表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

タイトル未定2026/01/29 11:12

森に来たのは、三人だった。

私と、友だちと、それからあの子。


学校の帰りに自然と一緒になる、

名前を呼ぶのも特別じゃない、

そんな関係。


森の中を歩くと、

あの子はいつも少し前にいた。


「こっちのほうがいいよ」


理由は言わない。

でも言われた通り進むと、

枝は少なく、足元も安定していた。



森の奥で、古い家を見つけた。


友だちが、はっきり言った。


「ここ、やめよう。絶対よくない」


でも私は、

なぜか引き寄せられるように近づいていた。


「ちょっと見るだけ」


戸を開けた瞬間、

空気が変わった。


奥の部屋に、小さな神棚があった。

埃はあるのに、

長い間、丁寧に扱われていた感じがした。


手を伸ばした瞬間、

飾られていた何かが落ちた。


音が、やけに大きく響いた。


次の瞬間、

隣の部屋から音がした。


一人分じゃない。

複数の足音。

揃わない歩幅。

呻き声とも、息ともつかない音。


廊下の奥に、それはいた。


人の体。

顔は布で覆われ、

その下から、いくつもの吐息が漏れている。


足は四本あるように見え、

手は崩れ、

黒くぬめったものが床に滴っていた。


理解する前に、

体が拒絶した。


逃げようとして、

足が動かなかった。


そのとき、

あの子が前に出た。


「下がって」


声は震えていた。

でも、退かなかった。


見えない力がぶつかり合う。

空気が重くなり、

床がきしむ。


あの子は、

何度も手を伸ばして、

何かを押し返していた。


勝てていない。

それでも、

私と“それ”の間に立ち続けている。


「――っ!」


私の悲鳴を聞いて、

友だちが家に飛び込んできた。


腕を掴まれ、引かれる。


その瞬間、

背後で何かが弾けた。



私たちは必死で山を下りた。

たまたま見つけた風呂屋に入り、

考える前に湯に浸かった。


温かい水が、

体と体の間に残っていた嫌なものを、

少しだけ洗い流していく。


でも、終わっていない。

それは、わかっていた。



その夜、

三人で同じ部屋に泊まった。


布団を並べて、天井を見る。


「また、来るよね」


友だちが言った。


沈黙のあと、

あの子が言った。


「山に行こう」


「山?」


「ここじゃ、止められない。

 でも、あそこなら……」


言葉を濁す。


「……たぶん、大丈夫」


たぶん、という言い方が、

少しだけおかしかった。


でも、不思議と反対する気にならなかった。



翌日、

神聖な山に入った。


空気が、はっきり違った。


それは、また現れた。

今度は人の姿で、

私たちを探している。


逃げる。

叫ぶ。

散り散りになりながら、山へ誘導する。


木々を蹴り、

上から見ようと、それが跳んだ瞬間――


空気が、凍った。


何かが、見ている。


次の瞬間、

それは捕らえられ、

存在ごと消えた。


説明はない。

でも、終わったと体が理解した。



山を下りる。


足音は、二人分しかない。


「あれ?」


そう言いかけて、

私は口を閉じた。


最初から、

三人だったはずなのに。


楽しかったときも、

怖かったときも、

あの子は、いつも一歩だけ前にいた。


名前を呼ぼうとして、

呼べなかった。


――どうしてだろう。


理由は、

考えないことにした。


山の方から、

一瞬だけ、風が吹いた。


振り返ると、

そこには誰もいない。


でも私は、

少しだけ、知っている。


あの子は、

人のふりをしていた。


何のふりをしていたのかまでは、

考えないでおく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