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追放召喚者のダンジョンには、最強竜と魔狼(もふもふ)が住んでいます ~魔力SSSで始めるスロー・ダンジョンライフ~  作者: 黒猫ている


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36:街は今日も騒がしい

初めての依頼以降、私達は目立たぬように地味な依頼ばかりを重ねていった。

やりとりに辟易したというのもあるが、どうやら私は派手な討伐依頼より、街中を駆け回る雑用みたいな依頼の方が性に合っているらしい。

メドゥーサの首三体が入った布袋は、酷く重かったものね……。


それと比べて、薬屋さんの倉庫整理の依頼の、なんと気楽なことか!

いや、倉庫の中には劇薬もあるという話だから、気は抜けないのだけれど……一度棚を全てどかした後、汚れた壁を綺麗にお手入れするのには、日本のお掃除アイテムがとても役に立つ。

埃や薬品を吸い込まないようにちゃんとマスクを着用して、半日倉庫整理とお掃除をしただけで驚くほどの賃金が貰えるのだから、冒険者って凄い。


いや、依頼の報酬は、決して多くはない。

多くないはずなのだが、磨かれた倉庫を見た依頼主が、倍以上の報酬を上乗せしてくれたのだ。


「ぜひとも、またお願いね!!」


なんて、手を握られてしまった。

凄いのは私じゃなくて、日本のメーカーなんだけど……感謝されて、悪い気はしない。


そんなこんなで、今日も無事に依頼達成!

無事に報酬を受け取り、ほくほく顔でギルドを出て宿屋に戻ろうとしたところで──、


「ちょっといいかしら」

「はい?」


複数の女性達から、声を掛けられた。

彼女達が身に付けているのは、鎧だったりローブだったりと様々だが……おそらくは、皆冒険者なのだろう。

ギルドの中でも、何度か見かけた覚えがある。


「ちょっと話があるの」


ついてこいとばかりに、通りを歩く。

通りを曲がって一歩細い路地に足を踏み入れれば、雑多な荷物が積み上がっていたりと、街は大通りとは違った表情を見せる。

女性達は路地裏で足を止め、こちらを振り返った。


「貴女、ジェレミーさんの何なの?」


女性の一人が、眉を吊り上げて聞いてきた。

居丈高な態度から、並々ならぬ敵意が滲み出ている。


「何……と言いますと?」

「とぼけないで!! 彼は今まで、決まったパーティーなんて組まなかったのよ!? それが、なんで貴女とばかり……っ」


そうは言われても、私だって四六時中ジェレミーさんと一緒に居る訳ではない。

今日みたいな雑用仕事の時は流石に付き合わせるのは申し訳ないと、ガルムと二人だけで向かっている。

ヴィルベルはヴィルベルで、初日の騒動以来ギルドでは一目置かれている節があり、目立つのを嫌がって、あまりギルドには付いて来たがらない。

ま、単に人混みが面倒ってだけかもしれないけれど。


「別に、ただの知人程度だと思いますが……」


それ以上に、なんと答えてみようもない。

事実、その通りだ。

友人……というほど、彼と親しくしている訳でもないしなぁ。


「なによ、Fランクの初心者のくせして、馴れ馴れしくジェレミーさんに近付かないで!!」


先頭の女性が声を荒らげ、周囲の女性達も、それに同意するように頷く。

うわぁ……皆さん、ひょっとしてジェレミー親衛隊か何かですか?

