兆し
学校が再開してから1週間程経過した。
基本的には学校に通いつつ、たまに姉さん達と神社へ行って訓練をしたりと、特に代わり映えのない生活を送っていた。
ユキとの出会いは劇的な転機であったのは間違いないが、だからと言って今の生活が激変するということではないらしい。
よく考えればそれも当たり前である。
俺が駅前で鬼憑きと出会ったのはあくまでも偶然中の偶然であり、運の悪い人間でなければそもそも一生縁のないような存在だ。
急遽特殊な能力に目覚めたとはいっても、それを活用する存在が近くにいなければ何も意味はない。
まぁ俺の場合はかなり特殊なケースで、アカネが言うには俺の『神通力の無力化』が知れ渡ることにでもなれば、国家間レベルで様々な交渉、あるいは武力を用いた強引な手段をとられる可能性も十分に考えられ、そしてそれが起きないのは一重に俺のことを龍堂菊と姉さん、アカネに杏が秘匿しているからに過ぎない。
もし公になっていたとすれば変わらない日常どころか満足に家から出ることすら叶わなくなるとのことらしい。
いつ、どうなっても良いように心構えだけはしておけ
アカネはそう言うが、そんなこと言われてもどうしようもない。
ユキとも作戦を詰めてる段階で特に動きがないから、ただ日々を平穏に過ごしていたのだが…
『鬼憑きが出た。今日がユウトのデビュー戦だ。』
アカネからの1通のメッセージにより、その日常に終わりが告げられることとなる。
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「ただいま帰りました。鬼憑きが出たっていうのは具体的にはどういう感じなんですか?」
放課後、寄り道せずにすぐに帰宅する。
アカネ、杏はすでにリビングの食卓テーブルに集まっていた。
姉さんはいないようだが、まだ学校のほうにいるのだろうか?
「おかえり、ユウト君。…アカネから聞いてないのかしら?」
「『鬼憑きが出た、デビュー戦だ』としか聞いてませんね。」
「…アカネ?」
「説明がめんど…コホン。難しいと思ってな。こういうのは賢い杏に任せようと思ったんだ。適材適所ってやつだな。」
「はぁ…、まぁいいわ。私のほうから説明するわね?ユウト君。実は昨日の深夜、鬼憑きの仕業と思われる事件が発生したの。『普通の事件』ではないとのことで、こちらにも話が回ってきたのよ。協会で鬼憑きの関与を確信し、討伐の依頼がアカネに来たの。」
「なるほど。ちなみにどういう事件だったんですか?」
「本日未明に異形の存在が目撃されたの。頭が2つに腕が4本、足も4本あってそれぞれバラバラな位置から生えていた。」
「なかなか気持ち悪そうですね。それが件の鬼憑きですか?」
そう聞くと何故か言い辛そうにする杏だが、続く言葉で自分の予想が的外れであったことに気づいた。
「その異形は被害者なの。若い男女…おそらくはカップルだったのでしょうね。被害者は深夜に鬼憑きと遭遇し、殺されるでも食われるでもなく、まぜられた。その異形となった2人は現在龍堂神社で保護されているわ。治療系の神通力を扱える狩人が何人か集めて対応してみたようだけど、お手上げのようね。」
「治療に当たっているということはつまり、まだ生きているということですね?」
「幸か不幸か、判断は難しいところだけれどね。動きや言葉にならない発声はあるけれど、意思があるかも正直分からない…。苦しんでいるのかどうかすらもね。」
「では鬼憑きの情報はどれくらい掴めてるんですか?」
「皆無よ。協会のデータベースにも存在しない未知の力。能力の仕組みや強さも分からない。…とても厄介そうなのは想像に難くないけどね。だから最初からアカネに依頼が来たの。」
「話の流れは分かりました。でもアカネが行くというならなんで俺のデビュー戦とかそういう話に?………そうか。だから姉さんがいないんですね?」
「流石というか、もはや怖くなってくるわね。」
「今回の作戦に俺を入れようってのは2人の独断、姉さんは知らないということですね?」
「ええ。最初はアカネからの提案だったのだけど、私もそれが合理的と判断した。神楽なら絶対に反対するけど、ユウト君の力は強力だし、実戦経験を積んだほうが良いと思うの。特に強力な相手ならなおさらね。今回の鬼憑きは非常に危険な相手だと思う。仕組みや方法までは分からないけど、人間を混ぜ合わせる…つまり『そこにあるものに対して変化を与える』、改変系の能力で間違いないはず。となればユウト君なら相性はとても良いわ。ユウト君自身に相手は一切能力を使えないんだから。武器とかを持っているかもしれないから油断はできないけど、万が一を考えてアカネにもすぐ近くで待機してもらう。アカネなら何がいても問題ないから、ユウト君が危険だと判断したらアカネが一瞬で敵を消し飛ばしてそれで終わりよ。」
「なるほど、よく分かりました。決行はいつですか?」
「準備ができたらすぐに。まずは捜索から行うわ。ちなみにこの話しは菊お婆様にも通してあるの。神楽は今夜は例の被害者の治療という名目で神社に滞在することになっているわ。だから神楽のことは心配いらないわ。」
「既に根回しもできているということですね。分かりました。部屋にもどって少しだけ準備するので待っててください。」
「了解よ。慌てる必要はないわ。」
俺は部屋にもどり、色々と準備を済ませて3人で家を後にした。




