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追放召喚者のダンジョンには、最強竜と魔狼(もふもふ)が住んでいます ~魔力SSSで始めるスロー・ダンジョンライフ~  作者: 黒猫ている


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3:最強の死黒竜、現る!?

「な、な……」


見上げるほどの、巨大な影。

私とガルムを庇うように、ゴーレムが立ちはだかってくれているけれど……明らかに、サイズが違う。


言うならば、これは小さな山だ。

それほどの質量を持つ“なにか”が、天井を突き破ってこのホールに舞い降りてきた。


……いや、どうやら突き破ったのはここの天井だけではないらしい。

操作パネルによると、ここはダンジョンの最下層。

ここに至る迄の天井と床、全ての階層をぶち破って、この巨体はここに現れたのだ。


『貴様が、このダンジョンの主か?』


ホールに響く低い声は、目の前の巨体から発せられたものか。

ゴーレムだけではない、ガルムもまた四本の脚を踏ん張って、全身の毛を逆立てて唸っている。


「そういう貴方は誰ですか」

『我か? 我は北の地を支配する死黒竜(しこくりゅう)


私が声を上げると、ちゃんと返事が返ってきた。

良かった、話は通じるみたい。


「……マスター、あの竜の一息で、このフロアは消し飛びます。どうかご注意を」


ゴーレムの視線は、油断なく目の前の巨体に向けられていた。


なるほど、あまりに大きすぎて全体像が把握出来ずによく分からなかったけれど、目の前に居るのは竜なのね。

視界に入っているのは、竜の腹部分なんだわ。

最下層フロアに入りきらなくて、おそらく顔部分は上のフロアにあるんだと思う。

声は上の階層から腹の内側を震わせて響き、ここまで届いてきた。

……随分と間抜けな状態だ。


それに、四国竜(しこくりゅう)って……竜の名前にしては、いまいち威厳を感じない。

ご当地ローカルなノリは悪くないけれど、それにしても、なぜ四国。

いや、日本の四国をイメージしていたが、ひょっとしたらこちらの世界で四国と言うと、もっと違う国を指しているのかもしれない。


「で、その四国竜が何の用?」

『魔の森に、突如として巨大なダンジョンが現れたではないか。気になってな、様子を見に来たのだ』


なるほど。

「俺のシマに突然なんか出来たみたいだ、ちょっくら様子を見てくるか」ってこと?

喧嘩腰って訳ではないけれど、突然天井をぶち破って現れたのは、感心しない。


「こっちは、楽しいお食事タイムだったんですけど」


腹が立って、つい文句が口を()いて出てしまった。

相手は巨大な竜──ドラゴンだ。

我ながら、怖い物知らずだとは思う。

でも、一度は死を覚悟した身……今更怖いものなんて無い。


何より、この世界に来てから腹が立つことばかりだもの。

四国竜だか何だか知らないけれど、これ以上舐められてたまるもんですか!


『食事……とは、この匂いのことか』


クンクンと、鼻を鳴らす音──どころではない。

上のフロアから、ゴォー、ゴォーと、荒い息が聞こえてくる。


ここから見ると、竜のお腹部分しか見えないんだよね。

全体図は、いったいどうなっているのやら。

竜の顔を目の当たりにしていたら、流石にあんな物言いは出来なかったかもしれない。


「そうよ、せっかくすき焼きの準備が出来て、これからガルムにもお腹いっぱい食べさせてあげるつもりだったのに」

『すきやき? すきやきとはなんだ』

「私の祖国の料理よ」


やっぱり、こちらの世界には無いよね、すき焼き。

あったとしても、人間の食べ物をドラゴンが知るわけないか。


気付けば、天井のボロボロになった瓦礫の隙間から、どろり……と液が漏れてきた。

一体何だろう……と思っていると、ゴーレムがそそくさとテーブルとカセットコンロ、鍋を避難させる。


「これは死黒竜の(よだれ)です」


うわ、ばっちぃ。

だばだばと垂れ落ちる涎は、巨体の足元に水溜まりを作っていた。


『こんな匂い、嗅いだことがないぞ。なんだ、この食べ物は!?』

「だから、すき焼きだって」


日本の食べ物なんだから、この竜が知らなくても不思議はない。

それはそれとして、楽しい食事時間を邪魔しないでいただきたい。

ただでさえ人のダンジョンを突き破って、迷惑この上無いというのに。


『そのすきやきとやら、我にも食べさせろ!!』

「そんなこと言われても、こんなどでかいドラゴンに食べさせるほどの量は作れないって」


私の魔力量なら、食材自体をクリエイトすることは問題ないだろう。

けど、巨体のドラゴンが満足するだけの量を調理するのは勘弁願いたい。

そこまでしてあげる義理もない。


『む……ならば、これでどうだ』


そう言うなり、目の前にあった巨体──ドラゴンの腹が、みるみる小さくなっていく。

と同時に、天井からパラパラと瓦礫が落ちてきた。

あーあ、せっかくのダンジョンをぶち抜いてからに……何してくれてんのよ、この四国産ドラゴン!!


