13:敵か、味方か
「マスター!?」
「おい、待て──」
「アォンッ」
三人の──二人と一匹の声が重なる。
しかし、それに答えるより先に、私の周囲は淡い光に包まれた。
……ポータルが起動した証だ。
次の瞬間、日本の高級マンションのような景色から、自然の岩肌が露出した天然のダンジョンへと変化した。
「うわああぁぁぁ!!」
耳をつんざくような悲鳴。
モニター越しでは伝わらなかった緊迫感が、肌を突き刺す。
転移場所から声のする方へと、ダンジョンを走る。
やがて鈍い金属音が響いてきて、角を曲がった瞬間──そこは“戦場”だった。
こんな程度でと、ヴィルベルなら笑うかもしれない。
でも、襲われたエルフ達は血に濡れていて……剣を手にしたエルフの傍らには、ひっくり返り、いくつもの足を痙攣させている巨大ムカデの姿がある。
明らかな戦闘の跡。
その痕跡に、私は一瞬息を呑んだ。
「──何者だ、貴様は」
剣を構えたエルフの青年が、鋭い声を上げる。
私がやってきたことに気付いた巨大ムカデ達は、すぐさまその動きを止めた。
一瞬の静寂。
命懸けの事態に直面したエルフの目には、焦りと警戒、そして隠しきれぬ敵意が滲んでいた。
しまった。
突然戦闘中のところに飛び込んでくるなんて、彼等が私を怪しむのは当然だ。
しかも……私の衣服は、アイテムクリエイトで作り出した二十一世紀日本風の物。
どう見ても怪しい人物にしか映らないだろう。
「答えないなら……」
青年が構えた剣の切っ先が、真っ直ぐこちらに向けられる。
ゾクリと、背筋が震えた。
え……私、斬られるの?
こんなところで……死んでしまうの?
僅かな時間で、様々な言葉が脳裏を駆け巡る。
しかし、私の不安が現実になるより先に──ダンジョンの巨大ムカデ達が、私を守るようにエルフとの間に立ち塞がった。
「面妖な奴め!」
「──待って!!」
彼が敵意を向ければ向けるほど、ムカデは私を守ろうと戦闘態勢を取る。
こんなんじゃ、とても話し合いなんて出来ない──分かっているけれど、どうしたらいいんだろう。
逡巡する私の耳に、小走りに駆け寄ってくる足音が響いた。
「アオオォーン!」
吠え声と共に、私の前に着地する姿。
今では中型犬くらいの大きさにまで成長した、ガルムだ。
ガルムは私の無事を確認すると、剣を構えたエルフに向かって、低く唸りを上げた。
「これは、魔狼──貴様、やはりモンスターを使役しているのか!」
「違うの、いや、違わないけど……どうか私の話を聞いて!」
「問答無用っ」
正対する、エルフの青年とガルム。
一触即発の空気の中、ゆっくりと近付いてくる足音があった。
「まったく……何も考えずに飛び出すから、こうなる」
「ヴィルベル……」
見た目だけならば、人間の男性とまったく変わらない。
だが、その内には大いなる力を秘めている──死黒竜と呼ばれ恐れられている、ヴィルベルだ。
「で、どうするスズカ。こいつら……殺すか?」
ヴィルベルの眉間には深い皺が刻まれ、彼の鋭い瞳は、ギロリとエルフ達を睨め付けていた。
私に剣を向けたから、相当怒っているのだろうか。
「だ、ダメ!! そんな喧嘩腰にならないで!」
「なぜだ、最初に喧嘩を売ってきたのは、こいつらだろう」
殺気とは、今目の前の男から放たれている物のことを言うのだろうか。
戦いとは無縁の世界で生きてきた私でさえ、ヴィルベルが発している恐ろしいオーラが感じ取れた。
この世界に生きるエルフにとっては、なおさらか。
ヴィルベルの殺気を真っ正面からぶつけられ、エルフの青年の顔は見事に青ざめていた。
その後ろに居る幼いエルフは、震えながら母親らしき女性にしがみ付いている。
「事を荒立てる為に来た訳ではないの。だから……」
ヴィルベルを諭した後、エルフの青年へと向き直る。
先ほどの敵意はすっかり消え、彼の顔には、恐怖と諦観が滲んでいた。
「話を、聞いてくれる?」
戦意を失った今ならば、彼等と話が出来るだろうか。
エルフの青年はゴクリと唾を飲み込んだ後、ゆっくりと頷いた。









