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再びの王城にて


 夕飯にと誘われた先は、想定外の王城だった。

 広間には既に特務機動小隊の皆の他、参謀本部の将校に国家防衛に携わる人間、更には王侯貴族の姿があり、総勢二百人余りがグラス片手に各々楽しげに語らっていた。


(場違い感が半端ないっ…!)


 軍服だらけのその場の空気に全力で逃げ出したい気分であるが、大佐にエスコートされている手前、そうも行かなかった。

 せめて隣の貴人に恥を掻かせないよう堂々と姿勢を正し、見目良い微笑みを顔に貼り付けておいた。


「ちょっと挨拶回りしたら、あっちの隅でご飯貰おうか」


「はい…」


 来る途中で小腹満たしにビスケットを抓んでおいて正解だったと思いつつ、その隣にぴったりと寄り添う。

 今日中に挨拶回りがあることも聞いていたが、この人数がいることは想定外である。

 昼間のような修羅場が無いことを全力で祈った―――その矢先だった。


「おお、ヴォクシス!来たか!」


 やけに大きな声が聞こえ、その名にほぼ全ての視線が集中する。

 こちらを手招きする豊かな髭の男の胸には、武勲の数を示すいくつもの勲章が輝き、その肩の階級章は大佐の遥か上の御人であることを意味していた。


「お久しぶりです、マーチス元帥閣下」


「なぁに、そんな畏まるなって!で、体の具合はどうだった?」


「お陰様で無傷でした」


 恭しく頭を下げる大佐に対し、その肩に腕を回して豪快に笑う軍の総大将に、カルディナは一歩下がって様子を見守った。

 人は良さそうだが直感的に絡まれたら危険なような気がして、触らぬ神に祟りなしと空気に成り切ることに徹したが―――。


「おっ、よく見ればクロスオルベのお転婆娘もいるじゃないか!」


 不意にこちらに目を向けた元帥はニパッと笑って、カルディナをロックオン。

 気分は大熊に見つかった仔ウサギである。

 冷や汗が額に滲む中、失礼に当たらぬようにとお辞儀をして挨拶しようとした瞬間だった。


「こーんな、ちまっこいお嬢ちゃんがドラゴンの使い手とは…!長生きするもんだな!よし来た!あっちにご馳走が沢山あるぞ!」


 幼子をあやす勢いで高く持ち上げられたかと思うと、ひょいとその小脇に抱えられ、豪快な笑い声と共に広間の奥へと連れ去られる。

 大佐は困ったように微笑むばかりで助ける様子はなく、周囲からは生温い視線が刺さる。

 今の自分の状況に理解が追い付かず、只々混乱した。


「元帥閣下、女の子はそんな乱暴に扱うものではありませんわ」


 そんな声に元帥の動きが止まった。

 コツコツとヒールの音を立てながら歩み寄った貴婦人に誰もが頭を垂れる。

 真っ青なドレスに小振りなティアラを頭に乗せたその人の顔に、カルディナは息を呑んだ。

 島にいた頃、監視兵が捨てた新聞に載っていたのを見たことがあった。


「シルビア殿下、お久しぶりです」


 周囲に倣い、元帥も厳かに頭を下げる。

 その際、雑に床に下ろされたカルディナは着地出来ずにぺたんと床に座り込んだ。

 一先ず開放されたと安堵しつつ急ぎ立とうとした彼女に、シルビアは徐ろに手を差し伸べた。


「大丈夫?立てるかしら?」


「あっ…お、恐れ入ります……」


 親切な手を取り、引っ張り上げられたカルディナは酷く恐縮した。

 記憶が正しければ、この女性は王弟の長女で、大佐の伯母でもあり、そして―――。


「初めまして。王太子のシルビアと言います。遠い所からよく来てくれたわ」


 そんな気さくな挨拶に己の記憶が間違っていないことを確認し、カルディナは全力で頭を直角に下げた。


「お、お初にお目に掛かります!カルディナ・シャンティスと、もっ申します!!」


 未来の君主直々の挨拶に心臓が脈打ち、緊張のあまり口が震えた。

 一生会うことなど無いと思っていた天上の御方に手を取られ、労いの言葉まで頂いてしまった。


「そんな緊張しないで頂戴。今日は貴女の歓迎会みたいなものだから」


 穏やかな微笑みを浮かべ、王太子は宥めるようにカルディナの肩を撫でる。

 そして徐ろに顔を上げた彼女は、トコトコと歩み寄る大佐に呆れたように溜息を零した。


「ヴォクシス貴方ねぇ、エスコートするなら最後まで面倒見てあげなきゃ駄目じゃないの…。元帥の猪突猛進は今に始まったことではないのだから、お()めなさい…!全く可哀想に…」


 叱る彼女に対し、大佐はあっけらかんと笑うばかり。

 怒りを含んだ視線でカルディナも無言の訴えをしたが、効果は今ひとつだった。


「そうそう、これ良かったら食べてね。また会いましょう…」


 そんな声掛けと共に、シルビアはそっと紙ナプキンに包んだ菓子を手渡してくれた。

 何事もなかったように過ぎ去る背に、カルディナは急いで会釈とお礼を叫んだ。

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