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ポイ活ディストピア。  作者: さんまぐ


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2/8

第2話 良い面ばかりを見ている世界。

市川明彦は夜夜中に目を覚まし、布団の中で声を殺して叫び泣く。

だが、そんな事をしても事態は好転しない。


寝不足は良くない。

毎年4月の定期検診以外にある検診で、数値が悪ければ事態は途端に悪化する。

それ以外でも、行政から抜き打ちで届く、健診のお知らせがきた時の為に、早く寝なければならない。


早寝早起き、食事は腹八分目、アルコールも飲まず、質素な食事を心がける。

根本から気を付けないと、仕事に行けない以上、簡単に身体が錆びついてしまう。

朝晩の散歩とラジオ体操をきちんとしていないと、文字通り命に関わる。


必死に眠りたいが、【安楽死】の三文字が怖くて眠れない。

夕餉の地獄が今も蘇ってくる。


朝になって目の下にクマを作ってラジオ体操に向かう時、嫁の朋美は「あらあら、あれならもうすぐね」なんて言っている。

昔は奥ゆかしい嫁さんで、息子もやるじゃないかなんて思ったが、今では微塵も見えない。



・・・



世の中の全てにビク付きながらラジオ体操に向かうと、どの老人も顔が暗い。

それもそうだ。

ここにいる全員、この前のスポーツセンターでやったテストで悪い結果が出ている。

何かしら平均値を下回った存在だったからだ。


「家で…、言われましたか?」


そう話しかけてきたのは、髙成卓65歳。

定年退職したてだが、若い頃の大酒飲みが祟り、肝臓の数値が悪すぎて、既に課税対象で家に居場所と立場がない。


「…ええ、握力測定を落としてしまいました」

「いやいや、市川さんはお若いですよ。私は漢字テストでした」


2人して遠い目で「人生まだまだこれからだなんて、昔はそんな言葉があったんですって」、「今なんて、無駄な長生き、悪の始まりですって」と言って乾いた笑いがでる。


朝日すら憎い。

何もかもが憎い。

そう思った時、突然の髙成卓の告白。


「私ね、逃げ出そうかと思ってるんですよ」


市川明彦は耳を疑った。


「髙成さん!?そんな!?老人狩りに捕まりますよ!?」

「でも、自由はある。私は、もう一度大酒を飲んで、好き勝手夜更かしもしたいんです」


そう言った髙成卓は泣いていた。


「小学生の孫がね。私の絵を描いたって言うんですよ。でもあれは孫の作品じゃない。娘が描かせたんですよ。そうじゃなきゃ、安楽死センターに手を振って行く私の絵なんて、舞は描きません!」


そこに来たのは濱野磯子。


「今は動くの!泣くのは後よ!動いて!身体を動かして!動かなくなったら殺されるのよ!」


泣きながら叫ぶ濱野磯子に言われるまま、集まった12人の老人達は涙ながらにラジオ体操を第二までキッチリこなす。


市川明彦達にとって腹立たしいのは、ほりの深い顔立ちの外国人達が派手な格好で、タバコをふかしてビールを飲み、「ははは、がんばれー」「おー、必死ー」と指さしてきて笑いながら高級車を飲酒運転していく事。

毎朝毎朝、朝帰りの最中に公園の横で車を止めて指を指してヘラヘラと小馬鹿にした笑いをする。


日本に来た外国人。

何故か生活保護を受けていて、あんなギラギラした格好で群れをなして、ワイワイと違法行為をする。過積載のトラックでの危険走行も飲酒運転も最初は社会問題だったが、そのうち言われなくなっていた。アパートの風呂場で盗んだ豚をバラして食べたり、団地の軒先で豚の丸焼きを作る。

夜夜中に大音量で宴会を開く。

どれも社会問題だったが、ニュースでも何も言われなくなる頃に、気付けば足立、練馬、北、どんどん都内に住み着くようになり、都政からも税制が逼迫したと言われるようになると、何故か老人達の医療費が問題だと叫ばれた。


まず取り締まるならアイツらだろう!


悔しさに12人で肩を抱きあい「頑張れー、負けるなー」と涙ながらに叫びあってしまった。



・・・



ラジオ体操から素直に帰っても血圧が高いままだ。

市川明彦はトボトボと散歩をして、氏神様に神頼みをする。

雨の日も風の日も嵐の日もルーティンになっている。

雪の日は転んで骨折したらおしまいなのでできない。

骨折なんて、競走馬よりも酷い末路が待っている。


頭の中は髙成卓の「逃げ出さないか」の言葉がずっと蠢いていた。


逃げたらどうなる?

コレステロールと血圧の薬が無くなれば早晩死ぬ。

だが、ここにいても早晩死を選ばされる。

あの晩御飯時の圧力には耐えられない。


昨日も後30分も迫られていたら「はい。わかりました」と言ってしまっていた。

今晩も詰められる。「それならいっそ逃げ出してしまうか」、そう思っては「だめだ。家族にポイントも入らなくなる。どうせなら何かを残してあげたい」と思い直していた。



その日、氏神様のところに行くと、本殿の裏から1人の老人が出てきた。

老人はホームレスさながらの格好をしていたが、ホームレスは早期に保健所が用意した作業員、通称老人狩りの連中に捕獲されて強制的に安楽死センターに送り込まれた。


これがまた安楽死を推進させる事になったのが皮肉な話で、ホームレスを狩る事でゴミ捨て場の資源ゴミが荒らされる事が少なくなる。

外国人達はもう、ゴミ荒らしをする事なくなっていて、ホームレスが居なくなり、深夜早朝の資源ゴミ荒らしが無くなると街の治安も良くなる。


それはホームレスがいなくなったからだ。


マスコットのあんらくん達が特番で「街が綺麗になったね!なんでだろう?」と言うと、4人のアイドル達が「そういえば、ゴミ捨て場も荒らされなくなったね」なんて相槌を打つ。


環境省の偉い人が爽やかな笑顔で現れて、「それは、ホームレスの人達が安楽死を選んでくれて、ゴミ捨て場を荒らしたり、街を汚さなくなった事、後は更生施設の若い力が街の清掃活動に力を入れてくれるからなんだですよ」と良い面ばかりを説明する。


その相乗効果で、当初一部の老人や未来の老人達が反対した安楽死制度だったが、一気に【住みやすい街】という言葉に飲まれた。

だが実際はさっきの外国人達が「仕事だ拾え!」と言いながら、更生施設の清掃員にゴミを投げつけるし、ゴミ捨てルールを守らないで迷惑もかけている。


何もよくなんてなっていない。

市川明彦はそう思いながら老人に声をかけていた。

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