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追放召喚者のダンジョンには、最強竜と魔狼(もふもふ)が住んでいます ~魔力SSSで始めるスロー・ダンジョンライフ~  作者: 黒猫ている


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幕間:聖女降臨

ロドニー王国は、歓喜に沸いていた。

魔王降臨の噂に震える国民を前に、王太子エリオットは声高に宣言した。

魔王軍との徹底抗戦を――と。

その為の戦力として、秘術である異世界からの勇者召喚を行ったと公表した。


異世界との門を繋ぐ為には、多大なる犠牲を伴う。

その背景を知らぬ民衆にも、それがただならぬ術だとは伝わったのだろう。

そうして現れた聖女“沙也(サヤ)”の存在は、興奮をもって受け入れられた。

払われた犠牲には、皆が目を背けていた──。


聖女サヤが招かれて以来、王城の空気は明らかに違っていた。

皆が皆その空気に溶け込み、違和感を覚える者は、誰も居ない。

唯一──騎士団長ダグラス・ハーロウだけが、狂騒的な空気に眉を顰めていた。


(気に入らぬスキルの者が召喚されれば無かったことにし、聖女が召喚されたなら喧伝する……結局、異世界召喚の儀も、王家のプロパガンダではないか)


彼の心には、今も最初に召喚した女性の怒りと悲しみに満ちた瞳が焼き付いていた。

戦場で、敵対する者は何人も(ほふ)ってきた。

ダグラスは、騎士だ。

人の死には慣れているはずなのに──戦う技を持たず、身を守る術を知らぬ女性を魔の森に置き去りにした、その事実はいまだ彼の心を蝕み続けていた。


聖女サヤを前にしても、他の者達のように傾倒はしない。

礼儀は尽くしつつも、一線を置いて振る舞っていた。


──そんなダグラスに、ダンジョンを根城にする“魔女”討伐の命令が下されたのは、聖女サヤが召喚された翌月のことだった。


「は……私が、ですか?」

「そうだ。百戦錬磨のお前ならば、如何な魔女とはいえ、太刀打ち出来まい」


王太子エリオットは聖女の肩を抱き、ダグラスに視線を向けることもない。

聖女が現れてからというもの、彼の全ては、聖女に注がれていた。


「本気で……そう仰っているのでしょうか」


ダンジョンを根城にする“魔女”──正体も定かではない存在。


如何にダグラスが騎士として高名であっても、彼は騎士だ。

剣を持って、敵と戦う。

その剣が、果たして魔女と呼ばれる相手にどの程度通用するか──如何なダグラスとて、未知数だ。


「なんだ、不満か?」


エリオットが、ようやくダグラスに顔を向ける。

その瞳には、冷たい光が宿っていた。


「騎士団長様は、歴戦の勇士と聞き及んでおります」


冷え切った空気を、華やかな声が彩った。

聖女サヤの甘い声。

どこか鼻にかかった甲高い音色に、エリオットの表情は一瞬で綻んだ。


「おお、そうだとも。ダグラスは我が国有数の使い手。それに、此奴(こやつ)にはスキルがある。魔女相手でも、遅れを取ることはなかろう」

「まぁ、頼もしい」


ころころと、鈴を転がすような声。

やりとりだけ聞けば、ダグラスを信頼して重要な任務を託そうとしているように聞こえるだろう。

だが、当のダグラスだけが感じ取っていた。


(彼女は、笑いながら人を死地に送り出すのだな……)


聖女と呼ばれる女性──彼女から薄々感じていた違和感。

その正体を目の前で見せつけられて、ダグラスは表情を隠すように、深々と頭を垂れた。


「良い報せを待っている」

「は──」


王太子の声で謁見は打ち切られ、ダグラスは退室を余儀なくされた。




重い扉が、音を立てて閉まる。

厚い扉に隔てられ、騎士団長ダグラスの姿は掻き消えた。


(ようやく──あの邪魔な男を始末出来る)


王太子エリオットの腕の中で、聖女は一人、口元に歪んだ笑みを浮かべた。


ロドニー王国に召喚された聖女、サヤ。

聖女と呼ばれはしているが、彼女が使える魔法は、教会で働く治療師に毛が生えた程度だ。

そんな彼女がなぜ、聖女と呼んで崇められるまでになったか──理由は、彼女が持つスキルにあった。


サヤが持つスキル──“魅了”。

異世界に召喚された時に発現したスキルによって、彼女の地位は揺るぎない物となった。

唯一、スキル“状態異常無効”を持つ騎士団長ダグラスだけが、聖女の“魅了”に抗い続けてきた。


聖女を熱狂的に支持する層と、ダグラスとの温度差は、既に浮き彫りになっている。

そして、聖女サヤはダグラスを確実に始末する為に、既に芝居を打っていた。

ダグラスとの短い会話の後に、わざと涙を見せて、騎士達の怒りを煽る。


あとは、彼の部下である騎士達が、ダグラスを取り囲める状況を作るだけ。

魔の森奥深くにあるダンジョンでの魔女討伐──それは聖女に心酔した騎士達が、上官であるダグラスを仕留める良い機会になるだろう。


(後は、全て私の成すがままだわ──)


サヤと最も親密な王太子エリオットは、既に彼女の手中にある。

譫言(うわごと)のようにサヤの名を呼びながら自らを求めるエリオットの頬を、サヤは愛おしげに撫でた。

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