10:サイコロが止まる時
「もー、無理!! 全然勝てないし、分かんない!!」
「ふっ、スズカは弱いな」
将棋盤に突っ伏す私の前で、ヴィルベルが鼻を鳴らす。
このしたり顔が、憎らしい。
事の始まりは、いつもの漫画。
ヴィルベルが最近読み漁っているのは、なんと麻雀漫画だった。
とはいえ、麻雀セットを用意してあげることは出来ても、私自身、麻雀には詳しくない。
それに私とヴィルベルとレムス……麻雀を遊ぶには、面子が足りないのだ。
流石にガルムを加えて、ガルムに前脚で牌を動かしてもらう……なんてのは、難しいだろう。
と言うわけで、代わりに将棋をクリエイトしてみた。
これなら駒の動かし方くらいは知っているし、これからルールを覚えるヴィルベルには遅れを取らないだろう──と思っていたのに。
「なんで勝てないのぉ」
「なかなか奥が深い遊戯でございますね」
私達の勝負を観戦していたレムスが、興味深げに呟く。
なお、暇を持て余したガルムは、私の隣でお昼寝中だ。
「よろしければ、今度は私がお相手しましょう」
「望むところだ」
結局、レムスとヴィルベルの勝負になってしまった。
二人の実力は拮抗しているようだが、正直レベルが高すぎてついていけない。
どうして、私が教えた側なのにこんなことになっているんだ。
これが、地頭の差なのか……。
「うぅぅ……」
打ちひしがれる私を他所に、一際強く駒を置く音が響いた。
「よし、俺の勝ちだ」
「お見事です」
「なぁに、後少しだっただろう」
どうやら、勝負はヴィルベルの勝ちで終わったようだ。
一度とはいえ、実践経験の差が勝敗を分けたのだろうか。
名勝負を終えて、二人は感想戦で何やら盛り上がっている。
なんともやるせない。
「く……こうなったら、柿鉄で勝負よ!!」
「「柿鉄?」」
ヴィルベルとレムスが、声を揃えてこちらを見た。
柿鉄とは、柿太郎鉄道の略だ。
日本では有名なゲームで、日本地図を模した双六をベースに、カードゲームの要素も取り入れている。
盤上ゲームで勝てなくても、あれならば私も勝機は十分にあるはず。
「その為には、ゲーム機を取り寄せないとね」
ゲーム機と大形モニターをクリエイトして、柿鉄のソフトを差し込んでモニターに接続すれば、準備完了。
初めて見るゲーム機に、ヴィルベルもレムスも興味津々といった様子だ。
「さ、はじめましょ」
二人にコントローラーを渡して、ゲーム開始。
東京駅から始まる、日本列島の旅。
日本の地名が分からない分、二人に不利かも……と思ったけれど、そこは記憶力に優れた二人、遊ぶうち地名と場所を覚えていた。
「この東京というのは、何度も漫画に出てきたな」
「私が住んでいた国の、首都だからね」
ヴィルベルは、時折知った地名があると反応してくれる。
最初、日本語を勉強したいって言った時は単なる好奇心かと思ったけれど、本当に私が住んでいた世界に興味を持ってくれているんだ。
そう思うと、ちょっと胸が熱くなってくるな……。
「さーて、これで三が出れば、無事ゴール出来るんだけど……お願い!」
目的地直前、気合いを入れてコントローラーのボタンを押す。
くるくると回るサイコロが、三つの点を上にして止まった──その瞬間、地の底から響くような激しい衝動が突き上げた。
「えええぇぇっ」
「バゥッ!?」
動揺の声を上げたのは、私だけではない。
のんびりお昼寝していたガルムは飛び起きて、周囲を警戒する。
ヴィルベルは無言のまま視線を走らせ、レムスはすぐさま監視モニターへと走っていった。
「じ、地震……かな」
揺れは、暫くして収まった。
幸い物が落ちたりはしたけれど、居住区に大きな被害は無いようだった。
──そう、居住区には。
「大変です、何物かの反応がダンジョン全体に張り巡らされています!!」
「……は?」
初めて聞く、レムスの上擦った声。
いつも落ち着いた渋い声のレムスが、あんなに焦っているなんて……それに、今、なんて言った?
「誰かが、ダンジョンに侵入したか……あるいは、何か仕掛けてきたってこと?」
私達が暢気にゲームに興じている間に、とんでもないことが起きていたようです。









