チタン交渉
床に敷かれた分厚い豪華な絨毯の上、豪快に盛られた揚げ菓子と、淹れたてのお茶が湯気を上げる。
そんな傍らで胡座を掻き、セーディスはカルディナの言葉に耳を傾けつつ、大量の資料に目を通していた。
「成程…、そして、こいつがその究極兵器って訳だねぃ?」
粗方こちらの事情と交渉内容を把握し、セーディスは擦り寄るセルシオンを撫でる。
彼女の様子からするに悪い反応ではないが―――。
「結論から言えば、そちらへのチタン輸出の増量は可能だ。この前、手付かずだった鉱山を新たに買ったし、協定の兼ね合いで近隣諸国の失業者を受け入れたから産出に関しても心配はない。唯、問題は今抱えている在庫を一気には流せない点かねぃ…。弊社としてはこの金額で取引してもらえるのは有り難いのだが…」
「やはり帝国ですか…」
茶を啜りつつ、大佐は顔を曇らせた。
セーディスは小さく頷いて、控えていた部下から資料を受け取り、近年のチタン輸出に関するページを見せた。
「チタンは何処からも需要があってね。カローラスの経済成長率を考えれば有意義な投資になるが、これが軍事利用と知られた場合、帝国の報復が恐ろしい。ランギーニは誰であろうと歯向かった奴には容赦無いからねぇ…」
湯呑を口に寄せつつ、彼女は溜息を零した。
古くより物流拠点として繁栄し、一つの国家として成り立っているルノレトだが自警団は居れども軍を有していない故、大国に武力行使をされては一溜まりもない。
今のところ隣接諸国との軍事協定のお陰で衝突は免れているが―――。
「カローラスがルノレトと新たに軍事協定を結ぶとすれば優遇して頂けますか?」
「生憎、今の市長は穏健派だよ。それに、あんたらとて今の戦況ではこっちまで戦力を割けんだろうに」
大佐の提案に対し、セーディスはイマイチの反応である。
「あの…、民間企業を介してチタン製品として、輸出して頂くというのはどうでしょうか」
そんなカルディナの提案に、一同はどういう意味だと首を傾げた。
「カローラスにもチタンを加工できる工場は存在するので、チタンそのものではなく何かの製品にしてしまえば良いのではないかと…」
「しかし、突然チタン製品に限って輸入を急激に増やせば、どうしたって怪しまれるのでは…?」
そう返した大佐の考えは尤もである。
帝国の猛攻は今こうしている間にも続き、国境の町を軒並み焼き尽くしている。
戦況を考えればセルシオンの戦闘用ボディ開発は急務であり、悠長には構えてはいられないので、一気に必要量を仕入れる方法を考えねばならなかった。
「いや、それなら誤魔化せる…!チタンはあらゆる分野で使われる素材だ。メガネとかピアスとか装飾品としても使われるし…、というか、ヴォクシス!お前の機械義肢にも多少だがチタンが使われているだろう…!医療分野での利用となれば国際条約の傘も使える!世界的にカローラスの医療技術は一目置かれてんだ!利用しない手はないぞ!」
閃いたとばかりに膝を叩くセーディスに、カルディナはそれだと頷いた。
今日、独立国家として機能する全ての地域に加盟が義務付けられている世界連合という組織は、十数年前にあった翼肢病という病気によるパンデミック以来、社会的に有益と判断された医療分野での開発事業に対して、優先的に物資や資金を融資するよう各国の大規模企業に通達している。
加えて、世界連合より認可された開発に対して、各国家が武力行使や圧力を掛けた場合、条約違反として多額のペナルティを科されることとなっている。
カローラス王国が誇る機械義肢技術はその国際的認可を受けている技術であった。
灯台下暗しとはこのことである。
「成程…!それは名案です。カルディナ、よく思い付いた…!」
見えた糸口に一同から笑みが溢れる。
咄嗟の考えが役に立ったとカルディナも誇らしかった。




