41:エルフの拾い物
「はーい、今日のお昼は海鮮ユッケ丼でーす」
久しぶりの、地下99階での暮らし。
バレてしまったなら仕方ないと、ジェレミーさんも誘っての、皆での昼食。
大柄なヴィルベル、長身のジェレミーさんにレムスが並ぶと、広いはずのリビングがなんだか手狭に感じてしまう。
「な、なんだこれは……魚? それに、生の卵……?」
ヴィルベルとレムスが慣れた手つきで箸を持つ中、ジェレミーさんは一人丼をしげしげと眺めていた。
「あ、そっか。この世界だと、生の卵は危険なんだっけ。これは私の世界から取り寄せた卵だから、安全に食べられるよ」
文化が違うと、食べられる物も違うからね。
事前の説明は大事。うんうん。
なーんて一人頷いていたけれど、どうやらそれ以前の問題らしい。
「これは、生の魚なのか……?」
「あ、うん。お刺身をタレで和えたの」
「さしみ……?」
そこから説明が必要かー。
地下99階で暮らし始めた頃のことを思い出す。
最初はヴィルベルにもレムスにも、逐一話していたっけ。
「そういう食べ物だと思っておけ。食ってみろ、美味いから」
「あ、あぁ……」
面倒臭くなったのだろうヴィルベルに勧められて、ジェレミーさんが見様見真似で箸を持つ。
丼を持ち上げ、丼の縁に口を付けるようにして一口掻き込んだ瞬間、ジェレミーさんの瞳が大きく見開かれた。
「……!!」
無言のまま、箸が動く。
感想を聞くまでもない、どうやら気に入ってもらえたみたいだね。
その様子に安堵して、さぁ、私もいただいてしまおう。
宿屋暮らしも楽しかったけれど、暫くパン食だったから、ご飯が恋しかったんだ。
あと、お魚も。
冷凍技術がないこの世界、内陸部ではお魚が食べられないからねー。
なんとも不便なものです。
「じゃ、いっただっきまーす」
手を合わせて箸を手にした瞬間、何かに気付いたように、レムスが立ち上がった。
「どうしたの? レムス」
「少々、様子を見て参ります」
そう言って、管理室に向かう。
まぁ、レムスが見てくれるなら良いかーと、私はそのまま海鮮丼に口を付け始めた。
「マスター、どうやらエルフ達が拾い物をしてきたようです」
「拾い物?」
レムスから報告を受けたのは、食後。
のんびりお茶をいただいている時だった。
「外の様子を見に行った偵察隊が、重傷者を保護したそうです」
エルフ達も、ロドニー王国の動向は気にしているみたい。
このダンジョンに危険が及ばないよう、彼等は彼等なりに動いてくれている。
それにしても、重症者かぁ。
魔の森は危険な場所というから、助けてはあげたいけれど……治療の為に聖域に連れ込んでは、ここの存在がバレてしまう。
「聖域には立ち入らせずに、治療だけして解放することは出来ないのかな?」
「なんでも、かなりの重傷らしく……それも、ロドニー王国の兵士達にやられたのだとか」
ガタッと、椅子が鳴る。
咄嗟に立ち上がりかけたジェレミーさんが、無言のまま、座り直す。
「どうしますか?」
「……って、言われても……」
どうしよう。
本音を言えば、助かるものならば助けてあげたい。
でも、相手がどんな人かも分からないし、手当たり次第に助けていては、きりがない。
何より、私はここの生活を守りたい。
その為には、秘密が漏洩するリスクは負いたくない。
「見捨てる以外にあるまい」
ヴィルベルの厳しい声。
そう、冷静に考えれば、それしかない。
なのに……彼の言葉に頷けない時点で、私はまだ冷徹になりきれていないのかもしれない。
「今はどうしているの?」
「ひとまず、ダンジョン一階の一般冒険者が立ち入るエリアにて匿っているようです」
それならばと、管理室に向かう。
気になるのか、私が移動すると、ジェレミーさんも一緒に付いてきた。
管理室のモニターを操作して、一階の様子を映し出す。
エルフが保護したという人は、すぐに見付かった。
鎧を着た大柄な男性が、若いエルフ──里長の息子であるアンドルーの腕に抱かれている。
彼が発見、保護したのだろうか。
「酷い……」
カメラ越しにも分かるくらい、男性は傷付いていた。
鎧の隙間を縫うようにして、屈強な肉体には、深々と矢が突き刺さっている。
全身は血に塗れ、なにより、彼の腕──左腕は、肩口から先が無残にも切り落とされていた。
「放っておけば、すぐくたばるだろう」
いつの間にか管理室の入り口に立っていたヴィルベルが、事も無げに言う。
……そんなこと、言われなくても分かっている。
彼はもう、長くない。
放っておけば、このまま出血多量で命を落とすだろう。
それを分かっているからこそ、アンドルーも迷っているに違いない。
それにしても、この瀕死の男性、どこかで見たことがあるような……?
「ダグラス……」
管理室に、呆然と呟くジェレミーさんの声が響く。
……そうだ、思い出した。
モニターの中に居る彼──私を魔の森に連れてきた、ロドニー王国の騎士団長だ。









