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追放召喚者のダンジョンには、最強竜と魔狼(もふもふ)が住んでいます ~魔力SSSで始めるスロー・ダンジョンライフ~  作者: 黒猫ている


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1:異世界召喚されたけれど、外れスキルで追放されました

不定期更新です。

のんびりお付き合いください。

毎日出勤して、仕事が終わったら家に帰って、泥のように眠る……そんな慌ただしい毎日。

何か刺激がほしいと思ったことはあるけれど、本当に人生が一変するだなんて思わないじゃない?


私、三森(みつもり)鈴花(すずか)──気付いたら、お城みたいなだだっ広いところの、召喚陣らしき紋様の上に居ました。


「あ、え……?」

「やった、成功だ!!」


周囲に居る、奇妙なローブみたいなのを身に纏った人達が、一斉にどよめいている。

ちょっと怖い。コスプレ集団みたい。

それにしては、突然この場所に現れたことといい、今の状況といい……何やら出来すぎな気もするのだけれど……。


「あの……」


声を掛けようとしたところで、彼等の中央に居た煌びやかな人物が進み出てきた。

金髪碧眼のザ・王子様といった風貌。

絵本の中から出てきたみたい。


「ようこそ、ロドニー王国へ。私は王太子のエリオット・ロドニーだ」

「は……?」


こちらに手を差し伸べる男性は、王太子と名乗った。

まさしく王子様……?

いやいやいや。それより先に、この状況をどうにか説明してください。


「貴女は我等の祈りに応えてこの地に召喚された、天命を帯びた特別な存在なのだ。さぁ、その卓越した力を、我等に知らしめたまえ……!」


……何を言っているか、分からない。

いや、言葉自体は分かりはするんだけれど、本当に大丈夫なのこれというか、そんなことが実際に起きてたまるかというか……。


私みたいな一般人にドッキリを仕掛けたところで、需要はない。

そうと分かってはいるが、ドッキリを疑わざるを得ない。

だって、そうじゃなかったら……まさか、本当に異世界に召喚されたってことぉ?


「卓越した力と言われても、私には何も……」

「失礼します」


ローブ姿の一人が、声を掛けてきた。

王太子とやらに媚びへつらうように、やけに低姿勢だ。


「ステータスを表示いただければ、ご自分の持つ能力、スキルが把握出来ると思います」

「そう、貴女こそ我等が行った召喚に応じて現れた異界よりの使途! 魔王の降臨に怯える我が国の民の為にも、その力を存分に振るっていただきたい!!」


ますます、テンプレじみた展開だ。

これで聖女だの勇者だのと言われても、私には戦うつもりも国を守るなんて大それた考えも、まったく無いのだけれど……。


「ステータス……ですか」


私が呟いた“ステータス”という言葉に反応してか、目の前にホログラムのような何かが展開される。

まるでゲームのステータス画面みたいだ。


「さぁ、そなたの持つスキルを教えるのだ!!」


王太子エリオットが、鼻息荒くまくしたてる。

まだ彼等に協力すると決めた訳でもないんだけれど……まぁ、いいか。


「スキル、スキル……ああ、“以心伝心”と書かれていますね」

「いしん……」

「でんしん?」


周囲の男達が、皆キョトンと首を傾げている。

以心伝心って、四字熟語のあれよね。

これがスキルって、なんだかイメージが沸かないのだけれど……。


「い、いしんでんしんとはなんだ?」


先ほどまで意気揚々としていた王太子も、眉間に皺を寄せて首を傾げている。


「は、翻訳系スキルの最高峰と思われます!」


ローブ姿の男の言葉に、そこに居る全員が一瞬呆気にとられた。

翻訳……翻訳、かぁ。

外国語の成績は良くもなく悪くもなくって感じだったけれど、今なら試験で無双出来るのかな?


なーんて暢気に考えていたのは、私だけだったみたい。

気付けば、王太子が肩を震わせている。


「そ、そんなもの──なんの役にも立たんではないか!!」


王太子エリオットの声が、だだっ広いホールに響き渡る。

まぁ、ですよねー。

魔王が降臨するとか言ってたっけ?

翻訳スキルじゃ、戦闘にはまったく不向きだもの。

一応ステータスを見る限り、魔力SSS(トリプルエス)とか表示されているけれど……下手なことは言わないでおこう。

どうもこの王太子、人間的に信用ならなさそうだ。


「どうしますか殿下、あれだけの犠牲を払って召喚を行ったというのに……」

「ええい、うるさい! 今考えている!!」


どうやら、この召喚には犠牲が伴っているらしい。

……ますます、きな臭い。


「……良いか。此度の召喚は立案こそしたものの、人民に犠牲を強いることを厭い、実行には移さず保留とした。そのように発表せよ」


振り絞るような王太子の声。

なるほど、召喚で現れた相手()が使い物にならないと分かった瞬間、召喚そのものを「無かったこと」にするつもりか。

……ってことは、えーと。


「では、この女性はどのように……」

「決まっている、さっさと始末しろ!!」


とばっちり来たーーーーーー!?

