34:初依頼は★4でした
ヴィルベルが手に取ったのは、Cランク冒険者向けの依頼の中でも、最高難易度の討伐依頼──書類には★マークが四つ並んでいる。
「ちょっとヴィー、どんな依頼か見ないで取ったでしょ!」
「当たり前だ、見る必要もあるまい」
そりゃ、貴方はどんな相手でも力尽くでねじ伏せられるだろうけれど、こっちはそうじゃないんだからね。
文句を言うより先に、ヴィルベルはさっさと依頼書をギルドのカウンターに提出してしまう。
「こちら、引き受けてくださるんですか!? 助かります!!」
明らかに寝不足そうなギルド職員さんが、拝む勢いで頭を下げてきた。
一体どんな依頼なんだ……。
「いやー、受けてくださる方がいらっしゃらなくて、困っていたんですよね。そろそろ対象ランクを引き上げるべきかって、検討していたんです」
うん?
それは、もう少し待てばBランクの冒険者が対象になっていたということ?
ジェレミーさんでさえ、Bランクだというのに……つまりはこの依頼、彼が引き受けてもおかしくないレベルってことになる。
「依頼の詳細は、こちらに書いてあります。どうか、よろしくお願いします!」
職員さんに渡された書類に、慌てて目を通す。
そこに書かれていたのは、日本でも有名なモンスターの名前だった。
──メドゥーサ。
ギリシャ神話に登場する怪物で、蛇の髪を持つ女性の姿でよく描かれている。
ゴルゴン三姉妹の一人で、見た相手を石に変えてしまうという特殊能力を持つ。
そのメドゥーサが、沼地に住み着いたらしい。
人里からもそう離れていない場所で、このまま討伐が長引くようならば、村ごとお引っ越しも検討していたんだとか。
確かに、ご近所さんがメドゥーサは物騒だ。
うっかり迷子になった子供や、森で仕事をしていた狩人が、石像になっても困る。
依頼って聞くとすごく事務的に感じるけれど、実際に困っている誰かの声ってのは、生々しいね。
「メドゥーサか……どう戦ったものか」
乗り合い馬車で移動する間、ジェレミーさんは腕を組んで考え込んでしまった。
神話では、磨き上げた盾を使うんだよね。
でも、そんなのすぐに用意出来る訳でもない。
「そんなの、沼地ごと吹っ飛ばせばいいだろう」
うん、ヴィルベルは今日も脳筋だ。
「なるべくなら、環境はそのままに討伐した方が良いのよ」
生態系がどうとか、自然破壊とか、この世界で気にする人は少ないのかもしれない。
でも、日本人の私は気になっちゃうんだよね。
それに、メドゥーサがもし神話通りのモンスターだというのなら、どうにかなるかもしれない。
「ねぇ、この戦い……私に任せてもらえないかな」
私の言葉に、ヴィルベルがあっさりと頷く。
唯一、ジェレミーさんだけは不安を隠しきれてはいないようだけれど……ま、大丈夫。
アイテムクリエイトとモンスタークリエイトを使える私には、いっそやりやすい相手なんだよね。
という訳で、やってきました、鬱蒼と草木の生い茂る沼地。
濁った沼を迂回して森の奥へと進めば、そこにぽっかりと洞穴が口を開けていた。
「あの奥だ」
ジェレミーさんが、声を潜める。
剣と盾をしっかりと構えて、いざとなれば自分が戦う気で居るのかもしれない。
でも、多分ジェレミーさんの出番はないからね。
「じゃ、召喚しちゃうね」
端末を取り出して、管理室にある操作パネルと同じように、ダンジョン機能にアクセス完了。
「えぇと……」
クリエイトしたいモンスターを入力して、早速召喚。
目の前に突如現れた大きな影に、ジェレミーさんがあんぐりと口を開けた。
「これは……!?」
「へっへー、対メドゥーサ戦の秘密兵器だよ!!」
クリエイトしたモンスターを洞窟の奥へと進ませて、私達は沼地で待機。
ただ待っているだけじゃ中の様子は分からないし、アイテムクリエイトで偵察用ドローンと携帯用の小型モニターをクリエイトしてみた。
洞穴の中を進むドローンが撮影した映像が、モニターにくっきりと映し出されている。
良かった、暗いところだからちゃんと見えるか心配だったんだ。
さすがは偵察用ドローンだけあって、ちゃんとカメラは暗視対応型みたい。
「な、なんだこれは……」
初めてモニターを見るジェレミーさんは、薄型モニターの後ろ側を覗き込んだり、ペタペタ触ってみたりと、なんとも新鮮な反応を示してくれる。
「私の世界のアイテムなんだ」
「どういう世界なんだ……」
「こことは全然違う、文明が進んだ世界だ」
ジェレミーさんの疑問には、なぜかヴィルベルが答えてくれた。
ヴィルベルもレムスも、すっかり日本に詳しくなったもんね。
これくらいじゃ、驚きもしない。
モンスターの後を追うように、ドローンが洞穴を進んでいく。
入り口付近には、苔に覆われた石像がいくつも転がっていた。
……既に犠牲者が出ているんだ。
なおさら、近隣の村の人達の為にも、はやく討伐しなくてはいけない。
「あ」
モニターに映し出されたモンスターが、突如動きを速めた。
巨体を動かし、真っ直ぐに突進している。
どうやら、メドゥーサと接敵したみたい。
「がんばれ~」
なんて暢気に応援しているけれど、実はこのモンスター、メドゥーサにとっては相性最悪なんだよね。
だって、私がクリエイトしたのはストーンゴーレム──最初から、石の身体なのだ。
上空から映し出されたメドゥーサは、うねうねと蠢く蛇の髪をしている。
うん、やっぱり神話通りのメドゥーサだ。
とはいえ、特殊能力が凶悪なだけで、メドゥーサ本体は女性の身体。
ストーンゴーレムにたこ殴りにされて、あっという間に洞穴の奥に倒れ伏す。
……あれ、奥からさらに二体のメドゥーサが出てきた。
神話の通り、この沼地に棲むメドゥーサも、三姉妹だったのかな。
とはいえ、二人居ようが三人居ようが、特殊能力が通用しないストーンゴーレムの前では、ごく普通の女性と大差ない。
哀れ三体のメドゥーサは、洞穴の最深部で屍を積み上げたのでした。
モンスターの処理は、慣れたジェレミーさんに任せることにした。
討伐の証拠となる部位──メドゥーサの場合は、頭部らしい──を布袋に入れて、冒険者ギルドに持ち帰れば依頼達成。
凶悪なモンスターと言えど、人に近い姿形のモンスターだ。
入り口にある石像を見ていなければ、もっと心が痛んだかもしれない。
髪が蛇とはいえ、女性の頭部が三体布袋に入っているのはちょっと想像したくないけれど……でも、誰も怪我をすることなく無事に依頼完了したとなれば、なんとも感慨深い。
「案外、簡単だったね」
「当たり前だ」
帰りの馬車の中、感想を口にする私とヴィルベルを、ジェレミーさんが信じられない物を見るような目で見つめていた。
「こんな依頼達成は、初めてだ……」
ついには、顔を覆って俯いてしまった。
うーん、そんなにおかしなことしたっけなぁ……?
何はともあれ、初めての冒険はこうして無事達成したのでした。
さーて、ギルドに戻って、報酬をもらうぞ~!









