第67話 殴り合い
「オラアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!」
ストレンスがエイバーさんに向かって殴りかかるッ!
「ふん」
「なッ、あァッ!?」
その拳は真っ直ぐとエイバーさんの顔へと伸びたが……相手は勇者。その攻撃を手のひらで受け止められる。
何かが当たる音すらしなかったぞ……? 衝撃を逃す、なんてレベルで語っていいのか!?
「どうしたッ! 呆けている場合ではないぞッ! ハァァッ!!」
「うおッ!? ぐううぅぅッ!!」
ストレンスの攻撃を受け止めたエイバーさんが、掴んだ拳を起点に片腕でストレンスの巨体を地に叩きつけるッ!
……身長差は殆ど無いにしろ、巨人の血を継いだ恵まれた体格のストレンスとエイバーさんのソレは熊と人間ほどの差があるというのに……!
「この……ッ!」
「甘いわッ!!」
ストレンスが動こうとする前に、エイバーさんがストレンスの左腕を両の脚でホールドするッ!
「関節を外す……もしくは骨を折るつもりですか!?」
「……ッ!」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえたのは、エストのものかセツナのものか。
いずれにせよ、緊迫した雰囲気に包まれている。
「させ……るかよおぉぉぉぉォォッッ!!」
「ぬううぅぅぅッ!!」
ストレンスが半身を拗らせ、ホールドされていない右腕をエイバーさんの顔面にぶち当てるッ!
これも勢いを逃したのだろうが、それでもエイバーさんはぶっ飛んでッ!
「やはり素晴らしい威力だなッ! ストレンス! 多少は攻撃をくらってでもという前提では動けなくなってしまったわッ!」
「はッ! 鼻血の一つも流さずによく言うぜッ!! なんて誇らしいんだ俺のひいじいちゃんはよぉぉぉぉッ!!!」
互いのことを称賛しながら、二人は突撃し合うッ!
「ハアアアアアァァァッ!」
「オラアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
相手の顔面目掛けて突き出した拳を互いに躱し、肘と肘がぶつかり合って……ッ!
「ふん……ッ!!」
「ウラアアアアァァァッッ!!」
二人が踏みしめた地面がひび割れる!
なんて力だ……ッ!
「……よし、純粋な力はもう十分味わったッ!!」
「うおッ!!??」
ドン、と音を立ててストレンスの腹を蹴り、宙返りして距離を取るエイバーさん。
……どんな人生を送ってりゃあんな動きができるようになるんだ。
「ストレンスッ! お前に味合わせてやろうッ! 魔法と格闘術のコラボレーションをなッ!!」
「はッ! 望むところだぜッ!!」
ストレンスが改めて拳を構えると、エイバーさんはその場で跳躍し……ただのジャンプで大人三人分くらい跳んだぞッ!?
「レディー、『極大上昇魔法』ッ!」
極大上昇魔法を発動したエイバーさんがストレンス目掛けてものすごい勢いで射出される。
「はッ! いいねいいねぇッ! そうこなくっちゃ……なぁッ!!」
「ほうッ! 受け止めるかッ!!」
その速さは目で追うことができず、気づいたときにはエイバーさんの拳をストレンスが両の腕で受け止めており……!
地面を踏み締めるストレンスであったが、その威力を抑えきれず、地面を掘り返しながら後方へと押されていくッ!!
「今だ……ぜぇぇぇェェッ!!」
「ぬ……ッ!? おおおおおぉぉぉッ!!?」
あわやぶっ飛ばされるのではないかというオレの心配を他所に、ストレンスは片脚を上げるッ!
さっきまで両脚で負担していた威力を片脚で受けるのはとてつもないリスクだッ! だが、それを敢えて選んだのは……ッ!!
「あ、あの状況から投げ飛ばすなんて……ッ!」
身体を回転させて勢いよくエイバーさんを投げ飛ばすためだッ!
