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 王太子シルビアとの重い話が終わって、今度はマーチス元帥から話があると参謀本部へと連れて行かれた。

 思い当たる節としては、国を上げて創り上げた機械竜の戦闘用ボディをお釈迦にした件である。

 内部機器など諸々の設備を含め、あの一基には戦闘機で換算すれば約三機分の費用が掛かっていた。

 一から作り直すには少なくても三ヶ月は掛かる大変高価な代物であり、集っていた上官のその顔触れに、カルディナは震え上がった。


「嬢ちゃん、そんなビビるな…」


 半泣きの彼女に呆れたように元帥はぼやくが、この状況で泣かずに居られる十五歳が居るなら是非に会いたいくらいである。

 気分としては化け物の供物にされた仔山羊である。


「カルディナ、怖がらなくて良い。デュアリオンに関する話だから」


 手を握ってヴォクシスは端的に伝えたが、尚も怯える彼女に他将校は苦笑い。

 大人びてはいてもまだ十五歳の女の子なんだと考えを改めた彼等は、その緊張を解すべく場所を変えることとした。


「…そんじゃ気を取り直して、話していこうか」


 王城内の会議室にて軽食と飲み物を用意した上、マーチス元帥は改まるように音頭を取った。

 議題としては、壊された戦闘用ボディの代替え機として西果ての島に眠るデュアリオンの起動計画の検討である。

 将校等にしてみれば戦闘用ボディが破壊されるのは想定内だったらしく、カルディナが恐れていたようなお咎めは無かった。


「起動に当たっての懸念は?」


「第一として、かつての暴走事故により防衛機能が故障している可能性が考えられます。魂授結晶(セルシオン)を纏わせた上での起動にはなりますが、代替えの結晶と馴染めない場合、拒絶反応を起こされる危険が…」


 城跡から取り寄せた図面や資料を前にカルディナを主体に将校達は淡々と計画を立てていく。

 本来ならば、眠らせておきたかった代物な上、念入りな調査を進めた上で解体作業を検討していただけに皆、慎重な意見が多かった。

 現存する資料を見る限り、二百年前の惨劇となった暴走事故が本土で起きれば、その被害規模は国そのものを滅ぼしかねない。

 機械竜を操縦することとなるカルディナは勿論、この場の誰もがその責任の重さをヒシヒシと感じていた。


「…計画の実行は具体的にはいつ頃を目処にしますか?」


「明日にでも」


 書記官の問いに対してカルディナが放った回答は将校達の度肝を抜いた。


「嬢ちゃん、そんな早まらんでも…」


 思わず元帥は消極的な言葉を返したが、彼女は本気だった。

 帝国の軍事力を考慮するに、総戦力をぶつけて来られた場合、即時稼働できる機械竜の戦力を削がれた今の王国は、強敵を迎え撃つ術を失ったと言っても過言ではなかった。

 何よりも皇帝ランギーニと対峙して、その野心的かつ好戦的な性格をまざまざと見せつけられ、そんな人物を崇拝する連中が大国を動かしているのを思い知った。

 ――悠長に構えていては寝首を掻かれる。

 まだ痛む腹の痣が警告するようにズキリと疼いた。


「最早、再戦は秒読みなのです。現状、我々は機械竜だけでなく東方の守護者であられたスペンシア少将も失っています。各士官や兵等の士気を思えば、一刻も早くデュアリオンを起動し、セルシオンを王国の守護神として内外に見せつけなければなりません。一方でキャスティナ殿下を筆頭とする皇妃達の逃亡と皇宮襲撃で、帝国内の士気は大きく揺らいでいる筈です。ポルシェンテ殿率いる革命軍を味方に付けている今、我々が帝国に先手を撃たねば機を逃します…!」


 鬼気迫る進言に上官等は舌を巻いた。

 先程まで場の空気に怯えていた十五歳の姿は最早無かった。


「仮にだが、明日にもデュアリオンの稼働準備を始めたとして実働まで何日掛かる?」


 そう訊ねたのは陸軍大佐の顔をしたヴォクシスだった。

 カルディナは人差し指で乾いた下唇に触れ、猛烈な速さで回答を計算。

 僅かな沈黙の後、その指先を弾いた。


「五日で終わらせます。来週の半ばまでには迎え撃てる体制を整えます」


 確信を持って答えを告げたその瞳は、揺らぐことなく真っ直ぐにヴォクシスを捉えていた。

 任せてくれとばかりの自信に溢れた姿は、その歳には似つかわしくない風格があった。


「…君は本当に…、毎回、僕の期待を超えてくるね」


 そう呟いて満足気に頬を綻ばせた彼に、カルディナはキョトンとした。

 見れば、他の上官も似たように笑いながら頷いていた。


「元帥、やはり彼女も階級を上げた方が良いのでは?」


 降参とばかりに挙手して訊ねたのは大将の階級章を持つ御仁であった。

 その一言に促されるように他の上官も賛同の意思を見せた。


「あ、あの…」


 唐突に砕けた場の空気に、カルディナはどういうことだと戸惑った。


「いや、何…、前々から奪還作戦の功績で、第八〇六特務機動連隊の全指揮官の階級を上げようって話が出ててな…」


 項を掻きつつ、マーチス元帥はネタバラシとばかりに口を開いた。

 察する所、この場を持って己の指揮官としての腕を試されたらしい―――。

 成程と呟きながら、カルディナは口元を引き攣らせた。


「取り敢えず、ヴォクシスは少将に決定したんだが…、嬢ちゃんに関しては年齢もあってなぁ…」


「遠慮します。荷が重いです」


 丁重に断るつもりが、本音がそのまま口を吐いていた。

 やってしまったとも思ったが、王太子との重い話からの重要会議で疲れが溜まっている。

 多めに見てもらいたい。

 不意に飛び出した素の彼女に上官等は失笑し、その想いを考慮した上で検討するとの返答を貰った。

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