「このサイズならば、問題あるまい」


気付けば、黒髪紅瞳の偉丈夫が立っていた。

ゴーレムよりも長身で、逞しい体躯。

小説やゲームに出てくる騎士様のような出で立ち……だけれど、どうも残念な雰囲気が付き纏っている気がするのは、中身があの涎垂らしまくりローカルドラゴンと知っているからだろうか。


「そうまでして、すき焼きを食べたいと?」

「ああ、早く作るが良い」

「ああ?」


作るが良いぃ?

どうして上から目線なのよ、この竜……もとい、この男。

人の住処に無断で侵入して、人の家を壊して、挙げ句の果てにさっさと飯を作れ?

傲慢にも程がある。


「“作ってください”でしょ」

「……は?」


四国竜だった男が、目を丸くしている。

こんな風に文句を言われたのは、初めてなのかもしれない。


「人に物を頼む時は、それなりの言い方ってものがあるでしょ!」


四国竜は、ぽかーんと口を開けている。

一方、ゴーレムは私の隣で笑いを堪えて肩を震わせていた。

ゴーレムという割には感情豊かじゃない、貴方。


「どうなの、それとも食べないで帰る?」

「つ……作ってください……」


勢いに圧されるようにして、四国竜が小さく呟いた。

声は小さいけれど、まぁ、良しとしましょう。


「よろしい。じゃ、そこに座って待ってて」


幸いにして、クリエイトしたダイニングテーブルセットは、四人掛けだ。

四国竜を正面の椅子に座らせて、再び調理再開。

ゴーレムがテーブルを移動させてくれて、助かった。

下手をすれば、瓦礫やドラゴンの涎まみれになっていたかもしれない。


「それは何だ?」

「え? それって?」


突然の元四国竜の言葉に、首を傾げる。


「お前が手に持っているものだ」

「ああ、箸のことですか」

「はし?」


正確には、菜箸だけれど。

この世界には、箸はないみたいね。

ま、あったとしても、ドラゴンは使わないか。


「私の住んでいた国では、これを使って食事をするんです」

「そうなのか」


感心しているのか、どうなのか……よく分からない反応だ。

菜箸を手に、和牛の薄切りを掬い上げては、割り下に潜らせる。

肉を掴んだ箸を動かす度に、元四国竜とガルムの視線が箸につられて右へ左へと動いていた。


先ほどの騒動で、すっかり野菜はくたくたに煮えてしまった。

ガルムの分と四国竜の分とを小皿に取り分け、二人の前に差し出す。

人の姿に変じた四国竜には箸を渡して、ガルムには私が食べさせてあげることにしよう。


「はい、あ~ん」

「アンッ!!」


ガルムが元気な声を上げて、お肉に齧りつく。

あ~、かわいい。

尻尾がぶんぶんと揺れている。


ガルムに食べさせながら、私も食べてしまおう。

自分の分を皿によそおうとしたら──、


「な、なんだこれはああぁぁぁ!!」


向かいの席から、怒号が聞こえてきた。


「……うるさい」

「何がうるさいか、貴様、どうしてそのように正気で居られる!?」

「どうしても何も、そっちの方が一体どうしたのよ」


見様見真似で箸を手にしたまま、四国竜(人型)はぷるぷると震えていた。

彼の小皿を覗き込めば、中身はすっかり空になっている。


「こんな美味い物は、初めて食べたぞ!! お前の国では、いつもこんな物を食べているのか!?」

「うーん、すき焼きは毎日食べるっていうより、お祝い事とか特別な時に食べる料理だけれど……基本、何を食べてもそれなりに美味しいとは思う」

「なんという……」


空になった小皿を見下ろしたまま、四国竜がふるふると震えている。

まぁ、すき焼き美味しいもんね。分かる分かる。

私も某老舗店で食べた時は、感動したもの。


「もっと盛ってくれ!!」

「ワン!!」


四国竜の言葉に、ガルムまでが同調するように声を上げた。

まったく、こっちはまだ一口も食べていないというのに……食いしん坊だなぁ。


「はいはい、順番に作るから、待っててね」

「マスター、お手伝いしましょうか?」


どうやら私の動作を見ていて覚えたらしい、ゴーレムが声を掛けてきてくれた。


「作ってくれるの? 助かるわ」

「はい、マスターもどうぞお召し上がりください」


最初は怪しげな不定形って思ったけれど、前言撤回。

このゴーレム君、なかなか気が利くじゃない。

調理は彼に任せて、私の分をよそって、パクリと一口。


「ん~~~~~~っ」


やばい、口の中で蕩ける……。

溶き卵がほどよく絡んで、甘辛い味がまろやかになって……ん~、やっぱり最高ね。


私の食べる様子を、四国竜とガルムがまた二人揃って見つめている。

食いしん坊二人組か。


「はい、ガルム、あーん」


可愛いガルムには、ついつい甘くなってしまう。

