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夜間襲撃


 満点の星空の下、再び戦闘機を引き連れて大空を掛けるセルシオンは漆黒にその鱗の色を染めた。

 奪還したばかりの都市フォンデの敵軍基地にて、燃料と銃弾等の補充を済ませたカルディナ率いる特務機動連隊全攻撃部隊は、予期せず起こしてしまった川の氾濫に乗じて次なる都市ビスロークへと急行した。

 川沿いに細長く拠点を設けていた敵陣は流れ込んできた濁流に大打撃を受けており、攻め落とすには絶好の機会であった。


『こちらシャンティス。目標を発見。追撃します!』


 見えてきた大きな発電所とその隣に築かれた敵拠点に、カルディナは己に言い聞かせるように告げた。

 ビスロークでの作戦は帝国に占領された大型発電所の破壊と捕虜となって収容所に囚われている同胞の救助である。

 カルディナに課せられた任務は発電所を襲撃して大規模停電を起こし、捕虜の脱出を援助することである。

 川の氾濫により既に発電所は一部機能を失っていたが予備電源により収容所の電気は健在であった。


『ははっ!こりゃ分かり易くて助かる!』


 インカムを通して、エクスレイ中尉の嗤い声が響く。

 暗闇の中、まるでここを狙えとばかりに目標地だけに明かりが灯っていた。


『こちらハインブリッツ。全隊、気を抜くなよ?夜間襲撃とは言え、こちらも狙われていることを忘れるな…!』


 無線から届く緊迫した大佐の声に、誰もが気を引き締める。


『『『了解!!』』』


 その声が連隊全員の耳に轟く。

 操縦桿を握り締めたカルディナは、皆の先陣を切るように発電所へと突撃した。




 逃げ惑う敵兵を蹴散らし、発電所の鉄塔を圧し折る漆黒の竜の姿は、見る者を恐怖に陥れた。

 機械竜のもう一つの狙いは、その姿と力で帝国兵に恐れを抱かせることである。

 まだ明けぬ闇の中、燃え上がる炎に浮かび上がる漆黒のセルシオンは敵からすればさぞ恐ろしいことだろう。

 カルディナは出来る限りその姿を晒し、見る者を威圧した。


『こちら第二攻撃隊。少佐、全収容所の制圧完了。いつでもどうぞ』


 慄く敵兵を睥睨しながら、インカムから聞こえてきた連絡にカルディナは深呼吸した。


「セルシオン、色彩を初期化」


 端的な命令にセルシオンは咆哮を上げ、それを合図に鱗の色が抜け落ちる。

 暗闇の中に浮かび上がった純白の姿は神々しくさえあった。


「セル、そこの帝国の旗を掴んで上空を旋回」


 指示を出しつつ、カルディナは果敢に反撃して来る敵兵を機関銃で牽制。

 弾を当てないように気を配りつつ、セルシオンに焼け焦げた帝国の旗を掴ませた。

 そして、それを見せびらかすように天を一周させた。

 ボロボロの帝国の旗は風に煽られて萎れ、敵兵にお前たちの負けだと印象付けた。


『帝国兵に告ぐ!直ちに投降し、カローラスの軍門に下りなさい!我々はこれ以上の流血と涙は望まない!繰り返す!直ちに投降しなさい!』


 再び鉄塔の上に降り立ち、拡声器で声の限り敵兵に降伏を促した。

 ―――お願い、これ以上戦わせないで。

 そう願いを込めて、言葉を繰り返した。

 次第に彼女の願いを聞き届けたかのように、睨みを利かせるセルシオンを目の当たりにした敵兵が恐れのあまり戦意を失う。

 一つまた一つと落とされていく武器の音が次第に広がった。


『…こちら第三攻撃隊長モーヴ。少佐、ビスロークに於ける敵方全拠点の降伏を確認しました。我々の勝利です』


 暫しの後、インカムより届いたモーヴ中尉の声の向こうから仲間の歓声が聞こえる。

 ―――長く過酷な一日がやっと終わった。

 カルディナの胸にあった想いは喜びではなく、只管に疲労であった。

 コックピットの中、重い瞼を閉じて深呼吸からの呑気な欠伸を掻いた。

 気付けば夜が明け、太陽が昇り始めている。

 ダム湖を決壊させた当事者とは言え、好い加減に眠気のピークだった。


『こちらハインブリッツ。シャンティス少佐、聞こえるか?』


 不意にインカムから聞こえた大佐の声に何事かと緊張が走った。

 次なる司令かと身構えた。


『…少佐、ここまで御苦労だった。後はランドル大尉と後援処理部隊に任せて一時戦線から離脱しなさい。エクスレイ中尉他第一攻撃隊を護衛につける』


 要約すると一旦帰って来いとの意味である。

 戦闘機の燃料と武器の残数を考えれば妥当な指示だが、夜明けと共にこのまま南下してモティ村を奪還したいところでもある。


『…カルディナ、焦ることはない。モティとベインベイはここまでと違って完全な市街戦になる。体制を整えた方が無難だ。特にモティには三都市の逃げ遅れた民間人が収容されている。慎重に動こう』


 流石は敏腕大佐とでも言うべきだろうか。

 こちらの考えを見抜いたような言葉に、先走る思いは立ち消えた。

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