勝手に呼び出して、期待外れだったから始末しろって、あまりに酷くはありませんか。

この国というかこの世界の人権は、一体どうなっているんだ。


「ちょっと──」


抗議しようとした私の身体を、壁際に控えていた鎧姿の男達が押さえつける。

こうして、私は突然謎の世界に召喚されたと思いきや、生命の危機に立たされているのでした。


「……これほどの犠牲を払ったというのに、この程度とは」


吐き捨てるように呟いているけれど、勝手に召喚したのはそっちだからね!?

私はただ、貴方達がやったことに巻き込まれただけ。

だと言うのに、こちらを見る目はまるでゴミを見るかのように冷たい物に変わっていた。


あの王太子とか言う男……絶対に許さん!!




そうして連れてこられたのは、“魔の森”と呼ばれる危険地帯の真っ只中。

どうやら、私の運命はここまでのようだ。


「申し訳ない、異界から来たご婦人よ……我等には、これ以上はどうすることも出来ぬのだ」

「はぁ……」


食料も武器も無しにこんなところに置き去りにしようなんて、要は「さっさと野垂れ死ね」ってことじゃない。

ま、命令を下したのは、あの王太子だ。

命令に従う、彼等──おそらく騎士らしき人達に文句を言ったところで、どうしようもない。


「殿下は、この手で確実に屠るようにと命令されたのだが……流石にそこまでは出来ん」


私を送り届けてくれたのは、あの王太子の元で働くダグラス・ハーロウ騎士団長だ。

常識人らしい彼は、あんな理不尽な命令に従うことに、良心が咎めているのだろう。

直接殺されないだけマシとはいえ、置き去りにすることも、そう変わらないとは思うんだけどね。


「失礼」


騎士団長の手が、私の髪を一房掴む。

彼が剣を走らせた後は、切られた黒髪が、その手に握られていた。


「これで、貴女は死亡したと報告させていただく」

「……別に御礼を言う気はありません。こんなの、助けたことにもなりませんから」


ここで見捨てるなら、お前も同罪だとばかりに、騎士団長を睨み上げる。


「分かっている……こんなことで、我等の罪が(あがな)えるとは思わぬ」


巨漢の騎士団長が、すっかり小さく縮こまっていた。


私の髪を一房手にして、騎士団長が馬で森を駆けていく。

馬の蹄跡を追えば、森の出口まで辿り着けるだろうか……と考えたところで、ここまで走ってきた距離を思えば、とても歩いて向かう気にもなれない。

そもそも、森を出たところで、どこに向かう?

言葉こそ通じるようだけれど、ここは私が居た世界とは大きくかけ離れている。

日本の常識が通用しない世界。

そんな場所に無一文で放り出されて、私に一体何が出来る?


「はぁ……」


どう考えても、手詰まりだ。

いっそ、それなら一思いに息の根を止めてくれた方が楽だろうに。

あの騎士団長も、優しいのか、残酷なのか……中途半端な態度は、相手を苦しめるだけだってのにね。


「あーもう、これからどうしようかなぁ」


俯く私の目の前を、小さな雨粒が掠めていった。

生い茂る木々の隙間から空を見上げれば、厚い雨雲が立ち込めている。

ポツポツと当たり始めた雨は、あっという間にその勢いを増していった。


最悪。

天気まで私を見放したみたい。

このままじゃ、全身濡れ鼠だ。


せめて雨露をしのげるところを探そう。

そう思い泥を跳ね上げながら走った先に、ぽっかりと洞窟への入り口が開いていた。


洞窟と思ったが、それほど広くはないらしい。

せいぜい、あなぐらといったところか。

あまりに大きな洞窟だと奥から何が出てくるか不安だから、小さな洞穴くらいが丁度良い。


「お邪魔しま~す」


これ幸いとばかりに、雨宿りさせてもらおうと洞穴に足を踏み入れる。

つい挨拶してしまうのは、日本人の(さが)なのかもしれない。


洞窟の入り口付近、雨風が当たらない場所に腰を下ろす。

今は、まだ日が暮れていない。

入り口近くの方が、明るくていい。

もう少ししたら、日が落ちて暗くなってしまうだろうか。

そうなる前に、火でも起こせたら良いんだろうけど……こんな雨の中、道具も何もなしで、どうやって火を起こせばいい?