私のお肉を一枚分けてあげると、四国竜が唇を尖らせていた。

見た目はイケメンなのに、子供っぽい仕草をするのが何とも不思議な感じだ。


「ガルムとは、その魔狼の名か。そいつだけずるいぞ」

「はいはい、待ってなさいよ」


元は巨体のドラゴンとはいえ、こうなると怖さもへったくれもないわね。

ゴーレムがよそってくれたお肉を、慣れない箸使いでガツガツと書き込んでいる。


「ふ~、食べた食べた」


四国竜とガルムが満腹になったのは、追加で何度も和牛と野菜、焼き豆腐をアイテムクリエイトした後のことだった。

満足げに椅子の背もたれに身を投げ出す様は、とても威厳あるドラゴンとは思えない有様だ。


「お主、ダンジョンマスターということは、他の食べ物もクリエイト出来るのだろう?」

「まぁ、多分」


四国竜の言葉に、曖昧に頷く。

すき焼きが作れたのだから、同じように他の料理も作れるのだろう。

……なんだか、嫌な予感がする。


「よし、決めた。俺もこのダンジョンを根城としよう!」


ほらー、やっぱり。


「それって、要はただ飯を食べたいってだけよね?」

「悪いか?」

「悪いに決まってるでしょう!!」


どうして悪びれないのか、このドラゴン。

最初に現れた時から、横暴過ぎる。


「見てよ、貴方のせいでダンジョンがこんなになっちゃったのよ!?」


そう。

せっかく大きくなったダンジョンの天井には、今もぽっかりと穴が空いている。

このフロアの天井だけではない、巨体のドラゴンが床を突き破ってやってきた為に、見上げれば遙か上空に夜空が広がっている。

わぁ~、いつの間にか雨が止んで、夜になっていたんだ~……なんて言っている場合か!


「ダンジョンマスターなら、この程度あっという間に修復出来るだろう」


だと言うのに、当の本人はまったく悪びれない。


「そうなの?」

「ええ、即時修復が可能です」


ゴーレムに確認したら、本当に修復出来るらしい。

それも、ダンジョンクリエイト機能の一部かしら。

ダンジョンって凄い。


「だからって、迷惑をかけたことには変わりないでしょ。それに、ご飯だってただじゃないのよ」

「アイテムクリエイトで生み出せば良いではないか」

「それも全部私の魔力でしょ!」


どうしてこうも偉そうなのか、このドラゴン。

このままでは、本当にここに居着いてしまいかねない。


「俺が居れば、どのような敵が侵入してきても対処出来るぞ」

「貴方が一番の敵なのよ」


自分が侵入してきた側だということを、忘れているのかこいつは。


「用心棒だと思え」


ああ言えばこう言う……。

追い出したところで、なんだかんだ居着いてしまいそうなんだよなぁ。


「どうしたものかしら」

「恐れながら、死黒竜と言えば北方死の大地を統べる存在。味方にしておけば心強いかと」


困り果てた私に、ゴーレムが助言してくれる。

四国竜のしたり顔が、なんとも腹立たしい。

どうしたものかと視線を巡らせれば、お腹いっぱいになったのか、子犬のガルムは私の足元で丸くなってすやすやお眠りタイムだった。


「ただでさえ色々あっていっぱいいっぱいなのに、この上竜と同居なんて、どうしろって言うのよぉ……」


召喚に、城を追い出されたことに、ガルムと出会ってダンジョンマスターになったことに、ドラゴンとの遭遇に……と、一度に色んなことが起きすぎです。

これまでの人生の数百倍は濃い出来事が、一気に押し寄せてきた気分だわ。


「竜という呼ばれ方は不本意だな……ふむ、其方確かこの魔狼に名を付けておったか」

「ガルムのこと?」

「そうだ。同じように、俺にも名前を付けるが良い」


突然のリクエストだった。

名前を付けろと言われても……四国竜の名前でしょ。

竜と言うからには格好いい名前が良いのかなって思いはするけれど、どうしても日本の四国のイメージが離れない。


うーん。

四国、四国……行ったことはあるんだけれど、実はあまり覚えていないんだよね。

鳴門の渦潮とかは写真に撮ったから覚えているんだけど……渦。渦かぁ。


「ヴィルベル……」

「む? それはどういう意味だ?」

「確か……私の世界で“渦”って意味」


そうだ。

ヴィルベルというのは、ドイツ語で渦を示す言葉だったはず。


「ふむ、ヴィルベル……渦か。良いな、旋風を巻き起こす俺に丁度良いではないか!」


どうやらお気に召したみたい。

いやー、良かった良かった。


それにしても、魔狼のガルムに、四国竜のヴィルベルに、ゴーレムにって……なんだか妙な取り合わせ。

あの王太子に追放されて、殺されかけたけれど、新しい生活はなかなか賑やかになりそうじゃない?

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