遠く空まで飛んでいくエイバーさん……どれだけの威力が込められていたんだよ。本当に恐ろしいな。
「わっはっはッ! 見事だストレン──ふむッ! まだやる気のようだなッ!」
「当たり前だろ! ひいじいちゃんッ! 俺はまだやれるッ!!」
瞬間移動魔法で戻ってきたエイバーさん……だが、瞬間移動魔法の到着地点で待ち構えていたストレンスに殴りかかられる!
……って、なんでソレを回避できるんだよ!
「わははッ! 頼もしい限りだッ!! レディー、『大土煙魔法』ッ!!」
「す、砂埃が……!」
ヒラリと攻撃を躱したエイバーさんが『土煙魔法』を発動し、視界を濁らせる。
この魔法、目も痛いし息がしづらくて嫌いなんだよな……ッ! 多分、『くらうのが地味に嫌な魔法ランキング』があったら『閃光魔法』と同率一位になるレベルで。
「へッ! 無駄だ無駄だッ! 俺にはハッキリと見えているぜッ!」
その言葉が嘘ではないことを証明するように、ストレンスの拳はエイバーさんへと向かうッ!
「ふむ、お前の『魔法無効化』の範囲は凄まじいなッ! では……レディー、『極大上昇魔法』ッ!!」
「よかった……砂埃も消えました」
上空へと飛び立ったエイバーさん……だったが、その姿が突然消える。
これは……瞬間移動魔法ッ!?
「はは……ッ! バレバレだぜぇぇッ!!」
瞬間移動魔法は到着地点で明らかな違和感が放たれる。なので、直接の奇襲には向いていないのだが……。
「オラアァッ! ……あ?」
ストレンスが違和感の根源を殴りつけるが、その拳は宙を空振る。
ソレは決して、タイミングを間違えたわけではなく……。
「……瞬間移動の、解除?」
「……上かぁッ!!」
エイバーさんは移動先を確定した上で瞬間移動をしなかった。
このことに気づいたときには、彼はストレンスの頭上からキックをしていて……!
「ぐううううぅぅぅぅぅッ!!」
咄嗟に腕を構えたストレンスがエイバーさんの蹴りを受け止め……ようとする、が。
割れる地面。地に着く膝。
そして、倒れる巨体。
「……どうだッ! これがお前のひいじいちゃんの力だッ!!」
「わはは……流石だ。流石、オレのひいじい、ちゃん!」
間違いなく勝負あったのだが、まだ意識があって喋れるストレンスもやはり只者ではない。
「エイバーさん、ストレンスさんッ! 凄かったですッ! ねっ、エストさん! セツナさん!」
「……え? ええ」
「とても、凄まじいものでした」
興奮を隠せないままエストたちの方を見るが、どこか心ここにあらずといった様子で……どうしたのだろうと首を傾げてみる。
「……拳と拳の闘いなんて未知のモノ、とてもじゃありませんが、理解が追いつきませんでしたわ!」
「ええ、しかし、エンドリィ様は適宜コメントをなされており……やはり神童なのですね」
「えっ、あっ! ……そ、そんなことないですー! セツナさんまでやめてくださいよ〜! あははっ!」
そうだ、この国の人々は肉体言語で語る闘いを見たことがない。武器を使った闘いであれば物語などで見聞きしたことがある程度なのだから……。
初めての格闘技をいきなり最前列席で見たようなものだ。そりゃあインパクトも相当なモノだろう。
「わははッ! 謙遜するなッ! エンドリィちゃん! 今の闘いを楽しめていたのなら相当見どころがあるぞッ!!」
「あ、ありがとうございまーす」
久しぶりに声が吃ったが、まあ、それはそれとして……。
「エイバーさん、次は私の番……ですよね?」
「ああッ! そうだッ!」
さて、いよいよ次はオレの番か。
あんな闘いを見せられた直後だからいやに緊張するが……。
やってやるぞッ!