一種異様な空気に、ちょっとドン引きしてしまう。


「別に馴れ馴れしくするつもりはないので……」


どうぞご勝手にと言いたいところだが、向こうはそれでは納得してはくれなさそうだ。

この人達、前からジェレミーさんに声を掛けては断られていたんだろうな……。


「はぁ!? あんたなんか、ジェレミーさんのおかげで討伐出来てたくせに!!」


……思い出した。

この人達、あの時──ギルド職員さんと一揉めした時に、酒場で屯していた人達だ。

彼女達も、あの職員さんと同じように、討伐はジェレミーさんのおかげと思っているのだろう。


ああ、腹が立つ。

なんて言い返してやろうか──と考えていたところで、背後から笑い声が響いた。


「ふふっ、また騒動に巻き込まれているようだねぇ」

「わっ!?」


うわぁ、ビックリした。

振り返れば、そこにはギルドの副長であるキーリーさんが妖艶な笑みを浮かべていた。

そうだ、ここはギルドのすぐ側。

誰か知っている人に見られないとも限らない。


ジェレミーさんや、万が一ヴィルベルに見付かりでもしたら、面倒なことになるところだった。

キーリーさんで良かったと思うべきか。


「こんなところに大勢で一人の新人冒険者をつるし上げとは、なかなか穏やかじゃないねぇ」


ジロリと、キーリーさんが女性冒険者達を睨め付ける。


「違うんです、これは……っ」

「何が違う?」


口調こそ穏やかだが、キーリーさんの瞳には、静かな怒りが宿っていた。

大勢で、一人を囲い込む──どこの世界でも、いつの世も、良くあることなのだろう。

ギルドを束ねる立場として、こんなことで若い冒険者の芽が摘み取られるのは、我慢ならないに違いない。


「ここはギルドの外だから、個人的な揉め事には関与はしない。ただ、登録したての冒険者に難癖を付けて絡もうと言うのなら──」


キーリーさんの口元に浮かんだ笑みが、ひときわ深くなった。


「容赦しないから」


誰かの息を呑む気配。

庇われた私でさえ、背筋がゾクッとした。

正面から睨まれた彼女達は、すっかり怯えきった表情だ。


ギルドの副長というだけあって、キーリーさん自身、元は凄腕の冒険者なのだろう。

私を取り囲んだ若い女性達とは、場数が違っていそうだ。


「すっ、すみませんでした!」

「そんなつもりじゃなかったんです!!」


女性達がそう言い残し、パタパタと路地を走っていく。

後に残されたのは私とキーリーさんと、呆れたようにやりとりを見守っていたガルムだけ。


ごめんねガルム、変なところを見せてしまって。

ガルムったら、退屈そうに欠伸をしているわ。

ガルムもヴィルベルも、心底人間達のやりとりには興味がないんだなぁ。


ともあれ、変なちょっかいを掛けようとしていた女性達は、立ち去った。


「キーリーさん、ありがとうございました」

「いえいえ」


私が頭を下げると、キーリーさんは目を細めて笑った。

こうしていると、気風の良いお姉さんだ。

先ほどの怖い雰囲気は、微塵も感じられない。


「目立つ子は、どうしても絡まれることが多くなるからねぇ。気をつけるといい」

「目立ってます……かねぇ?」


目立つ理由の大半は、ジェレミーさんやヴィルベルと一緒に居るからな気もする。

私自身は、そりゃテイマーという職は珍しいみたいだけれど……ただのFランク冒険者に過ぎない。


「少なくとも、私は注目しているよ」


キーリーさんがニコニコと、とんでもないことを言ってきた。

副長に、注目されている?

一体どうして──と口にしかけたところで、通りの向こうに、大きな影が差した。


「──居た、スズカ!」


真っ直ぐ、こちらに駆け寄ってくる大きな体躯──ヴィルベルだ。

私がなかなか帰らないから、迎えに来たのだろうか。


「ごめん、ヴィルベル。待たせちゃったかな」


キーリーさんも女性にしては大柄で長身だと思っていたけれど、ヴィルベルと並ぶと、比べるべくもない。

私を庇うように立ち塞がったヴィルベルの身体を、キーリーさんが上から下までジロジロと眺めている。


「うーん、なかなかだねぇ。彼は冒険者登録しないのかい?」

「あー、興味がないそうです」

「そうか、それは実に残念」


ヴィルベルが冒険者登録は……流石に、想像が出来ない。

私が一緒でなければ、こうして街に来ることもなかっただろうしねぇ。


「なんだ、この女は」


ヴィルベルが、高みからキーリーさんを見下ろす。

その瞳に宿る殺気に、キーリーさんの口元が僅かに弧を描いた。


「この女とか言わないの! 彼女は、私を助けてくれたんだから」


慌てて、ヴィルベルを制する。

助けてくれたキーリーさんに、失礼なことを言われては、たまらない。


「……そうか」


それっきり興味を失ったように、ヴィルベルはキーリーさんからふいと視線を逸らした。

一方、キーリーさんの瞳は強い光を湛えたままで、私とヴィルベルを見つめている。

う、なんだかいたたまれない。


「キーリーさん、どうもありがとうございました」


ぺこりと頭を下げ、そのまま路地を立ち去ろうとする。


「ああ、気をつけて」


にこやかに手を振って、私達を見送るキーリーさん。

私達が角を曲がるまで、その視線が注がれていたのは……きっと、気のせいだよね?




「んもう、宿で待ってるって言ってたのにぃ」

「スズカが遅いからだ」


街での生活は、どうやらヴィルベルにとっては退屈らしい。

あのダンジョンより活気があるし、人もお店もいっぱいで、行くところも見るところも色々あると思うんだけどなぁ……ヴィルベルにとっては、漫画や小説、DVDがないのが致命的なんだろうか。


「うーん、毎日暇なら、明日は久しぶりに一緒に討伐でも出てみる?」

「なら、行く」


段々と、ヴィルベルが大きな子供みたいに思えてきた。

ま、ここのところ私が好きな雑用系の仕事ばかりしていて、ヴィルベルもガルムも退屈そうだったもんね。


明日は、久しぶりに二人を運動させるとしますか~!

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