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和やか日和


 王都に戻るや怒涛の忙しさがカルディナを襲った。

 そうと言うのも調印式までに着ていく礼装軍服を丸々一式仕立てねばならず、それと並行して式典に対して覚えなくてはならない事が山のようにあった。

 加えて、出兵に当たり休学している学校の課題もたんまり残っていた。


「音楽とか美術とか、もう嫌いだわ…」


 最早溜まり場となっている第二格納庫で課題の用紙と向き合いながら愚痴を零した。

 得意分野は即座に終わったが苦手な科目は蝸牛の鈍さである。

 カルディナにとって興味がないことを強要されるほど嫌いなものはなかった。


「音楽に関しては僕も同感…」


 唐突なそんな声に驚きのあまり悲鳴を上げて飛び上がった。

 誰かと思えば大佐である。


「だから、いきなり現れないでください!ビビるんですけど!?」


 怒りを込めて思わず声を荒らげた。

 前線基地から戻ってからというもの、事ある毎に大佐はカルディナの前に現れるようになった。

 通信機や使いの下士官を寄越せば良い案件でも直接会いに来るので、半ば鬱陶しく思っていた。

 全く以って、この偉丈夫は距離の取り方が難しい―――。


「単に様子を見に来ただけなんだけど…」


「それなら通信端末(ビートル)で連絡一本入れれば良い話ではっ?いくら養父とはいえ、大佐は上官です。親しき仲にも礼儀ありです…!」


 遠回しにあんまり近寄るなと示唆するが、当人は意味が分かっていない様子。

 周囲からは何やら温かい視線を送られるし、城内を主に近頃、前線での活躍が広まって二人の間柄は必要以上に注目されている。

 あまり馴れ馴れしくされると噂に尾鰭が付きまくり、とんでもないゴシップに成り兼ねないので勘弁してほしい。

 ここはそう言う世界である。


「あんれ!大佐もいらしてたんですね!」


 素っ頓狂な声が響き、大佐の後ろを見て、思わず顔が綻んだ。

 エクスレイ中尉とその妹であるセレーナである。


「セレーナ先輩!」


「ミス・シャンティス!久しぶり!元気そうだね!」


 駆け寄り、キャッキャと手を取り合う。

 彼女とはイジメの件で知り合ってから仲良くなった。

 ここだけの話、彼女は学園内にファンクラブがあるくらい人気があり、カルディナも密かに推している一人であった。


「手続きは無事に終わったの?」


「お陰様で…!推薦状、助かりました!」


 大佐と中尉のそんな遣り取りに何だろうと首を傾げる。

 そもそも何故、学生のセレーナがここにいるのか―――。


「実は秋から士官学校に入ることになってね!今日はその書類提出と面談…!早ければ二年後にも正式入隊予定!」


 セレーナはそう訳を話して、パチンとウインク。

 カルディナは思わず歓喜した。


「また一歩、夢に前進だな!早くしないと昇格するからな?」


「そっちこそ入隊までに殉職しないでよっ?」


 皮肉めいた兄妹話に、カルディナは思わず苦笑い。

 以前セレーナから兄の中尉と一緒に戦闘機パイロットとして空を飛ぶことが夢だと聞いていた。

 ちなみにエクスレイ兄妹の両親も王国陸軍の士官で、今は北方基地に派遣されている。


「おや、皆さんお揃いで…?」


 今度はモーヴ中尉がやってきた。

 すると、セレーナは急に畏まって姿勢を正し、頬を微かに赤らめた。


「こんにちは、セレーナ。久しぶりだね?」


「お久しぶりです、アンソニー様…。お元気そうで何よりです…」


 恥ずかしげに会釈するセレーナは、完全に乙女の顔である。

 名前で呼び合う二人の様子に、カルディナの無駄に良い勘が働いた。


「大佐、エクスレイ中尉、ちょっと良いでしょうか?」


 パッと手を上げ、部外者は退散しようと出口を指差す。

 これは二人にするのがベスト。

 そう気を回そうとしたのだが―――。


「嗚呼、別に気を使わなくて良いですよ?こいつ等、両家公認なんで」


 あっけらかんと告げたエクスレイ中尉にカルディナは一時硬直。

 二人を交互に見て、悲鳴じみた驚愕の声を上げた。


「ま、まじですか…!」


「二人は婚約関係でね。セレーナ嬢が二十歳になったら籍を入れるそうだよ?」


 大佐は笑いながら言うが、カルディナとしては衝撃的だった。

 そうというのもモーヴ中尉は古くから続く伯爵家の令息で、いずれはその爵位を受け継ぐご長男。しかも今年で二十八歳の男盛り。

 今回の奪還作戦の功績により、恐らく階級昇格は確定なので、かなりの優良物件である。

 対するセレーナは叩き上げの軍人家庭なので同じ軍人とは言え、家の格が少々劣る上、まだ肩書のない未成年である。


「モーヴ中尉、セレーナ先輩が社交界でイビられるようなら私、黙ってませんからね?ちゃんと守ってくれなきゃ駄目ですよ?」


 さっとセレーナの腕を抱き、カルディナはギロリとモーヴ中尉を睨む。

 推しの涙は赦せない。


「も、勿論守りますよ!」


「マジの本気で?」


「マジの本気です!!二言はありません!」


 彼女の威嚇にモーヴ中尉は慌てふためき、婚約者の言葉にセレーナは益々赤くなる。

 それを見る大佐とエクスレイ中尉は大笑いだった。

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