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※尋問

ちょっといかがわしい表現があります

 ――朦朧とした意識が、次第に覚醒していく。金属の擦れ合う冷たい音で、俺はようやく現実へと引き戻された。手首に触れる冷たいものは、鋼鉄製の手枷だった。見上げると、そこから伸びた鎖が天井のフックへと繋がっており、俺は天井から吊るされていることを理解した。手枷に体重が掛かって腕に食い込み、ジリジリと痛む。

 辺りを見渡すと、いくつかのトレーニング器具と思しき器械がぽつんと置かれた、妙な部屋にいた。アハルケテに運んでこられたらしい。


「お目覚めか?」


 声の主は、愉快そうに俺の姿を眺めている。俺は精いっぱいの侮蔑を込めた眼差しでアハルケテを睨みつけた。

 

「……クソ野郎」


「ははッ。ソラリス人と言えど、拘束されてちゃ大したことねぇな」


「薬なんて卑怯なもの使われていなければ俺が勝ってた」


「おっと。これから始まんのは尋問なんだぜ?口の聞き方に気をつけるこったな」


「……痛いのは慣れてる」


 ――本当は、痛いのは嫌いだ。ルルイェ人の高い治癒能力故に大抵の傷は治ってしまうが、痛みが軽減されるという訳ではない。ルルイェ人の歴史上、処刑で死んだ者は、痛みに悶え苦しみながら、なかなか死ねない責め苦を味わってきた。


「だよなぁ。ソラリス人は痛みに強いってのは有名な話だ。だから特別コースにしてやるよ。……でも、お前がちゃんと俺の質問に答えられたら痛いのはナシだ。解放だってしてやるかもな」


 そう言うと、アハルケテは俺の首に謎の装置とコードで繋がった、分厚いベルトのようなものを巻き付けた。内側に毛のような微細な短い針がずらりと並んだ、革製のベルトだ。痛みを想像して悪寒が走った。せめてもの抵抗としてアハルケテの手に噛み付こうとしたところを、一発殴られる。


「じっとしてないと……。な?」


「…………」


 にっこりと笑いながら、アハルケテが俺の首にベルトを取り付ける。ゾッとするような感触と痛みを伴い、針が首筋に刺さった。


「いっ……なんだこれ……外せ……!」


「血の首輪。さぁ、これを見ろ」

 

 顎を掴まれて無理矢理机の上に置かれた装置を見せつけられる。メトロノームの様に、針が付いていて左右に振れる仕様のようだ。


「これはポリグラフだ。……嘘はすぐばれるからつかない方が身のためだぜ。お前が嘘をつく度に俺はお前を殴る」


 ――ポリグラフ。いわゆる嘘発見器だ。太古の昔から、尋問に使われていたと言われる装置である。

 

「さぁ。答えてもらおうか。いいか、できるだけ簡潔に答えろ。ハイかイイエが望ましい。……お前はロッツォを殺したか?」


「何のことだかわからない」


「はっきり答えやがれ!ほら!ポリグラフが反応しねぇだろ!!」

 

 どうやら曖昧な答えをポリグラフは判別することができないらしい。ピクリとも動かない針を見て、理不尽に腹を一発殴られた。鳩尾に響く鈍い痛みと恐怖で膝が勝手に震えた。


「ロッツォを殺したか?」


「……いいえ」


 ポリグラフの針が左に、ぐいんと振れた。アハルテケは手元に置いてあった用紙に何かをメモして次の質問に移った。


「……お前は俺たちに害なす者か?」


「……いいえ。そんな、つもり」


 ぴー。甲高い機械音が鳴った。右に針が振れたのである。


「違う!違う、違う……!」


 海賊とはいえ、一応は命の恩人たちである。叛逆しようだとか乗っ取ろうだとか、そのようなことは考えていないのに、ポリグラフは”YES”を示したのだ。リュウと脱出するときにもしかしたら戦闘がおこるかも、と思ったくらいで決して進んで争いたい訳じゃない。俺が必死に弁明しようとするも、アハルテケに脇腹を蹴られる。


「うぅ……」

 

「てめぇ、何を企てている?まさか俺達の事業を誰かにチクろうとしてんじゃねぇだろうな?」


「知らない、知らない……!」


 それからいくつか意味の分からない質問をされ、暴力を振るわれ続けた。なんでこんな目に遭わなくてはならなかったのだろうか。そんなことを考える暇もないまま、次々と質問に答え続けた。


「お前はルルイェ人を探している?」


「……!リュウの事を知っているのか」


「ハイかイイエだろ!」


「……う……ハイ」


「そいつとはどんな仲だ?――これは普通に答えろ」


「……友人だよ」


「あっそ。オトモダチね……OK、もういい。」


 首に巻かれたベルトを外される。針が刺さっていた部分から細い線を描いて血が垂れた。ようやく尋問が終わったのだと理解し、心底ほっとした。


「それじゃあ教育の時間だ」


「……え?」


「お前が最も嫌がる方法で痛めつける」


「え?……なに、を?……え?」


 解放される。そう思っていたのに、手首の拘束具はそのまま、ズボンを下着ごとずり下ろされる。


「………………え?」


 血の気が引いていく。まさか、まさかこいつ。


「お友達とこういうことしてた感じ?」


「なんで、それを」


「バァーカ!!カマ掛けただけだよ!決まりだ、これに決まり!」


 馬鹿正直な自分の失言を恨んだ。俺は今から、この男に犯される。


「やめろ……それだけは……!」


「俺ァな、ヒトが一番嫌がることをするのが好きなの」


 ぬるりと尻を撫でられる。手がゴツゴツして冷たくて、気持ちが悪い。胃液が込み上げてくる。


「ひっ…………」


 思わず声を漏らすとアハルケテはにっこりと俺に微笑みかけた。


「さぁ、楽しもうぜ」



 …………。何時間経っただろうか。リュウは、どうして助けに来てくれないのだろう?怖い。寂しい。痛い。……悲しい。それらの感情がごちゃ混ぜになって、胸に溢れ返る。リュウとは、暴力的な衝動を発散し合うために身体を重ねていたが、一度だってこんなに酷い抱き方をされたことはなかった。

 ……誰だっていい。女神でも、邪神でも、何でもいい。誰か助けてくれ。――そう、頭の中で祈った。祈って祈って、――俺は見放されているのだと、理解した。

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