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お呼び立て


 いつもと違う王城の雰囲気に翌日がルノレト帰国直後に、通知された式典予定日なのだと気が付いた。

 最早歩き慣れたメイン通路の街灯には前日まで無かった筈の国旗と王家の紋章が靡き、何処か浮足だった城内職員が右往左往。

 いつものように第二格納庫に入ってみれば、一昨日から続々と届き始めたセルシオンの戦闘用ボディの部品を、外部から派遣された溶接工が黙々と組み立てている。

 その側では機動小隊の士官達がこそこそと城下町で開かれている催事のパンフレットを眺めていた。


(ここも浮かれてるわ…)


 戦時中だというのに皆して何ともお気楽だと鼻で笑いつつ、連れ歩いていたセルシオンの頭を撫でる。

 前線では今日も苛烈な戦いが続き、両国の未来ある命が少なからず散っている。

 何の式典かは知らないがここで浮かれている暇があるならば、とっとと戦争を終わらせろと吐き捨てたくなった。


「カルディナ、どうしたの?」


 そんな冷めきった思考を感じたのかユルリが顔を覗き込む。

 何でも無いと答えつつ、前日に修正したばかりの図面を見返した。


(やっぱりコックピット付けたいなぁ…)


 ペンを片手に頭を傾げつつ、火花を散らしながら順調に形を成してきたセルシオンの新しい器を眺める。

 ルノレトより別の製品として輸入されたチタンは無事に国内で機械竜の部品として成形され、この場所へと次々に届き始めている。

 順当に行けば、一ヶ月後には完成する予定である。


(これまでの形態変化実験の実績からして、ボディの動作確認と修正に一週間、付属武器や飛行能力の習得訓練に二週間…、初夏には実践かな…)


 この先行う事柄を指折り数えながら、新しい器の全貌を見ようと二階デッキに登る。

 まだ大枠の骨組みだけではあるが、武器を装着させる為、かつて自作したボディと比べると身体はひと周り、翼は二周り大きくなっていた。


「いやぁ、壮観だねぇ…」


 そんな声に視線を向け、姿勢を正した。

 様になってきた敬礼を行い、キビキビとした動きで頭を垂れた。


「お久しぶりです、ハインブリッツ大佐」


 実質顔を合わせるのは二週間ぶりではあるが、話すのはルノレトからの帰国以来なので、顔を上げると共に一応としてそう挨拶した。


「だからヴォクシスで良いって…」


 腰ポケットに両手を差し入れつつ、何だか呆れたように大佐は呟く。

 その言葉は覚えているだけでも三回目であるが敢えてカルディナは聞こえなかった振りをした。


「ご要件をお伺します」


 淡々と冷めた目で訊ねる。

 正直な所、未だに養子縁組の件は根に持っていた。


「もしかして、まだ怒ってる?」


「恐れながら、手短に願いたく思います」


 イエスかノーかも答えない台詞じみた返答に、大佐の顔が僅かに引き攣る。

 名前で呼ばない時点で、怒っていることは気付いてもらいたい。


「…あの、多分カルディナにとっては悪い知らせになるんだけど…」


「手短に願います」


 機械的かつ声色に含まれる棘と圧に、言葉を選んでいた大佐は困ったように肩を竦めた。


「上官としての依頼。ちょっと顔を貸してほしい」


 弱った様に彼は言うが、それは命令だとカルディナは言い返したくなった。




 これと言った会話もなく連れてこられたのは、城内最奥の王室宮殿だった。

 簡単に言えば、国王とその一家が住まう建物である。

 職員が慌ただしく擦れ違う中、とあるシックな扉を大佐がノックをしてノブを引き、その後に続いて敬礼と一礼をしてカルディナも入室。

 待ち受けていた御仁に彼女は思わず、緊張の色を顔に浮かべた。

 書類の山を積んだ書斎机の前に腰掛けていたのは王太子シルビアだった。


「忙しい所、ごめんなさいね」


 そんな挨拶と共に書斎机に手を付き、席から立ち上がったシルビアは、何やら品定めするようにその場に直立するカルディナの周りを一周。

 何事かと訊ねたかったが、軍の規律により大佐と並んでいる時は彼が許可するまで動けない為、真顔を維持した。


「訓練のお陰ね…、姿勢も綺麗だし、所作に硬さはあるけど問題ないわ」


 そんな言葉に、嫌な予感が募る。

 何を確認されているのかと視線で大佐に訴えたが、本人は困ったように微笑むばかり。


「カルディナ、明日の式典にヴォクシスのパートナーとしてお出なさい」


 唐突かつ予想もしない指令である。

 否、正確には事前連絡のようなものはあったが―――。


「お、恐れながら!私は…!」


 青褪めて規律違反とは分かっていたが、異議を唱えた。

 自身では分不相応だと以前にも断ったし、大佐から打診もされている筈である。


「書類上、養女となっているから問題はないわ。お互いの虫除けにも最適でしょう。礼装に関してはこちらで手配しています。明日の朝七時に、こちらに来て支度なさい」


 取り付く島もないとは、まさにこのことである。


「これは一体どういうことですかっ!?」


 第二格納庫に戻って間もなく、カルディナは怒りを爆発させた。

 あまり聞いたことのない彼女の怒号に周囲は何事かと注目し、大佐は困惑気味に溜息を零した。


「私も昨晩、急に言われたんだ。どうやら、エグラン伯爵に唆されたディアス王子が君に興味を持ち出したらしくてね…」


 その回答に全てが集約されていた。

 状況は理解したが、最悪としか言いようがない。

 シルビアが虫除け云々言ったのはその為だろう。

 こうなってはもう腹を括るしかなかった。


「明日の動きについてご説明頂いても?」


 不本意極まりなかったが、自分のためにも段取りは確認したかった。

 不満げなカルディナの問いに対し、大佐は懐に仕舞っていた招待状と三つ折り用紙を取り出した。

 招待状の宛名には大佐に加えて、カルディナの名前も記されており、しかもシャンティスの姓ではなく、正式名のクロスオルベになっている。


「ご丁寧にまぁ…」


 思わず心の声が漏れた。

 何とも魂胆が見え透いている。

 続けて便箋を広げてみれば、明日の式典の大まかな流れがフローチャートで書かれていた。

 その内容を読みながら、漸く明日の式典が国王ヴェーゼル一世の即位五十周年記念なのだと知った。

 全く戦時中だと言うのに、御上はつくづく気楽なものである。

 式典そのものの開始は十五時からで、市民に向けた城下町でのパレードの後、十八時から始まる夜会とやらに出席するようにとの旨であった。


「言っておきますが、ダンスの相手はしませんからね?踊り方、知らないんですから」


「無論だ。唯…、一つ頼みがある」


 頷きながらも改まったように真剣な視線を送る大佐に、カルディナは何か不穏な物を感じた。

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