開けてはいけない
思いのほか居心地がよく、ついうっかり長居しすぎた海の底から地上に戻ってみると、そこはすっかり様変わりしていた。
ものすごい速さで動く箱?のようなもの、見上げてもなお頂上が見えない四角く細長い建物?、なにより祭り時でも見たことないような数の人・人・人……。
丸一日ほどあたりをうろついてみたが、どこまでいっても同じような景色ばかりで、ここがどこなのかさっぱり見当がつかない。
途方に暮れた俺は、別れ際に聞いたあの女の言葉を思い出す。
『やっと帰ってくれるんですか!? ……ゴホン。いえ名残り惜しゅうございますわ。では、お土産にこの箱を差し上げましょう。けれど決して開けてはなりません。……ですがどうしても困り果てた時には、なるべく人が多いところで開けてみてください。もしかしたら助けになることもあるかもしれませんから。なお、その結果について当方では一切の責任を負いかねますのでご了承ください』
あの妙に芝居がかった女からもらったこの箱を、俺は開けてみた。
すると、中から白い煙が勢いよく噴き出してきて、瞬く間にあたり一面真っ白になってしまった。
「なんだなんだ、火事か!?」
「いや、これはなんかのテロなんじゃ!?」
「誰か消防車、いや、警察を呼んでくれ!」
周りにいた人々の幾人かが、懐から取り出した板のようなものに話しかけている。
するとまもなく、けたたましい音をたてながら白黒の箱がすごい速さで近づいてきたのだった。
*****
「で、もう一度お聞きしますけど、氏名と住所を教えてもらえますかね? ……ウラシマ村のタロウさん。で、苗字は? ……平民だから苗字なんかないって、あんたいったいいつの時代の人だね? 正直に答えてくれないとしばらく泊って行ってもらうことになるよ?」
なんだかよくわからないうちに連れてこられた場所でいろいろと質問されたがほとんど意味が分からなかった。
けれど、とりあえず屋根のある寝床と食い物だけは手に入ったのでよしとしよう。




