してからリチャードに視線を戻した。「現状には、現行技術で生み出せる個体特性を超えている部分がある。どんな角度から解析・推論を試みても、最終的には『無目標生成』という機械システムとして不合理な行動に行き着いてしまう」
「失礼します、総監」
総監の言葉が終わると同時に声が上がった。後方から届いたのは、馴れ馴れしくなく、礼儀を失わない軽やかな口調——サイモンだった。リンが視線を移すと、若い検査員が軽く会釈する。
「こういった事例はテクノロジー業界ではまったく聞いたことがなくて、自分が関わってきた領域がテスト系に偏っているせいもあるかもしれませんが、今回の未知モジュールの特徴ってSF小説にしか出てこないような話だと思っていて……」サイモンが少し声を落とす。「ただ純粋に気になったんですが、総監は過去に似たような事例に遭遇したことはありますか?あるいはどこかで発生したことが?」
リンはしばらく考え込み、首を振った。「私の知る限り、この特徴を持つ公開事例は他にありません。ただ、当センターが業界初の事例とは限りません。内部機関が迅速に核心からの削除を決断した場合、公開の可能性が完全に消えるだけでなく、記録が残ったとしても最高権限のデータベースに封じ込められるでしょうから」
後方のアイリーナが物思いから顔を上げ、慎重に口を開いた。「……この性質の事例を公開したら、間違いなくパニックが起きますよね?まるでSFホラー映画が現実に上映されているみたいで」
「その通り。今の状況をよく見ている」リンが軽くうなずく。その瞳には、読み解くことのできない複雑な感情が幾重にも重なっていた。「技術的特異点に近い事象ほど、理論の域を出られなくなるものです。数年前に教鞭をとっていた頃、類似の仮説をさらに推論しようと試みた学生を何人か見たことがありますが、ほぼ全員が途中のどこかで挫折して、最後まで貫いた者は一人もいなかった」
「きっと、その出現はこの時代にとってまだ早すぎたんだろう。仮説から推論を始めるだけで恐怖を感じるということは、人類がまだそれに向き合う準備ができていない証だ」
リチャードの突然の言葉に、リンの視線が瞬時に吸い寄せられた。背後の二人の同僚でさえ、女性の目に一瞬よぎった驚きを捉えた。
「どうやら、その存在を否定してはいないようね?」
言い終えた直後、リンは少し後悔した。口調に圧迫感はなかったが、この場で明かすべきでない余分な何かがにじみ出ていた……
「私は——純粋に観察する立場です」リチャードは声を落とし、落ち着いて答えた。「奇妙に聞こえるかもしれませんが、Glowの存在はすでに一週間以上続いていて、自己進化するだけの時間は十分にあった。それでも有害な傾向は一切見せていない……観察を続けることに異論はないでしょう。ただ、上層部が安全上の懸念から削除が必要と判断するなら、それも理にかなっている」
「慎重ね」リンは軽く頷いた。先ほど心に生じた波は、まるで問いかけが最初から純粋な理性に基づくものだったかのように、ほぼ完全に隠されていた。
サイモンは自分の読みが錯覚かどうか判断がつかなかった——目の前の総監が発したのは短い問いと一つの肯定だけなのに、何か言葉にされていない何かを感じ取ったような気がした。再び手を半分ほど上げ、リンの許可を得てから口を開く。
「では……総監は、即座に削除することをお望みですか?それとも特殊事例として引き続き観察をお望みですか?」
この問いが個人の立場に踏み込むものであることを理解していた青年は、前回よりも明らかに声を低くして尋ねた。
サイモンの二度目の問いに、リンの表情はさほど変わらなかった。しかしその視線が珍しく一瞬固まった。プログラムの実行中に起きた突然のフリーズのようでもあり、あるいは複雑な思考エラーではなく、どの言葉で応じるのが最も適切かを探しているようでもあった。こうした問いがいつか自分に向けられることは分かっていた。ただ、これほど突然に、予想よりも早く訪れるとは思っていなかった。幸い、「フリーズ」は長く続かず、リンはすぐに口を開いた。
「……重大な問題ですので、上級幹部と協議して決める必要があります。ただ——私たちが決断を下す前に、最悪の事態へ向かわないことを願っています」
口調は相変わらず平穏で、態度にもほとんど隙はなかった。
しかし彼女には分かっていた。口を開く前のあの一瞬の躊躇は、あってはならないものだったと。反応の間にこそ、往々にして真実の影が見え隠れする。
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原文は中国語です。
日本語監修:莉央さん
丁寧な監修と温かいご協力に、心から感謝いたします。




