032_和解と決意
「お前らはてめぇの都合にばっかり目を向けてっ……!確かにエレファントス!お前の言う通りかもしれねぇよ!けどよ!メルに理由を聞いたのか!?お前は、あの子の目を見て……ちゃんとよぉ!?」
「……それは……」
エレファントスは尻もちをつきながら、苦い表情を浮かべていた。
なおも詰め寄ろうとするリブロの前に、王が立ちふさがった。
王はリブロの肩を掴み、額を近づけて訴えるように叫ぶ。
「わかってくれ……!儂たちは、人族は弱いのだ……!子供のような存在に辛い選択を迫らねばならぬほど!そうせねば、大勢の命を失うことになるっ!手段を選んでいられない場合だってあるのだ!」
「違う! 俺が言いたいことはそういうことじゃねぇ!」
王の手を振り払って、リブロは再びエレファントスを睨みつけた。
「メルが俺たちに最初にかけた言葉は何だと思う……?『生まれに罪はあるのか』だぞ!? お前、あんな小さな子にそんなこと疑わせちまって、何やってんだよ!?」
リブロの声は怒りに震え、玉座の間に響き渡る。
「人族のためにコロシアムに送り出すっていうのなら……せめてもっといい送り出し方があっただろう!声の掛け方ひとつで、あの子の気持ちだって違ったはずだ! あれじゃまるで厄介払いじゃねえか!」
一方的に捲し立てられたエレファントスも、反論のためにぐっと身体に力を込めて立ち上がった。
「お前に何がわかる! 兵を殺されたのだぞ! その中には私の友だっていたのだ!」
「それでも! お前だって、メルのせいじゃないってことは途中からわかったんだろう!?」
「わかっていたとしても、私の対応は変わらなかったさ!いいかっ!犠牲になった兵たちの家族には事情も知らせられなかったのだぞ!お前は亡骸にしがみつく家族の前で、そんなことが言えるのか!」
額が当たるほどに近づき、リブロとエレファントスは互いに睨み合った。
エレファントスは目を怒らせながら、リブロに言い放った。
「……人族のためだったら、もう一度メルをコロシアムに送り出すのだってためらわないぞ……!」
「……てめぇ!」
リブロが拳を振り上げたその時――
「やめてください!」
ブリッツの叫びが玉座の間に響いた。
「止めるなっ!ブリッツ!」
ブリッツの声を聞いても、両者はお互いから目を離さない。
「聞いてくださいっ! それに……僕にはエレファントスさんのこと、責められません……」
「なんだお前っ! こいつの肩を持つってのかよ!」
リブロは振り返り、怒りの表情をブリッツにもぶつける。
そこには悲しみもあった。
その表情を理解したうえでブリッツは自分の気持ちを吐露した。
「…僕だって、最近は辛い選択ばかりでした……。ザインさんと戦っている時、自分の命とアテナさんの命を天秤にかけられました。あの時、僕がアテナさんを殺していたら……リブロさんは、僕を責めますか?」
リブロははっと目を見開き、ブリッツの正面を向いた。
「……責めるわけがねぇ!ブリッツ、お前はここに痛みを感じていたはずだ…!」
そう言って、自分の胸をどんっと突いた。
その対応にブリッツは首を静かに振った。
「エレファントスさんに、それがないって言えるんですか?どんな行動をしたにせよ、それが配慮に欠ける行動だったにせよ……本当に、エレファントスさんは何も思っていない……そうやって思うんですか!? 友達の死を悼む気持ちがある、この人が!?」
「……!」
リブロは言葉に詰まった。
「きっと、痛むうちに辛い選択肢がさらに重なって……麻痺しちゃっただけなんじゃないですか……?」
「……それじゃダメだ!自分が選んだことで誰が苦しんで、誰が泣いちまうのか!それをわかろうとしないのは、単なる逃げだっ!」
「本当に悪いのは……人の命を天秤に乗せた相手のほうじゃないんですか!?選ぶ人、なんかじゃなくて!」
ブリッツの声が玉座の間に響いた。
リブロはその言葉に静かに目を向ける。
「それは……確かにそうだ」
そう言って、深く頷いた。
ブリッツが、ポツリとこう言った。
「……僕たちが必ず勇者を見つけます」
皆がブリッツの方を見つめた。
ブリッツは王とエレファントスへ視線を向ける。
その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
「王様、エレファントスさん。僕たちが、絶対に勇者を見つけます。そして、そして……!」
ブリッツの顔が紅潮する。
彼は拳を力強く握りしめた。
「もっと良い選択を作り出すんです……!天秤の片方に、何の罪もない人の命が乗る……そんなことが二度とないように……!突きつけられた選択を突っぱねられるように!僕たちが……必ず……!」
ブリッツの気持ちに後押しされるように、皆が言葉を続けた。
「そうだ……そうだな! 魔王に対抗できる存在が見つかりさえすれば、魔族たちと対等な交渉ができるはずだ!」
リブロの言葉に、アテナやマリセも続く。
「永続的な和平がなれば、魔族との国交も生まれる。交流が生まれさえすれば、私やメルの立場だって変わるかもしれない」
「それだけじゃないわ。貿易によって食糧価格も下げられるかもしれない。そうすれば、救える人だってたくさんいるはずだわ」
ブリッツは皆の顔を見回した。
皆が同意するように頷く。
だが、エレファントスと王の方を向いたあとで、ブリッツは「……あっ」と小さく声を漏らした。
皆がきょとんとする中、ブリッツは恐る恐る口を開く。
「……あの、もしかして……なんですけど……。リブロさん、逮捕されたり……しませんよね?」
その言葉に、皆の視線がエレファントスの腫れた顔へ向いた。
リブロは顔を真っ白にさせ、慌てて膝をついて頭を下げる。
「す、すまねぇ……! い、いや! 度重なるご無礼、申し訳ございませんでした!」
当のエレファントスはぽかんとした顔をしていたが、横の王と顔を見合わせた。
そして二人は、堪えきれずに声を上げて笑い出した。
その笑いに、皆は「?」を浮かべる。
エレファントスはゆっくりとリブロの方へ歩み寄った。
膝をつき、顔を伏せているリブロへそっと手を差し出す。
差し出された手に気付いたリブロは、驚いたように顔を上げた。
「リブロ。選択に痛みが伴うことを、改めて教わった。私は代償を払っただけさ。これで手打ちにしてくれないか?」
「あ、ありがたき……」
「おいおい。友に対してよそよそしいな」
そう言って、差し出していた手をさらにグイッと前に突き出した。
エレファントスの顔は晴れやかだった。
リブロはニヤッと笑うと、その手をぐっと掴んで立ち上がった。




