11:静かな要塞
レムスの報告を聞いてすぐに監視カメラの映像をチェックしてみたけれど、ダンジョン内には変わったところは見られない。
「何もないみたいだけれど……」
「そんなはずはありません」
レムスが力強く断言する。
「このダンジョンを覆うようにして、マスター以外の魔力が張り巡らされています」
「私以外の魔力って……」
私の魔力も、張り巡らされているのだろうか。
考えたこともなかった。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「一番魔力が濃い場所は、どこ?」
「魔力が濃い場所ですか……」
レムスが目を閉じ、唇を引き結ぶ。
ダンジョン内の様子を探ってくれているようだ。
「……分かりました、地下90階です!」
「90かいぃ!?」
なんだって、そんなところに。
色々疑問はあれど、今は何より状況を確認することが最優先だ。
「すぐに向かうよ!」
「バウッ!!」
元気よく返事をしてくれたガルムを抱きかかえ、操作パネル横に設置したポータルに飛び込む。
ヴィルベルとレムスも、すぐに乗り込んできた。
ダンジョンマスターの私と管理ゴーレムのレムスは、自身が持つ権限で、ダンジョン内のどこでも自由に行き来することが出来る。
でも、私に権限を明け渡したガルムと、客人のヴィルベルはそうではない。
という訳で、設置したのがこの転移用ポータルだ。
一方通行のエレベーターみたいなものね。
私かレムスが居なければ、帰りは自力で地下99階まで帰ってこなきゃいけないことになるのだけれど……ま、ヴィルベルなら問題ないでしょ。
もう一度床と天井をぶち抜いてきたら、今度は自分で修復させよう。
ガルムは、だいたい私と一緒に居るしね。
という訳で、転移ポータルで地下99階に移動。
ポータルから一歩足を踏み出した瞬間、変わり果てた光景が飛び込んできた。
「わぁ……」
晴れ渡る青空と、新緑が目に眩しい。
見上げるほどの大木は、青々とした葉を生い茂らせていた。
「でっか!!」
『あ、スズカだ、やっほ~!』
大木を見上げて声を上げていると、以前出会った精霊がふわふわと近付いてきた。
彼の周囲には、見慣れない精霊が飛び回っている。
どうやら、いつの間にかダンジョン内に精霊が大勢住み着いているみたいね。
「ねぇ、これってあの時に植えた世界樹……よね?」
『そうだよ!』
精霊が胸を張って答える。
そうだろうかとは思ったけれど、やっぱりかぁ……。
「もうこんなに大きくなったの?」
私が植えたのは、苗木ですらない、種だ。
それがほんの数日で、巨木に成長するなんて、一体どうなっているのか。
『植物の精霊であるボクがお世話をして、光の精霊に水の精霊、いろいろな精霊が力を貸してくれたからね』
精霊達が、嬉しそうに飛び回っている。
「だからって、これはあまりに……」
木漏れ日の中、空を見上げる。
影を落とす木の葉は遙か上空にある。
私が今まで見たどんな木よりも大きく、立派だ。
世界樹と言われれば、なるほど~とはなるけれど……こんな物がダンジョンに生えていたり、一気に成長するあたり、この世界もダンジョンそのものも、不思議だらけだ。
「……ってことは、レムスが感知した力って……」
『力?』
私の言葉に、精霊が小さく首を傾げる。
う、かわいい。
「おそらく、世界樹が絡んでいると考えて間違いはなさそうですね」
レムスが神妙な面持ちで頷く。
彼もまた、突然成長したこの大樹に、戸惑いを隠せないようだ。
「ダンジョン内に私以外の魔力が張り巡らされたって聞いて、調べに来たのよ」
『ああ、それは“世界樹の根”だよ~』
「世界樹の……根!?」
ちょっと待って。
レムスは“このダンジョンを覆うようにして”魔力が張り巡らされているって言っていた。
私のSSS魔力で出来上がった、超巨大ダンジョン。
それをさらに、世界樹の根が覆い尽くしている……ってこと?
再び巨木を見上げる。
こうして見ていても、大きい。
大きいけれど、地面の下にはさらに超巨大な根があって、それがダンジョン中に侵蝕している……ってこと!?
『世界樹も、このダンジョンが新しい“家”だって、分かっているんだ。自分の家を守るために、根を張ったみたいだね~』
「わ、わぁ……」
不思議そうにしているレムスとヴィルベルに、精霊の話を伝える。
二人とも納得半分、驚き半分といった様子だった。
「世界樹の守りですか……となれば、今度はヴィルベル殿のような巨大竜が現れても、最下層まで侵入されることはないでしょうね」
「むっ」
レムスの言葉に、ヴィルベルが片眉を上げる。
そこ、なんで“俺なら出来る”みたいになっているのよ。
やるんじゃないっての。
「まぁ、途中のフロアにはヴィルベル配下の竜も住み着いている訳だし……」
普通のダンジョンモンスターだけではない。
死の大地を根城にしていた竜まで、一部ヴィルベルに誘われて巣を移している。
彼等の居るエリアを突破出来なければ、最下層まで辿り着くことは出来ないのだ。
……私は世界一安全な場所に住んでいるのかもしれない。
「そもそも、侵入者なんてヴィルベル以外、まだ誰も来ていないしね~」
そう言って高をくくって笑っていた、その翌朝。
私は焦るレムスの声に起こされることになった。









