暗躍
「うわあああぁぁ!?」
俺は異変を感じ、大声をあげる。
俺の声を聞いたアカネ、姉さんと遅れてババアがそれぞれ部屋から出てくる。
「ユウ君!何かあったの!?」
「どうしたユウト!!」
2人がほぼ同時に声をかけてくる。
「ご、ごめん!急に…何か黒い物に捕まれて、暗闇みたいなものに引きずり込まれそうになって…」
「黒い、暗闇…まさか!?闇女!?アカネ!おばあ様!」
「おう!」
「うむ!」
3人で辺りを最大限に警戒する。
だが、ここにはもう俺たち以外の誰もいなかった。
「…何もしかけてこないな?」
アカネが警戒しつつ、全体に問いかける。
「アカネ、油断はするでないぞ。正直お前が頼りだ。神楽、主は小僧を守ることだけ集中しなさい。」
「ああ。分かってるよ、ばあちゃん。」
「はい!おばあ様!」
そうして俺を奪わせないための布陣でしばらく警戒態勢を続けるが、しばらくしても何もアクションは起こらない。
「どういうことじゃ?…ユウトよ、お主が襲撃を受けたのは間違いないのじゃな?」
確認でババアから尋ねられる。
「ああ。殺意はなかったように思うが、俺をどこかに連れ去ろうとしたんだと思う。扉を出て5秒と経たないうちに、急に背中から…神通力の無力化を使って抵抗したら黒い手みたいな物も、暗闇も全部消え去って…ひょっとしたら諦めて帰ったのか?」
「…まさに神出鬼没。ワシにアカネ、神楽もいて誰も気付けなかったということは限りなく闇女本人の可能性が高いじゃろう。いつから見られていたのかも全く分からん。」
「…クソっ!姿さえ見れば一瞬で消し飛ばしてやるのにっ!!」
「落ち着いて、アカネ。」
姉さんは憤るアカネを諌め、俺のほうに向き直る。
「ユウ君は大丈夫なの?怪我とかしてない?」
また姉さんを心配させてしまった。
「心配かけてごめん姉さん。俺は大丈夫だよ!驚いてカッコ悪く叫んじゃったけど、分かったこともあるしね!」
「分かったこと?」
姉さんは可愛く首を傾げる。
「闇女は俺が1人になった途端、狙ってきた。それはつまり姉さんたちとの戦闘を避けたいって思ってるんだよ。アカネや姉さんたちがいる中で俺を連れ去るのは無理だと判断し、単独のところを速効で連れ去る…つもりだった。でも、できなかった。」
「…つまり、闇女がお主に対して少なくても神通力による連れ去りは不可能。そういうことじゃな?お主の神通力の無力化によって。」
俺の言いたいことを理解し、言葉を続けたババア。
それを聞き、姉さんも少しだけ安心したような表情を見せてくれた。
「ああ、それだけじゃない。皆の前での連れ去りを避けたということは、姿を見せて実際に戦闘するとなると分が悪いと理解しているんだ。まぁアカネがいるから当たり前とも言えるが。闇女をこの場に引きずり出すことさえできれば、ちゃんと討伐できるんだ。鬼憑きの首魁を。」
「まぁ、その引きずり出すってのが難しいんだけどな。」
落ち着いたアカネも会話に入ってくる。
「いや、策はある…というよりできた。」
「なんじゃと?」
俺の言葉にババアが即座に反応する。
「ユウ君、詳しく聞かせて?」
「うん。以前も杏さんと一緒に3人で話したことだけど、俺が闇女の想定を大きく上回るほど成長出来たのなら~って会話を覚えてる?まぁあの時は作戦なんて具体的なものではなかったけど、実際に闇女の襲撃を撃退できた今、ハッキリした指標ができたよ。」
「おいユウト。勿体ぶってないでハッキリ言ってくれ。」
他の2人と違い、堪え性の無いアカネは回答を急かしてくる。
「さっきも言ったが、今回の襲撃でも殺意は感じていないし、初めて闇女と会ったときも殺意どころか一応、命を拾われた形だ。やはり目的は俺の神通力の無力化であって命を取るつもりはないらしい。今回は付近に3人…特にアカネがいたから逃走を選んだんだろうが、いなかったらどうなってたと思う?」
「いなかったら…?いないならそりゃ…無理やり?」
「それも無くはないが、少なくても闇女1人ではかなり厳しいと思うな。神通力を全く使えないのを前提に、俺を殺さずに連れ帰る。まず、お前にそれができるか?アカネ。」
「……まぁ、不意打ちができれば…?」
「お前の場合はそうかもな。だが闇女はどうだ?今回もそもそも背後から不意打ちが既に失敗している。勿論『連れ帰る』をメインの目標としてるからだが、仮に殺す気であったとしてもアカネほどのスピードで無い限り、俺に不意打ちは効かないと自負している。」
「そうだろうな。杏の不可視の衝撃すら初見で避けてるし。」
「そして闇女は鬼憑きの集まりの首魁だ。神通力が強力なのもそうだろうが、少なくても知能面でもバカではないはず。俺が闇女の立場だったら…まず交渉を図るだろうな。」
「交渉?」
「ああ。俺にメリットを提示し、協力させようとする。あるいは人質を用意して、無理やり言うことを聞かせる…とかな。」
理解したのかしていないのか。
アカネはうーん、と頭を回して考えているようだが、今度はババアの方から発言が出る。
「なるほど、それは理解できた。確かに闇女の行動予測としても理に適っている。だが結局闇女をどう倒すと言うんじゃ?」
