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宴会

 約束通り、数時間後CBが迎えに来た。体を、水を絞った布で拭き、身だしなみを整えられる。元々着ていた衣類はズタボロになっていて棄てられたらしく、新しいものを貰った。ふわりと不思議なにおいが漂う、変わったデザインの服だ。

 そして浮遊式の車椅子に乗せられ、俺はCBと共に宴会会場とやらへ向かった。と言っても、俺は何の操作もしていない。この車椅子にあらかじめルートがプログラムされているのだろう。

 初めて部屋から出て船内を見ることになるが、船の内装は豪華の一言に尽きた。世俗に疎い自分でも分かるほどである。この船は明らかに金持ちの船だ。リュウと乗っていたクルーズ船とは比にならない。船自体が比較的新しく作られた物のようで、なおかつ最新鋭の照明や空調の設備が整っている。そこに揃えられたカーペットや調度品は鮮やかで、華美な装飾が施されている。地球開拓時代に作られたアンティークの品々なのだろう。相当古い品物の筈だが、きれいに手入れがされているのが良く分かる。船のあちこちに飾られているが、少々船の造りとミスマッチなように思われる。誰か、個人の趣味なのだろうか?プライベートシップとしてはあまりにも大きな船だから、おそらく観光用の船なのだろうが、一体どのような意図で飾ってあるのだろうか。

 時折、廊下を走る小さなロボットが目に入った。丸っこいフォルムから伸びた2本のアームが、布切れとスプレーを掴んでいる。そして突然キュッと止まると、床を磨きだした。彼は恐らく清掃用ロボットだろう。

 長い廊下をずっと進むと、吹き抜けに出た。船はどうやら3段構造になっているようだった。俺が寝かされていた部屋は、3階にあたるようだ。

 俺達は吹き抜けの螺旋階段を下りて、2階へとやってきた。どこからか、賑やかな声が聞こえる。それに、この食欲をそそる香り。――暫く味のない物しか食べていなかった身体が、急激に腹が減ったような感覚に陥った。

 香りの発生源は食堂だった。広い室内の一角に、不自然にテーブルが寄せられている。そこへ寄せ集められた椅子に10名ほどが既に着席していた。CBに続いて俺が現れると、急に会話が途絶え一斉に視線が注がれた。値踏みをされるような、不快な視線が絡み付いた。あぁ、やっぱり。と俺は不安が確信に変わるのを感じた。――ここにいる奴らのガラの悪さといったら!


「やぁ来たね。アイザック」


 上座に座る、帽子を被った大男が俺の名を呼んだ。椅子に座っているのに、見上げるほどの体格だ。それに、彼だけ纏っている雰囲気が違う。一目見て、彼こそが船長(ボス)なのだと確信した。CBは車椅子を大男の左隣につけ、自分もさっさと空いた席へ座ってしまった。せめてCBには近くに座っていてほしかったものだ。名残惜しく彼を眺めていると、手錠を大男に外され、目の前のグラスに酒が勝手に注がれる。突然の事の連続にぽかんとしていると、大男が立ち上がった。

 

「よし、全員揃った。諸君、日々の務めご苦労。本日はゲストをお迎えしての宴会だ。存分に飲んで食うが良い。では、宇宙の創造神に感謝を。……乾杯」


「「乾杯!」」

 

 大男の号令でどんちゃん騒ぎが始まった。なんとも肩身の狭い。騒がしいのは嫌いなのだ。

 

「おらよ」


「えっ……あ、あぁ、ありがとう……」


 縮こまっていると、上半身にタトゥーが入った筋骨隆々の男が、俺の目の前に置かれた皿へ料理を乱雑に盛り付けた。見たことの無い料理だが、堪らなく食欲をそそる匂いがする。獣の肉だろうか。……ルルイェ人の身体に合わない物だったらどうしよう。いや、でも部屋で出された粥は食べる事ができた。味覚は彼らとあんまり変わらないのではないだろうか。ちらりと周りを見ると、他の者はがつがつとお行儀悪く豪快に食い散らかしている。――美味そうだ。俺もあんな風にがっつきたい。くぅ、と腹が鳴る。暫く葛藤していたが、一口食べるくらいならと思い、小さなかけらを恐る恐る口に運んだ。


「!」

 

 ――――衝撃だった。滴るような肉汁の旨味が口いっぱいに広がり、芳醇なハーブの香りが鼻腔を突き抜けた。脳天まで痺れるような、暴力的な旨さだ。今まで食べた物の中で、間違いなく1番美味い食事だった。

 当然一口で我慢できるはずはなく、アウェーだということも忘れて夢中になって料理を頬張った。あれも、これも、それも。大皿に盛られた料理はどれも美味だった。

 ふと、我に返り隣の男の事を思い出し、気まずくなりながら彼の方を振り返る。大男は、にこにこしながら俺の事を眺めていた。

 

