21:モニター越しの現実
最初の冒険者に発見されて以来、少しずつ冒険者がダンジョンにやってくるようになった。
ダンジョンを訪れる冒険者達は皆慎重で、マップを片手に、地形や道順を調べるように探索を進めている。
レムス曰く「マッピングをしているのでしょう」とのこと。
それはそうだよね、ゲームみたいにぐぐればマップが見付かる訳ではない。
実在するダンジョンのマップは、誰かが作らなければいけないんだ。
そんな当たり前のことを、今更実感してしまう。
今日も暇な時間は管理室のモニターで、冒険者達の動向を見守ってしまう。
「こんな連中、さっさと追い出せば良いものを……」
「もう、そう言わないの」
ヴィルベルは、相変わらず冒険者達が来ることに否定的だ。
「モンスターが居る以上は、多少の犠牲は仕方ないとは思うんだけど……それでも、あんまり死んでほしくないんだ」
ダンジョンマスターとしては、甘すぎるのだろう。
それでも、同じ人間として──日本人として、命は大事にしたい。
その方針だけは、曲げる気はない。
「モンスター達には、追撃禁止を徹底してあります」
「うん、ありがと」
これがうちのダンジョンの基本方針。
今もモニターには、地下7階でアナコンダと戦う冒険者の姿が映し出されている。
「一番奥まで進んだ冒険者で、今どれくらいだっけ?」
「現在のところ、地下16階までの侵入を確認しております」
このダンジョンも、地下深くに進むにつれて強力なモンスターが出てくるようになっている。
聖域エリアに到達するより先に、死の大地エリア──ドラゴンの巣が待ち構えている。
どれほど手練れの冒険者であっても、突破は難しいだろう。
攻略が不可能なダンジョン──それは、無理をすれば死を招くという意味でもある。
一人でも無理せずに退却して、生き残ってくれれば良いのだけれど……そんなことをぼんやりと考えていたら、突然大きな掌で目の前を塞がれてしまった。
「え? 何?」
いきなりの目隠し。
落ち着かずに腰を浮かしかけた私の背後で、低い声が響いた。
「お前には、少し刺激が強すぎる」
「え……」
『だ~れだ』なんて明るい声を掛けられることを、期待していた訳ではない。
だけど、後ろから聞こえてきたヴィルベルの言葉は、それってつまり……。
「少しモニターを切っておきましょうか?」
冷静なレムスの声が響く。
モニターに、私に見せたくない物が映し出されているということなのだろう。
「……大丈夫。多分、だけど」
絞り出した声は、どこか震えていた。
本当は、怖い。
だって、スプラッタ映画だって目を逸らしてしまうほどなのに、実際の映像だなんて……一度目にしてしまったが最後、一生忘れられないかもしれない。
それが私が管理するダンジョンで起きたことなら、なおさらだ。
「無理をするな」
呆れたような、ヴィルベルの声。
私が無理していることが、バレてしまったのだろうか。
「大丈夫ですよ、もう表示を切り替えましたから」
レムスの声が響いて、ようやく視界を覆っていた掌が外された。
監視用モニターには、先ほどとは別のフロアが映し出されている。
「さっきの冒険者達は……どうなったの?」
「死んだ訳ではありません。ただ負傷して、現在撤退中です」
「そっか……」
良かった……と、胸を撫で降ろす。
そんな私を見て、ヴィルベルが軽く肩を竦めていた。
自分でも、甘やかされているなぁって思う。
いつかは、血を見ることも、冒険者の死に対しても──何も感じなくなる日が来るのだろうか。
今はまだ、そんな日が来るなんて、とても想像が出来ない。
夕食の後、眠たそうなガルムに誘われるようにして、寝室へ。
赤竜との戦いで巨大化したガルムだが、どうやら大きさは自分で調整出来るらしい。
普段は大型犬くらいのサイズで、今も一緒のベッドで眠っている。
怪我はもう治ったけれど、ガルムの胸にはX字型の傷が残ってしまった。
当人は名誉の負傷だと胸を張っているけれど、見る度に申し訳なさがこみ上げてくる。
「もっと、平和に暮らせたら良いのにね」
「クゥン……」
いつものように、もふもふのガルムを抱き枕にして、目を閉じる。
平穏を祈りながら、眠りにつく──その願いは、ほんの数日で裏切られることになった。









