9:聖域、誕生
「聖域って、一体何?」
分からないので、とりあえず素直に聞いてみる。
名前を聞く限りでは、あまり一般人には縁のない物な気がするんだけどなぁ……。
「文字通り、聖なる場だ。精霊にとっては、一番住みやすい場所だろう」
『聖域を作ってくれるの!? わ~~~~~いっ』
ヴィルベルの言葉に、精霊が嬉しそうに宙を舞っている。
どうやらヴィルベル側は精霊の言葉は分からないけれど、精霊はヴィルベルの言葉が分かるみたい。
「聖域を作るって言うけれど、どうやったら作れるのよ」
「一番簡単なのは、世界樹を植えることだな」
……簡単?
「世界樹って、どこに生えているの?」
「三百年前には、この魔の森中央部に生えていた」
さらりと言ってくれます、ヴィルベルさん。
「今は?」
「もう枯れ果てている」
「じゃー意味ないじゃん!!」
流石に突っ込まざるを得ない。
三百年前じゃ、種も残っていないよねぇ。
『……できないの?』
精霊の声は、少し気落ちしているようだった。
ああああ、ごめんね。
期待させちゃったよね。
「それ以外にも、精霊が住み着いて空気が浄化されれば、自然と聖域化することもあるだろうが……」
ヴィルベルの長い指が、私の額を突く。
「お前には、ダンジョンがあるだろう」
「ん???」
ダンジョンがある?
ダンジョンがあることと、聖域を作ることと、何の関係があるのだろう。
そりゃ、ダンジョンの中に聖域を作ろうとしているのだから、無関係ではないだろうけれど……。
………………。
思い当たること、無い訳ではない。
しかし、それはまるで雲を掴むような話だった。
「ひょっとして──アイテムクリエイトで、世界樹を作り出せと?」
「そういうことだ」
やっと理解したかとばかりに、ヴィルベルが頷く。
ちょっと、世界樹がどういう物かも知らないのに、突然無理難題を吹っかけられた気分なんですけどーーーー!?
「ははぁ、世界樹でございますか」
精霊をつれて地下99階に戻った私達は、テーブルを囲んで早速作戦会議を開いた。
レムスにこれまでのあらましを説明して、知恵を貸してもらうことにする。
「私も、実物を見たことはないのですが……」
あ、詰んだ。
レムスが世界樹を知っているなら、レムスにアイテムクリエイトを任せればいいや~と思っていたのに。
この中で見たことがあるのは、精霊とヴィルベルだけみたい。
「その世界樹ってのは、どんな木なの?」
流石に木で間違いないよね。
『おっきくて、神々しくて、神聖な大樹だよ!!』
精霊がふわふわと飛びながら、身振り手振りを交えて教えてくれる。
うん、さっぱり分からん。
見慣れてきたせいか、今では白い光ではなく、ちゃんと精霊の姿として認識出来るのは有難い。
「何も決まった形がある訳でもない。スズカが思う世界樹を、作り出してみればいい」
「作り出すって言われてもさぁ」
私が思う世界樹かぁ。
ゲームに登場する世界樹って、葉っぱが重要アイテムになったりしがちだよね。
あとは、北欧神話のユグドラシルとか?
ちょっとスケールが大きすぎる気がする。
世界樹、世界樹……。
そんなことを考えていると、操作パネルの上にコロン……と何かが転がった。
「え、これ……」
転がった物を、拾い上げる。
「どう見ても、種……だな」
私の手元を覗き込んだヴィルベルが呟く。
うん、種……だよね。
私にも、そう見える。
「え、これが世界樹の種……ってこと!?」
いや、世界樹って言うからには、木だよね。
そこら辺に生えてる木よりもずっと立派な、大木だよね。
苗とかじゃなく、種から植えるものなの!?
「植えてみれば分かる」
「分かるって、そんなに簡単に言うけどさぁ~」
ヴィルベルは、相変わらずたいしたことがないような口振りだ。
「精霊が居るのだから、世話はそいつらに任せれば良かろう」
『世界樹の種だ~~~~。めいっぱい、お世話するよ!』
ふわふわと飛び回る精霊の声は、弾んでいる。
これで大丈夫……ってことなのかなぁ?
