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悲しき歴史に終止符を


 その思いを託してシャンティス夫人がカルディナの中より消滅した翌日、クロスオルベ侯爵家本邸より新たな発見があった。

 複雑なカラクリにより長らく閉ざされていた隠し部屋が見つかり、そこから初代国王デリカナが遺した手紙が見つかったのである。


「思念の揺籠を本邸に置いたのは、デリカナだったんですね…」


 軍の調査機関の報告書を読み終わり、カルディナは肩を落とした。

 報告書によれば、クロスオルベ侯爵より思念の揺籠を送り付けられた時の皇帝キュリアスは、シャンティス夫人の遺体が無いことに激怒し、ろくに調べもせずに思念の揺籠を皇宮の外に放棄したらしい。

 時を同じくして島での事故を耳にしていたデリカナはそれを秘密裏に回収―――。

 彼女は思念の揺籠の危険性を理解した上で、後々その技術が帝国に悪用されることを危惧した。

 当初は破壊も検討したデリカナだったが、親友の作品を壊す覚悟が出来ず、いつかクロスオルベ家の者が屋敷に戻り、それを見つけ出して正しく活用することを祈ってクロスオルベ本邸へと隠したそうだ。


「デリカナの密かな願いは、君のお陰で叶ったね…」


 見舞いついでに報告書を届けてくれた大佐は溜息交わりにそう告げ、徐ろに一通の封書を手渡した。

 驚くことに宰相であるヴェルフィアス侯爵からである。


「実は今回の調査で、君達島民への迫害がカローラス貴族に起因するものだとも判明してね。侯爵から謝罪をしたいと申し入れがあった。迫害の切っ掛けを作った者の子孫として償いたいそうだ…」


 その告白に、カルディナは息を呑んだ。

 それは、デュアリオン開発事故でシャンティス夫人が亡くなった後のこと―――。

 最愛の妻と大切な家臣達の凄惨な死に心を病んだクロスオルベ侯爵は、尚も続く帝国からの圧力と夫人の遺体さえ要求する皇帝の横暴さに怒り狂った。

 彼は送り込まれていたスパイの女を見つけ出すや、見せしめとしてその両目を焼き鏝で潰し、思念の揺籠の中に押し込めて帝国へと送り付けた。

 そして、事故の責任を取るかのように夫人達の死から一年後、侯爵は島の西の岬にて自決―――。

 その死はクロスオルベ家の運命を更に狂わせることになった。

 立て続けに両親を亡くした失意の中、遺された家臣達の行く末を背負うこととなった長男レヴォルグは彼等の生活を守る為、島のライフラインの復旧の傍らで密かにデュアリオンの開発を再開。

 その存在により、クロスオルベ家を追い詰めた皇帝にその牙を剝かんとしていた。

 しかし、時を同じくして初代国王デリカナが建国を宣言。

 島は王国領となっていたが隔絶された離島だった故、その知らせが届くまでには時間差が生じ、それが大きな誤解を産んだ。

 デリカナは尚もデュアリオンの開発を続けようとするレヴォルグを諫める為、開発に必要な物資の供給を減らして開発中止を促した。

 しかし、革命による王国建国を知らなかったレヴォルグは先に届いたデリカナ名義の物資削減の通知書に絶望―――、彼女がクロスオルベを裏切ったと思い込み、絶縁を宣言する書面を送り付ける事態に発展した。

 挙げ句、クロスオルベ侯爵家を煙たがっていた貴族等はこの擦れ違いを利用し、侯爵の死に憔悴していたデリカナを籠絡。

 島との連絡を遮断した上、密かに悪意を持って彼等への弾圧を開始。

 それが今日に及ぶ迫害の始まりとなった。


「…クロスオルベ侯爵には敵が多かったんですね」


 ヴェルフィアス侯爵からの書類に目を通して、カルディナは肩を落とした。

 書類の内容から、謝罪の意向を示している貴族はヴェルフィアス侯爵を筆頭に今日では国事を担う御仁ばかりであった。

 彼等はクロスオルベ家に対する公的な謝罪の上で、エルファ島――カルディナの故郷への継続的支援を行いたいとの意思を示していた。


「時代が悪かったんだよ。動乱の時代でなければ、デュアリオンが造られることもクロスオルベの悲劇も起こらなかった筈だからね…」


 そんな見解を告げつつ、大佐はいつものように優しい掌で彼女の頭を撫でた。


「日取りは改めて連絡するけど、ハインブリッツ王家が主体となって諸々公的な場を設ける予定だ。カルディナにはその心積もりをしておいて欲しい。デビュタントの準備もしないといけないからね…」


 そんな連絡に頷いて了解しつつ、カルディナは失くさないようにと侯爵からの手紙を畳んで封筒に仕舞った。

 ―――が。


「…ん?デビュタント?」


 言葉を咀嚼し、思わず訊き返した。

 デビュタントとは正式な社交界デビューのことで、上流階級の社会的な成人式とも言える行事だ。

 この国において女性は十五歳、男性なら十七歳までに行うのが主流である。


「え、ちょっと待って。私の?え、やる必要ありますっ?」


 己を指差し、カルディナは顔を引き攣らせた。

 すると、大佐は小首を傾げて悪戯ににこりと笑った。


「だって、クロスオルベ侯爵家の正統後継者だし僕の養女でしょ?やらなきゃ駄目でしょ」


「だ、駄目って…!デビュタントなんて想定してないんですけど…!?」


「大丈夫大丈夫。費用は僕等の方で賄うし、ドレスとかの手配はシルビア殿下がやる気満々だから。カルディナは学校でダンスの練習だけしておいてくれれば…」


「簡単に言わないでください!マナーレッスンとか諸々付随して来るの解ってますよね!?」


 次第に声を荒げて慌てふためくカルディナに対して、大佐はあっけらかんと笑うばかり。

 一難去ってまた一難―――。

 どうにか面倒極まる世界からの逃げ道を探さねばとカルディナは考えを巡らせた。

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