インドア派の私に、キャンプの知識なんて皆無だ。


「はぁ、手詰まりだよぉ……」


どうしよう。

このまま飢えて死ぬのを待つなんて、ごめんだ。

それくらいなら、ダメ元であの騎士団長の後を追った方が良かったか……いや、雨が降ったら、足跡もすぐに消えてしまうだろう。

どうしたらいい……どれだけ考えても、答えは見付からない。


雨足はさらに強くなり、洞窟の外はまるでシャワールームのようだ。

泥濘(ぬかる)んだ地面は、少しずつ水かさを増している。

このまま止まなければ、あっという間に洞穴の中まで水浸しになってしまいそう。


「もう、どうしろってのよぉ……」


膝を抱え、(うずくま)る私の耳に、微かな物音が響いてきた。

いや、物音ではない。

まるで──獣のうなり声のように、低く空気が振動している。

奥は行き止まりだと思ったのに……何かが潜んでいたのだろうか。


ああ、でも……長く苦しんだ末に飢え死にするくらいなら、このまま獣か何かに食い殺された方が楽かな……。

怖くないと言えば、嘘になる。

だけれど、あまりに絶望的な状況が、私の思考を麻痺させていた。


今から雨の降りしきる森に飛び出す気にもなれない。

そもそも、どうして私がこんな目に遭っているかって、全部あの憎たらしい王太子のせいだ。

獣に食い殺されるなら、せいぜいあの王太子を呪ってやろう。

そうだ、いっそ私を食い殺した獣の身体を乗っ取って、あいつの国に攻め入ってやろうか。

それくらい、望んでも許されるよね……?


そう思って、うっそりと顔を上げたその先。

視界に入ったのは、予想していたような獣──ではなく、それより遙かに小さな、白いもふもふの子犬だった。


「ウゥー……ワン!!」


当人? は、必死にこちらを威嚇しているつもりなのだろう。

でも、あまりに可愛い。可愛らしい。

生後間もない子犬と思しき白いもふもふは、小さな耳をピンと立て、身体と比べて大きな前脚を必死に踏ん張って、私を威嚇するように唸りを上げていた。


「ごめんね、君の家に勝手にお邪魔しちゃった」


不思議と、彼がなぜこんなにも怒っているのか、理解出来る気がした。

彼は、この洞穴を守っていたんだ。

そこに私が勝手に入ってきたから、私を追い出そうと吠えているんだよね。


「ただ、雨宿りがしたかっただけなの……本当にごめんなさい」


私がそう声を掛けると、白いもふもふは威嚇を止めて、アメジストのような澄んだ瞳でじっとこちらを見上げた。

こちらに敵意がないことが、伝わったのだろうか。

賢い良い子だなぁ。


手を差し伸べると、クンクンと少し指先の匂いを嗅いだ後、頬をすり寄せてきた。

やばい、可愛い。

荒んでいた心が、浄化される気がする。


「君、一人なの?」


白いもふもふを抱き上げて、膝の上に乗せる。

撫でる度に、ふわふわの毛並みが掌を撫でる。

あぁぁぁ、柔らかい……そして、温かい。


「そっか、一人でこの洞窟を守っていたんだ」


いい子いい子と、子犬を撫でる。

理由はないけれど、なんとなく、この子がそう言っている気がした。


「番犬……君はガルムだね」


私が声を掛けると、クゥ? と一声鳴いて、こちらを見上げる。

あー、可愛い。


「ガルムというのは、私の世界の神話に出てくる生き物なの。地獄の番犬とか色々言われているけど、元々は最高の犬って意味だったはず」


私の言葉を理解してか、白い尻尾がぶんぶんと揺れた。

喜んでくれている……のかな? これは。


『テイムが完了しました』

「え──?」


突如、あのステータス画面と同じようなホログラムが飛び出してきた。

そこに書かれた文字……テイムって、あのゲームに良く出てくるテイムのこと?

思い立ってステータス画面を確認してみたら、新たに

『従魔:ガルム』

という文字が追加されている。

ひょっとして、私がこの子を手懐けた……って考えて良いのかな。


「君、私のことを認めてくれたの?」

「ワン!」


抱き上げて問いかければ、白い尻尾がぶんぶんと揺れて、元気な声が返ってきた。

突然異世界に召喚されて、ろくでもない理由で一人放り出されて世界を呪いそうになっていたけれど……迷い込んだ先で、こんなにも嬉しい出来事があるなんて。


「ありがとう、よろしくね、ガルム」


すりすりと頬を寄せる。

いまだ大雨の音が響いているけれど、白くふわふわな子犬は、お日様の匂いがした。


『──より上位の存在を確認しました。これより、全権限を新たなダンジョンマスター“スズカ・ミツモリ”に移譲します』

「へ?」


突然、耳に響いた声。

と同時に、洞穴全体が揺れて、地鳴りのような振動が突き上げてきた。


「な、なに!?」


ふわりと、身体が浮き上がるような感覚。

いや、これは……落下している?

周囲は真っ暗で、自分がどこに居るかも分からない。

ただ、唯一信じられるもの──腕の中の子犬(ガルム)をぎゅっと抱きしめる。


そうして、気付いた時には──私達は、あの王城に勝るとも劣らない、豪華な装飾が施された一室に居た。

さっきまで居た小さな洞穴は、見る影もない。


「ようこそ、マスター」


呆然とする私に、燕尾服を着た奇妙な生物が恭しく頭を下げてきた。

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