「どうなさいますか、マスター」
「とりあえず、植えてみましょう」
レムスの問いには、そう答えるしかない。
ダメで元々、この種から芽吹いたならば、万々歳だ。
「聖域……って、あまり人が立ち入らないフロアの方が良いのよね?」
「ああ、人間の冒険者が簡単に立ち入れるようでは、すぐに荒らされるだろう」
「ってことは、下層の方が良いのか」
なんて話をしながら、操作パネルにタッチする。
選ぶのは、ダンジョンクリエイトの項目。
現在、我がダンジョンは
地上階から地下10階まで……洞窟ダンジョン
地下11階から地下20階まで……遺跡ダンジョン
地下21階から地下30階まで……森林エリア
地下31階から地下40階まで……砂漠エリア
地下41階から地下50階まで……極寒エリア
地下51階から地下60階まで……灼熱エリア
地下61階から地下70階まで……死の大地を模したエリア
こんな感じで地下70階まではダンジョンを生成してモンスターを配置しているものの、そこから下は何も手つかずになっている。
「下層エリアに聖域を設置するとして……」
うーん。
見られては困る現代風の建築物は、最下層付近に設置しようと思っていたんだよね。
今はまだ決めていないけれど、将来的に私が運動不足でジムに通いたくなったり、あるいは遊園地が恋しくなったりするかもしれない。
そういう時の為に、最深部のエリアは温存しておきたい。
「じゃ、90階くらいにしようか」
選んだのは、地下81階から90階までのフロア。
コマンドを打とうとして、はたと手を止める。
「ねぇ、住むならどんなところがいい?」
周囲を飛び回っている精霊に聞いてみた。
どんなところが良いか、本人に聞くのが一番だものね。
『自然がいっぱいなところ!』
「だよね~」
流石は精霊、聞くまでもなかった。
「森林エリアに近い感じでいい?」
『うん!!』
ベースは森林エリアに近い感じで、せっかくだから泉や湖、川なんかも設置してみよう。
聖域エリアだけに、モンスターは配備しなくていいや。
もし精霊達が住処を探しているなら、ここのフロアを提供してあげればいい。
「これで良し、と」
基本的なフロア部分は、生成完了。
あとは、先ほど出てきた世界樹の種(?)だけだ。
精霊とガルム、ヴィルベルと一緒に地下90階に移転して、小高い丘の上に世界樹の種を植える。
『やった~、世界樹だ~~~~』
精霊は羽根を小刻みに揺らしながら、私達の周囲をパタパタと飛び回った。
良かった、喜んでくれているみたい。
「もしお友達が行き場所が無くて困っているようなら、ここに住んでもらって良いからね」
『うん、みんなに声をかけてみる!!』
あー、可愛い。
子犬のガルムも可愛いけれど、ボール大でふわふわとした精霊も、とても可愛らしいね。
『ありがと、スズカ』
精霊がふわふわと私の元に寄ってきて、ちゅっと額に口付けた。
あら、おませさん。
「どういたしまして」
『ボクはここで世界樹の面倒を見ているから、いつでも遊びに来てね!』
手を振る精霊に別れを告げて、最下層エリアに帰還。
終始無言だったヴィルベルが、いつものテーブルに着くなり、深く息を吐いた。
「まったく、お前は……」
「何よ」
何やら呆れたような物言いだ。
今回に限っては、私は特に何もしていないと思うのだけれど……ヴィルベルに呆れられるようなこと、何かあったかしら。
「自分のステータスを確認してみろ」
「……?」
ヴィルベルに言われるがままに、ステータス画面を表示する。
相変わらず、魔力以外はパッとしないステータスなんだけれど……新しいスキルと称号が追加されていた。
スキル:以心伝心、精霊の加護(NEW)
称号:召喚者、追放者、ダンジョンマスター、魔狼の主人、ゴーレムの主人、死黒竜の友人、世界樹の主(NEW)
「わぁ」
なんかろくでもないことが書いてあるー。
精霊の加護……ってのは、さっきのかな。
そっか、加護を付けてくれたんだ。
そして、世界樹の主って……。
「私が主……なの?」
「そりゃ、種を生み出して、植えた張本人だからなぁ」
うーん、そうか。
そうなるのかぁ……。
「……他の人間には、ステータスは見せないようにしておけよ」
「肝に銘じておきます……」
ヴィルベルに言われるまでもなく、誰にも知られないようにしようと、心に誓うのだった。
こんなの、絶対知られたらろくなことにならないもんね。
ま、どうせ人前に出る機会なんてないだろうし。
私はこのダンジョンで、ひっそり平和に生きていくんだー。
……フラグじゃない。
フラグじゃないからね、これ。









