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グッドバディ


 段々と浮かび上がった意識の中、エンジン音で車に揺られていたことに気付いた。

 あちこち細々とした痛みを感じつつ薄目を開ければ、見覚えのある礼装軍服が体に掛けられ、それを押さえるようにして逞しい腕に抱えられていた。


「狭くて悪いね…」


 後頭部辺りから聞こえる聞き慣れた声に、俄に赤面した。

 顔は合わせず、首だけを振った。

 軍用移送車両の中、カルディナは大佐の膝に乗っかる形で病院に搬送されていた。

 負傷兵の数が多く、車内はぎゅうぎゅう詰めで、大佐自身も義手をドアに押し付けて窮屈そうである。



 遡ること数時間前―――、王城メインホールにて発生した襲撃は大きな混乱を招き、多くの怪我人が溢れた。

 幸いカルディナと大佐の活躍に加えて特務機動小隊や警備隊の迅速な対応により、暗殺者集団は間もなく制圧され、死者も出すことなく事は収束した。

 しかしながら近隣の病院は負傷者の対応に追われ、賓客の治療を優先する為、兵や士官に関しては重症者を除いて一時個々での応急処置だけしか出来なかった。

 カルディナ自身も割れた足爪を適当なテープで固定し、血の垂れる所には絆創膏を貼り付け、ボロボロドレスのまま事態の収拾に駆り出された。

 全ての刺客を収容し終えた時には時刻は十二時を超え、朝から動きっぱなしの足は限界に。

 痛みと疲労に動けなくなり、人が来たら起こすようセルシオンに頼んだのを最後に、適当に廊下の隅に座り込んだ事だけは記憶していた。


「疲れている所で悪いけど、手当が終わったら王城に戻って聴取に応じて欲しい」


「了解です」


 事務的な会話をしながら、掛けられた礼装の中が温かいことに気付いた。

 捲ってみれば小型の竜になったセルシオンが丸くなっていた。


「一緒に行くと聞かなくてね…。蝶は警備の為、小隊に預けてある。狼の器は整備隊が修理に当たってる筈だ」


 それを聞き、申し訳無いと思った。

 まだ混乱は続いているというのに、体力の無さ故に途中離脱してしまった。


「君を搬送する口実で私も運んでもらっている次第だ。今回ばかりは私も皆に苦労を掛けてしまうな…」


 自嘲気味に微笑み、大佐は白み始めた空に目を向ける。

 カルディナはその言葉に驚いて、体を捻ってその顔を見上げた。


「大佐もお怪我を…!?」


 騒然とする彼女の顔の近さに、大佐は思わず顔を引いた。

 (つぶら)な碧の瞳が酷く憂いの色を帯びていた。


「嗚呼、いや…心配ない。唯の故障だから」


 困ったように笑いながら、彼は動かない義手に目配せした。

 戦闘で激しく使った為、何処かの線が切れたか内部ショートしたらしい。


「忙しさにかまけて、メンテナンスをサボったツケだね。また先生に怒られそうだ…」


 そう戯けたように笑う姿に、カルディナは安堵したように溜め息を零しながら自分自身の力の無さを痛感した。

 あの場に大佐がいなければ、ミラ妃を守るどころか自身も危なかっただろう。

 正直、セルシオンと自分の力量を過信していた。


「もしかして力不足だったとか思ってる?」


 内心を見透かしたように問われた。

 気不味く思いながらも頷くと、大佐は不意に腕に力を込めて彼女を胸に寄せた。

 車の揺れもあり、髪の乱れた頭が大佐の襟元に傾く。

 彼は薄髭の伸びた頬をキョトンとする額に寄せた。


「あの数相手で身内からは一人も死者を出さずに済んだんだ…。それに君ほど安心して背中を預けられたバディは久しぶりだよ。良い相棒になりそうだ…」


 穏やかにそう告げ、慰めるように肩を擦るその手の優しさに胸が詰まった。

 また泣きそうになって、けれど困らせたくなくて―――、俯き加減に唇を噛んで、ぐっと堪えた。


「…っ…はい…」


 微かに震える声で、そう答えるのがやっとだった。




 今朝の新聞の一面は、王城メインホールでの襲撃で一色だった。

 ラジオもニュース番組もそればかりで、見聞きするのが鬱陶しくなるほどであった。


「あの、大佐…」


 尚もざわめく城内にて、カルディナは廊下を進みながら大変、気不味そうに声を掛けた。

 擦れ違う誰もが、こちらを見てはヒソヒソと囁いている。


「どうした?」


 あっけらかんと大佐は訊ねる。


「どうしたじゃありません…!自分で歩けますから下ろしてください!!」


 思わず声を荒げ、自分を背負う大佐の背を控えめながらに叩く。

 病院にて小隊の士官が持ってきてくれた着替えの軍服を着用し、いざ自力で戻ろうとした所、帰りの重なった大佐に捕まった次第である。


「でも足を怪我してるし…」


「手当したので大丈夫ですっ!というか周囲からの視線の方が痛いんですよ!そして、何ちゃっかりセルシオン首に巻いて、しかも嬉しそうにしてるんですか!鬼上官のイメージ崩壊してますよ!?」


 怒涛の突っ込みを入れるも当の大佐は笑うばかりで、下ろしてくれる気配がない。

 セルシオンも暖を取るためか、大佐の首巻きになって満足そうにしている。

 肩幅が休むのに丁度良いらしいが、何だか浮気された気分である。


「…てか、重くないんですか?」


「戦時物資の運搬より全然軽い」


 取り敢えず、それとは比べないでくれと言いたい。


「このまま参謀本部に設置された対策室に行っちゃうけど構わないかな?」


「構わないも何も!だから下ろしてください…!」


 そんな堂々巡りな会話をしながら、カルディナは王城西側にある大佐の勤務先でもある王国軍事参謀本部に連行された。

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