「俺を餌にする。つまりは囮だ。闇女はまず間違いなく、俺が1人の時を狙って交渉を図ってくるはずだ。それも、おそらく最初のタイミングでは友好的な雰囲気で接触してくる可能性が高いと見る。好戦的なヤツならそもそも俺が1人になるのを待たないで、周りの人間を殺していけば良いはずだからな。アカネに勝てるかどうかは知らないけど。」
「ユウ君が、囮に…?」
当然、姉さんは良い顔をしない。
「うん、姉さん。俺が1人でいれば闇女はいずれ必ず、俺に協力を要請してくるはずだ。それが友好的な手段か、人質を用いたりした強引な手段かは分からないけど、俺自身には危害を加える可能性は極めて低い。闇女は俺の神通力の無力化を必要としているからね。そして俺はその交渉に全乗っかり。全てにおいて賛同し、協力するように見せかけてその内容や背後関係について洗いざらい聞き出し、時間を稼ぐ。」
ここまで言えばババアは完全に理解したようで、また言葉を続けた。
「つまり、闇女が接触してきたと判断した段階でお主がアカネを密かに呼び出し、協力するという体で話を聞き出しつつ、不意を突いて闇女の討伐に加えて、ヤツの計画を潰す準備を整えられるということか。とても良い案だ。」
「すげーな!流石ユウトだ!!」
「でも、ユウ君を囮になんて…」
ババアもアカネも完全に俺の策に賛同する様子だが、姉さんだけは簡単には首を縦に振らない。
「姉さん。囮という言葉の響きは悪いけど、これが多分最も安全かつ、効果のある作戦だと思う。俺が1人でいることで周りの人間に危害がいかないようにできるし、うまく行けば闇女の野望も打ち砕いて、さらに手下の鬼憑きたちも一掃できるかもしれない。逆に俺を守ろうと常にアカネや姉さんがそばにいたらどうなると思う?痺れを切らした闇女が無関係な人たちを襲ったり…万が一、姉さんを人質にでも取られるようなことになれば…もしそうなったら俺は一生闇女の奴隷だよ。」
天地優人が一生闇女の奴隷
わざと俺は笑いながら言う。
しかし、それは姉さんにとって酷く恐ろしい未来だ。
ましてやそれが自分が招いた状況ともなるとなおさら。
想像しているのか、姉さんの顔には恐怖の表情が浮かび上がってくる。
「そんなことは俺も絶対に避けたい。だからこの作戦がベストだと思う。俺は基本単独で行動して、闇女が接触してくるのを待つ。地下だったり、通信が難しそうな所…あまり想像つかないけど、そういうところは必ずアカネや姉さんを連れて行動するようにする。今回は既に向こうの連れ去りは失敗してるし、策を練ったりする時間があるだろうからすぐには来ないと思うけど、俺ももう守られるだけじゃない。神通力の無力化も手に入れて、特訓も順調。必ずできるよ、姉さん!」
「うむ。ワシも賛成だ。おおよそ抜けの無い、見事な作戦だ。神楽よ、迷うことはないぞ。神通力の無力化はすべての神通力に対して優位を得る。たとえ闇女が相手でも、ましてや殺す気がないのならコヤツにも危険はほとんどあるまいて。」
「アタシも賛成だ。やっぱこういうこと考えさせるのはユウトに限るな!」
ババアとアカネが強く賛同する。
そうだ。
もっと強く言って姉さんにも同意させろ。
「私は…」
まだ姉さんは首を縦に振らない。
足りないか?…なら、
と、次なる策を講じようとしたところでそれは杞憂に終わった。
「私も、ユウ君を信じるわ。それで行きましょう。ただし、無茶なことは絶対にしちゃダメよ!良いわね?ユウ君。」
「勿論だよ!姉さん!!皆でがんばろう!!」
これでいい。
これで俺が1人で動く環境も整った。
そして優秀な手駒も手に入るかもしれない
「そういえば、例の鬼憑きは大丈夫なの?皆でこっちに来ちゃってるけど。」
話しもまとまったし、話を未来から現在に戻す。
「それは大丈夫じゃ。ワシの力で封じ込めておる。逃げるのはおろか、ヤツには動くことすらできん。」
「そうか、それなら安心だな。…やっぱり俺もアイツの最期まで一緒にいるよ。今の闇女の襲撃で俺も覚悟ができた。…いや…覚悟を決めたい、かな。」
「ユウ君…」
姉さんが心配そうに俺を見る。
「アタシも賛成だ、ユウト。お前なら心配いらないと思うが、鬼憑きと戦うとはどういうことか。それを見て、知っておいた方が良いだろうな。」
コイツはコイツなりに俺を心配する感情を持っているのが感じられるが、あくまでも俺の意見を尊重し、同意してくれるようだ。
「ワシからは別に何も言うことはないが、アヤツの最期を見届けることが闇女と戦うための決意になると言うのなら見るべきであろうな。」
ババアはどっちでもいいが、どちらかと言うと賛成といったところか。
「分かったわ。ユウ君が必要だと言うのなら、もう止めない。一緒に行きましょう。」
姉さんも最後には同意してくれた。
俺たちは歩く。
あの扉を開けて、アカネが鬼憑きを殺す。
天地優人が、それを見届けるのだ。
姉さんが再び扉を開けて、俺たちは中に入る。
誰もいない、その部屋に。
お疲れ様です。
後書きという名の無駄話コーナーでございます。
最近は夜勤の空き時間を利用して投稿頻度上げ上げで書けています!
プライベートの方でも1日1回の夜渡りも無事、カンスト14連勝中となっており、
寝る前の1時間でSwitchでファイアーレッドをやるなど、かなり充実した日々を送れております。
4月となって今年度もまた忙しくなってくるかと思いますが、みなさまが健康でありますように。




