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第76話 ジャッジ・A・ジスティス

「はぁ〜、寮って良いわね〜! 学校から近いどころか同じ敷地内なんだもの!」

「あはは、ユーティフルさんの本家から学校まで遠いですからね……」

「そうそう! 王城には歩いて通えるけれど……」


 まあ、ユーティフルにとっては不便だろうな。誕プレにもらった家も取り壊して無くなったらしいし。


「にゃははっ、いっそのこと『りょうせい』になったらどうだー?」


 ケアフがツナサラダを皿によそいながらそんなことを言う。

 ……うわ、『じょうだんいわないでよ』という気持ちになってきた! エンドリィのユーティフルに対する敵対心凄いな!


「うふふ、アリかもしれないわね! ご飯も美味しいし、住み心地も悪くないもの!」


 あんな大豪邸に住んでいるユーティフルに『ご飯も美味しい』とか『住み心地も悪くない』だとか言わせるとはウチの寮もなかなかやるな。まあ、ユーティフルが割と庶民派だということも関係しているだろうが……って、さっきから『いやなきもち』が凄い湧いてくる。落ち着いてくれエンドリィ。


「……お、来た来た! んじゃ! いただきまーすッ!」


 オレたちが席に戻ると、待っていたストレンスたちが手を合わせる。


「ケアフセンパイ! カインセンパイ! ワタシ、『ミズゾクセイ』のマホウもつかえるようになりましたっ!」

「おおっ、すごいぞラビィ!」

「レンシュウ、がんばっていますからね……そのセイカがジュンチョウにあらわれているんでしょう。いいケイコウです」

「ふふーんっ! すぐに『ショウキュウマホウ』もつかえるようになります! ……まけないからっ!!」

「ひぃ、かってにがんばってよぅ……」


 ケアフとカインに褒められ嬉しそうなラビィだったが、キッとアリスジセルを睨みつける。

 ……この二人は相変わらずだな。


「ふんっ、そんなヨウスじゃすぐにおいぬいちゃうわっ! 『ヒカリゾクセイ』イガイのマホウをつかおうとしないしっ!」

「ぼくは『ひかりぞくせいまほう』しかつかえないんだよぉ……」


 ショモショモとした表情でモショモショとレタスを食んでいるアリスジセル。

 どちらかというと半兎獣人のラビィよりも彼女の方がウサギを想起させる要素が多い気がする。


「あはは、練習すればきっと他の魔法も使えるようになるよっ!」

「うぅ〜、そうだったらよかったんですけど……」

「ふんっ、サイショからあきらめているようじゃムリよ!」

「……まあ、こればかりはラビィにドウイですね。アリス、ドリョクをすることはつらいことかもしれないですが、アナタのためにもがんばってみるべきですよ」

「うぅ〜〜……」


 カインのアドバイスも耳に通らないようで、耳を塞いでプルプルと震えている。

 ……わかるわかる。『頑張る』って、できればやりたくないと思っていたよ。


「はぁ……ふぅ、アリスちゃん、そんなに震えてどうしたのかなぁ?」

「あ、寮長!」

「どうもこうもないです! コイツ、ほかのゾクセイのマホウをつかえるようになるためのレンシュウをやりたくないっていってるんですよ!」

「……どうせむだだもん」


 再びモショモショとレタスを食むアリスジセル。これは重症だな……。


「……ふぅ。まぁ、やりたくないことを無理にやらなくてもいいと思うよぉ? はぁ、例えば、他の属性の魔法は使えないけれど『光属性魔法を極大級』まで使えるエキスパートになりたい、でもいいわけだよぉ〜」

「……どう? アリスちゃん、それなら目指せそうじゃない?」

「……そのくらいなら」


 アリスジセルはニンジンをポリポリと咀嚼しながらなんでもないことのように言ってのける。


「……コイツ」

「わははっ、こりゃ大物だなっ! エンドリィやエストみてぇな天才なのかもしれねぇな!」


 ジロリと睨みつけるラビィと大笑いするストレンス。

 まあ、先ほどの発言は傲慢だと思うが……。


「……というか、寮長、どうしたんですか? なんだかソワソワしてますけど」

「脱ぐなら部屋でやってくれよな?」

「はぁ……ふぅ、それでソワソワしているわけじゃあないよぉ。アイツ、帰りが遅いなって思ってさぁ」

「ああ、副寮長のことですか」


 たしかに、規則正しい彼がこの時間に食堂に顔を見せないのは珍しいと思っていたが……。


「そうそう〜……ふぅ、銀行に行ってくるとは聞いてたけど」

「にゃ……まさかまた『ごうとう』とかおきてないよな?」

「……ありえないハナシではないですね」

「……あっ、副寮長っ!」


 オレたちが話していると、副寮長が食堂の扉を開いた。


「はぁ……ふぅ、遅かったねぇ〜、まさか、強盗にでもあってた〜?」


 ルファイアが小走りで副寮長に駆け寄る。


「……そのまさかだ。相手は一人で、おれが取り押さえたから被害は生じなかったが」

「……ひゅう、やるね〜。それじゃあ疲れてるでしょ〜? ふぅ、いっぱい食べていきなよ〜」

「いや、別におまえが用意したわけじゃないだろ……」


 ツッコミを入れながら料理が並んでいるテーブルに向かう副寮長。

 ……ジャッジ・A・ジスティス。

 特殊能力は『ジャッジメント』。敵対する相手が悪行を積んでいればいるほど、魔法や身体能力が上昇するという能力で……たしかに強盗との一対一では殆ど負けないだろうな。


「銀行強盗……無くしたいけれど、どうしても起こるのよねぇ」


 銀行トップの娘であるユーティフルがため息を吐く。たしかに気苦労は絶えないだろう……。


「ま、金に困って短絡的な手段に出るヤツは完全にはいなくならねぇよな……ま、今回は被害が出なかったようで何よりだぜ」

「……にゃ! くうきがおもくなっちゃったなっ! なにかおもしろいはなしでもしようっ! じゃあまずはエンドリィから!」

「えっ、私ぃ!? まあ、いいけど……」


 前世なら即死級のキラーパスが飛んできたが、今のオレなら話題には事欠かない。


「アレはインディちゃんと音楽室に行った時のことなんだけど……」


 なんて、気を紛らわせる話をして、オレたちは夕食のひと時を過ごした。

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