39:地下99階へようこそ
ロドニー王国に関するきな臭い噂も聞こえてきたので、私達は一度ダンジョンへ戻ることにした。
冒険者達に紛れてダンジョンに潜り込み、誰も居ないところで、地下99階に転移する。
私が姿を現すなり、レムスが珍しく焦った様子で駆けてきた。
「マスター、よく、よくご無事で!!」
「大丈夫だよ~、そんなに心配かけちゃった?」
レムスったら、イケオジな外見が台無しじゃない。
涙と鼻水で、顔面ぐしゃぐしゃよ。
元が良いんだから、勿体ない。
「ほら、鼻水拭いて」
「恐れ入ります……」
リビングのテーブルからティッシュペーパーを取り出して、レムスの鼻を噛んでやる。
日本ならコンビニでもスーパーでも薬局でもどこでも売っている箱ティッシュだけれど、こんなのでもこちらの世界では珍しいらしい。
「久しぶりにスズカの飯が食えるな」
「まったく、ヴィルベルはそればっかり」
ヴィルベルはと言えば、勝手知ったる我が家とばかりに、早々にソファーに寝そべって寛いでいた。
その横で、ジェレミーさんは一人、なんとも落ち着かない様子で立ち尽くしている。
……。
…………。
………………。
「……うん?」
あれ?
なんでジェレミーさんが地下99階に居るんだ???
って、私が一緒に転移してきたからか。
そりゃそうか。
気付けば、皆がじっとこちらを見つめていた。
特にレムスなんて、ついさっきまでべそをかいていたとは思えないほど、目で『何してるんですかマスター』と訴えてくる。
唯一、ガルムだけが私の足下で欠伸をしている。
「えーと……ジェレミーさん、連れてきちゃった☆」
「何しているんですか、マスター!!」
いやー、やらかしてしまいました。
そうだった、ジェレミーさんにはこの地下99階の存在って、内緒にしてたんだった。
だって冒険者活動をしている間、宿でずっと一緒だったんだもん。
もうすっかり慣れてしまって、彼だけ別のフロアに置いてくるなんてこと、全然頭に無かったわ。
「まぁ、バレてしまったものは仕方ないってことで……」
うぅ、レムスのジト目が痛い。
ジェレミーさん自身も、申し訳なさそうに身を縮こめている。
「なぁに、いざとなれば消せば良いだけの話だ」
ヴィルベルにいたっては、物騒なことを言い出している。
ま、ヴィルベルのスタンスは、今に始まったことではないのだけれど……。
「えぇと、それで……」
所在なげなジェレミーさんが、キョロキョロと周囲を見渡す。
ここまで来ると、流石の彼も何をどう聞いていいのか分からないらしい。
地下99階の居住エリア。
日本の高級マンションをイメージして建築したこのフロアは、家電製品に囲まれた近代的な内装を施してある。
「ここは、一体……?」
「全て、私が元居た世界の技術なんです」
ジェレミーさんには、私が異世界から召喚されたという話しは、既にしてある。
冒険中にドローンやモニターを目にする機会もあったけれど、流石にこんな場所に放り込まれたら、面食らって当然だよね。
「これが、スズカ殿の居た世界……」
周囲を見回して、ジェレミーさんがゴクリと喉を鳴らす。
私が街に出掛けた時と、丁度正反対の状況だ。
私もあの時とても新鮮に感じたものだけれど、今のジェレミーさんにとっては、この場所が新鮮に感じるんだろうな。
見る物全てが目新しいに違いない。
「なるほど、ヴィルベル殿が貴女を特別視するわけだ……」
別に異世界人だからとか、この世界には無い技術を提供出来るから、特別に思われているという訳ではないと思うのだけれど……。
いや、だからなのかなぁ?
私が日本の物資をクリエイト出来るからこそ、重宝されているのだろうか。
考えていたら、なんだか胸のあたりがモヤモヤしてきた気がする。
ええい、やめやめ。
くだらないことは、考えないようにしよう。
「……で、レムス。私達が留守の間、何か変わったことはなかった?」
「は、それが……」
気持ちを切り替えようとレムスに話を振ったら、何やら浮かない表情が返ってきた。
「え、何かあったの?」
「ええ、マスターの部屋が……」
私の部屋!?
本棚にCDにゲームにと、思い付く限りの“日本”を詰め込んだあの部屋に、一体何があったというのか。
レムスが言い終えるより先に、私は自分の部屋めがけて駆け出した。