「……あなたが船長?」


「ん?そうだ。この宇宙船の船長のシドだ。よろしく」


「シド。まず……俺を救ってくれてありがとう。心から感謝するよ」


「ふふ……神の御心に感謝することだな」


 シドは上機嫌でグラスに入った酒を煽った。


「それから……聞きたいことがある。あなたたちは一体、何者なんだ?――言い方が悪いかもしれないが……この船にとって俺は招かれざる客だったのではないだろうか?」


 俺の発言が可笑しかったらしい。一瞬静かになった後、どっと笑いが起こった。

 

「ハハハ!そうか、そうか。ヘリオス教えてやれ」


 先ほどのタトゥーが入った男がおうよと意気込み立ち上がった。


「海賊だよ!海賊!この宇宙船はな、1年前まで金持ち達の豪華客船だったのさ。今では俺らの船だがな!」


 あぁ、やっぱり。くらりと眩暈がした。船の上品さと乗ってる人間の品性が吊り合っていない事を薄々感じていたのだ。海賊といえば、非道な略奪や殺害を繰り返すならず者達だ。指名手配に懸けられている者も多い。ここ数年で増えたと聞いた事があるが、まさか自分が海賊に捕らえられるなんて夢にも思っていなかった。


「……じゃあ、もともとこの船に乗っていた客達はどうなったんだ?」


「どうしたと思う?」


「……」


「ふははは!中身だけもらって、ガワはバイオ燃料にリサイクルしたのさ!ん~。俺らは宇宙に優しい海賊なのよ」


 信じられない。彼らは、臓器売買を行っているのだ。極悪極まりない連中だ。自分が解体される様子を想像してゾッとした。


「……あんたらは俺をどうするつもりだ。バラすのか?奴隷にでもするつもりか?……それとも人身売買にでも出すつもりか?」


「あぁ、確かにルルイェ人は希少だからなぁ。良い値がつきそうだ!」


 ヘリオスがそう言うと周りも一斉に笑った。その笑い声を、シドが諫める。

 

「あまり怯えさせるな。……アイザック、お前は観賞用だ」

 

「……観賞用?」


「くふふふ……私は珍しいものが好きでね。ルルイェ人がまさか宇宙空間に漂っているとは!神が私に与えてくださったに違いないと確信したね。くふふ、普段の行いが良い証拠だな」


「……俺はモノじゃないんだけどな」


「君が反抗したり逃げ出したりしない限り身の安全は保障しよう。君が望むものもできる限り用意しよう。君の身が私の所有物であることが条件だがね」


 ――この大男の所有物だって?それはつまり、彼の言いなりになれということだろうか。しかし、一方で好機とも思えた。物扱いされるのは癪だが、無駄に暴力を振るわれたりしないのであれば、いつか逃げ出せるチャンスが来るまで従順な振りをしていた方が賢いかもしれない。それに、知らなくてはならない重要なことがもう1点ある。

 

「わかった……それじゃ……もう1つ聞かせてくれ」


「なんでもどうぞ?」


「宇宙空間で、俺と一緒にいたルルイェ人の男を見なかったか?彼も助かったんだろうか?」


 ――ここから逃げ出すとしても、リュウが一緒でないと意味がないのだ。リュウと一緒に幸せに暮らせる場所を見つけるためにルルイェ星を捨てたのだから。だから、彼の行方を知るであろう彼にはある程度良い印象を与えておかねばならない。


「どうだったかな」


 シドの的を得ない返答を聞いて頭に血が上る。

 

「はぐらかさないでくれ!船長のあんたが知らないはず無いだろ」


「いちいち覚えてない。何人か救助した気もするが……この船に部下も相当数いるし、もともとの乗客だって大勢居たのだから。一々覚えていないな。そんなこと」


「……そんな……」

 

 しかし、命を救ってもらったことは事実。あまり強く出られない。

 

「じゃあ……思い出したら教えてくれ。俺の大事な人なんだ」


 悔しいが、彼らの記憶のみが頼りだ。気が変わって、教えてくれるのを待つしかない。


 

「……いいだろう。まぁ、今は君の回復を祝う場なのだから。そんなことは忘れて楽しみたまえ。」


 シドは俺のグラスに酒を注いだ。俺は、それを飲み干す。




 

 CBに部屋まで送ってもらい、車椅子からベッドに移った。CBが部屋を出ていくのを見送ったあと、俺はベッドにバタリと倒れ込んだ。どっと疲れが押し寄せる。あの場では虚勢を張っていたが、この船が海賊の船だなんてまるで生きた心地がしなかった。


 リュウがこの船に居るのか、そもそも、リュウが生きていることすら分からなかった。


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