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ポイ活ディストピア。  作者: さんまぐ


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6/8

第6話 夢は終わるモノ。

ラジオ体操の時、市川明彦の話を聞いた髙成卓は明らかな敵意を見せてきた。

何のことだかわからないが、市川明彦が髙成卓から言われたのは、「交渉中、前向きに応じていると、その間の税金が軽くなるんだとさ、だから市川さんは家族から突き上げられねぇ。俺なんて毎日アンタと比べられて嫌になるんだ!」だった。


知らなかった。

だがきっと嫁の朋美は知っている。

そんな気がしたし、本当に税金の問題が無ければ、家族は皆昔のように優しかった。



・・・



最初のヒアリングの日から2か月と少しが過ぎて、また佐藤太郎がやってきた。


「ありがとうございます。市川さん」


笑顔の佐藤太郎の恐ろしい事と言ったらない。

またリビングに案内すると、早速お礼と共にと喜ばれる。


「周りからはその声も出ていましたが、実際のヒアリングで聞けるのと違いますね。中には今回の案ならと受け入れてくださる人が沢山居ました!」


こうしてまた動画が始まった。

今回、市川明彦が言ったのは、がん保険なんかで耳にするリビングニーズ特約。

余命宣告をされた人が、生命保険の保険金を先に受け取る事で、家族と思い出を残す特約。

安楽死を選ぶ人の中には、家族にポイントが残ることよりも、自分に何もない事を嫌がる人が居るのだから、そこら辺を何とかしてくれと言っていた。


「今回、旧日本郵政公社が所持していたような保養所を我々も取得し、流石に一流処は無理でも、そこに同居のご家族、ご友人、別居の親族を、ご本人様含め6名様までご招待し、残りの方々は、追加一名様につき一般的な宿泊費の半分でおもてなしさせていただく手配をいたしました」


わ…わぁ。

凄いじゃん。


引き気味に聞く市川明彦の前に出てきたのは、楽しそうに最後の思い出を作る家族の写真やムービー。


孫の1人が「爺ちゃん、マジありがとう!旅行なんて俺、修学旅行以外で行った事なかったから超嬉しいよ!」と言うと、もう一人の孫が「俺も!写真撮ろうよ!沢山思い出作らなきゃ!」と続き、孫達と写真を撮り、観光を楽しみ、海の幸山の幸を堪能する。


不況以来、旅行は贅沢なものになってしまい…観光地は外国人ばかりが楽しむ場所で、物価に追いつけない日本人には肩身が狭かった。


家族全員が最後だからと言って、祖父をもてなして大事にして、これでもかと二泊三日の楽しい時間を過ごす。


これはどのようにして行ったのかを佐藤太郎に聞くと、「平日の、客入りの少ない日を使う事で、安価と安らぎを可能にしています。ご家族様は忌引きや公休扱いになります。働いていらっしゃる方からすれば、裁判員裁判制度と同じですね」と佐藤太郎の説明。


嫁の朋美も孫の月と星も「わぁ、凄いね旅行」と喜んでいて、ポイントだけではなく、思い出が残せるのは悪くないと思ったのはこの時だけだった。



夢のような時間は終わる。

それは夢なのだから覚めなければならない。


帰宅した翌日、佐藤太郎が迎えに行くと、現実に引き戻された老人は、途端に「嫌だ。死にたくない」と泣いて拒絶する。


娘に「お父さん、旅行に行ったでしょ?ワガママ言わないで」と言われ、娘の夫からは「お義父さん、もう僕たちも子供達も休みまで取ったんですよ?」と、何を言い出すんだと言われる。


散々ニコニコと写真を撮った孫達も、「チッ」と舌打ちをして、「いいから行きなよ」、「ガキかよジジイ」などという、心無い言葉が飛び出してくる。


佐藤太郎もごく普通の顔で問い詰めていく。


「“ピー”さん、ご旅行に行かれましたよね?楽しかったですよね?思い出も作りましたよね?」


これに老人が「賠償するからヤダ」と泣いても、「誓約書にサインしましたよね?違約金は500万円ですよ?とても払えませんよね?」と言って、半ば無理矢理黒いワゴン車、あの嶋田白雄を連れて行ったワゴン車で老人を連れて行ってしまう。


また佐藤太郎の趣味なのか、同じく旅行を楽しんだ8家族が8分割された画面の中で楽しげに映し出され、最後の泣きじゃくりながら、渋々と連れられて行く動画で終わりを迎える。


ここで佐藤太郎が恐ろしい事を口走る。


「未練が生まれるから我々は廃案にしたのに、案外皆さんが望まれていました。市川さん、ありがとうございます」


怖いの知ってたの?

こうなるのわかってたの?

それなのにやったの?


市川明彦は自然と「こわ」と口から出ていた。


佐藤太郎は「いえいえ、私なんて」と謙遜してから、「まだ何かご意見はございますか?」と聞いた時、嫁の朋美が口を開いた。


「遺品整理の業者を格安で手配とか出来ませんか?」

「おお、そうですね。確かにご決断しかねる方の中には、遺品整理なんかの終活を理由にされる方もいますね。すぐに上に掛け合ってみます!」


佐藤太郎は「市川さん、あと一つですね。それを見て、どのようにするか、よくお考えくださいね」と言って帰って行ってしまった。



・・・



翌週、佐藤太郎がやってきた。

戦々恐々とした市川明彦だが、会いにきたのは市川明彦ではなく孫の市川星だった。


市川星は前回の旅行後の泣きじゃくった老人達の姿を見て、色々なモノが怖くなり、佐藤太郎に相談をしていた。


「若い中学生の貴重なご意見、ありがとうございます。確かに、星さんのような感受性の豊かな方からすれば、泣いていやがる家族の姿は心に影を落としてしまいますね」


佐藤太郎の説明を聞いて、市川明彦は「ちっがーう!違うよ星!安楽死制度をやめてくれと言うんだ!」と心の中で叫んだ。


そう叫んでしまうのには理由がある。


「お爺ちゃんがポイントになるのはいいんだけど、お見送りしたくない。サヨナラ旅行をして、さよならパーティとかしたら、次の日に連れて行くとかじゃなくて、私が学校に行ってる時に、急にお爺ちゃんを迎えに来て連れて行ってください。帰ってきていないのは大丈夫だけど、見送るのは怖いです。後、遺品整理もいろいろ思い出して怖くなっちゃう…」


そう。

孫の星は泣いて嫌がる祖父をイメージして、心が傷んだ。

でもポイントは欲しいし、旅行もしてみたい。

なら貰うものをもらって、いなくなる日は見たくない。

遺品整理もしたくないから、格安の遺品整理を頼みたいと言い出した。


市川明彦は昔あったニュースを思い出した。

生まれた子猫を育てられないからと、段ボールに入れて「誰か貰ってください」と書いたら、その跡地に「全部カラスに殺されたよ。お前が殺したんだ」と張り紙をされていた。


多分、孫の気持ちはそれだろう。


だが違う。

お爺ちゃんと暮らしたいから、税金を安くできる方法を聞いてほしかった。


だが孫は違う質問をし、佐藤太郎は「ご旅行の後はご家族全員は難しいですし、残りのご家族の同意も必要ですが、立ち会いたくないご家族が席を外す日にお邪魔するようにしました」と回答をすると、孫の星は泣いて喜び「良かった。ありがとうございます」と言った。


良くない。

良くないんだよ。


市川明彦は心の中で「頑張れー、負けるなー」と声をあげていた。

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