幕間:森に迫る影
ロドニー王国王太子エリオット・ロドニーの命により、王国騎士団は魔の森一角に位置するエルフの里を訪れた。
騎士団を指揮するのは、王国最強と謳われる騎士団長ダグラス・ハーロウだ。
訪れた──などと表現するのは、生温い。
騎士団員、およそ三百。
完全武装の騎士達が、エルフの里をぐるりと取り囲んでいる。
(王太子殿下の命ずるままに、エルフの里まで来たが──)
その先頭に立つダグラスの心は、苦悩に満ちていた。
端正な眉間に皺が寄り、唇は真一文字に引き結ばれている。
「何の用だ」
村の入り口に立つエルフの青年が、弓を構えながら声を荒らげた。
「以前にも、書状を届けたはずだ」
「その件ならば、断っただろう!!」
エルフの声には、隠しきれぬ苛立ちが滲んでいた。
ロドニー王国からエルフ族に届けられた書簡。
魔王討伐の為、戦力となる若者をロドニー王国軍に参加させよという要請──実質、命令文であった。
「そうは行かぬ。魔王の降臨に備えるは、我等人間だけではない、この大陸に暮らす全ての亜人族の務めだ。エルフとて、その例外ではない」
詭弁だな──と、声を張り上げるダグラス自らが心の奥底で感じていた。
本当に大陸の為を思うなら、他国とも共闘して足並みを揃えるべきだ。
それをせず、エルフ族に自国の軍に参加するように要請する。
それも全て、二心あってこそだ。
「ふん、魔王討伐の為などと抜かしながら、人間共の勢力争いの道具にされるだけではないのか」
エルフ達も、それは重々感じ取っているのだろう。
エルフ族は弓の使い手であり、精霊を友として森で生きる一族だ。
豊富な魔力で、強大な魔法を繰り出す。
味方にすれば頼もしく、敵対したならばこれほど恐ろしい存在はない。
それを分かっているからこそ──王太子エリオットは、エルフ族の隷属を前々から目論んでいた。
一時は異世界から勇者を召喚する作戦に切り替えたが、それが失敗するなり、再びダグラスにエルフ族の使役と隷属を実行するように命じたのだ。
「三日、猶予をやろう」
馬上から、ダグラスが静かに告げる。
「それまでに、決断するがいい。我等と共に魔王に立ち向かうか、あるいは──人類の敵として、我等に討たれるかを」
もしエルフ族が従わぬなら、帝国に戦力として確保されるよりは──エルフの里を焼き払え。
ダグラスは、エリオットからそう命じられていた。
「確かに伝えたからな」
馬の手綱を引き、エルフの里に背を向ける。
背中に、突き刺さるほどの憎しみの視線を感じながら……。
(どうか、それまでに……一人でもいい、逃げていてくれ……俺には、もうそれしか出来ない)
誇り高いエルフ族が王国の要求を呑むなど、考えにくい。
せめて無用な血が流れぬよう、ダグラスには祈ることしか出来なかった。









