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第65話 武器の振り方

「武器の振り方……ですの?」

「ああ、そうだッ! 上手く武器を扱えるなら、あのグリフォンやグリフォンキングにも刃を通せるようになるぞッ! まあ、基礎的な筋肉量も必要だが、お前達なら大丈夫だろうッ!」

「……ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


 セツナが真っ直ぐとエイバーさんを見つめる。おそらく、グリフォンの首を刎ねられなかったことを気にしているんだろう。アレは骨に当たったのだから仕方ないとも思うが。


「ふむ、同じく剣を使っておることだし、まずはセツナちゃんから指導しようッ! レディー、『取出魔法ピックアップ』ッ!」


 エイバーさんが取出魔法を使って無から木刀を二本取り出す。そしてその内の一本をセツナに渡し……。

 自身は手に持った木刀を地面と平行になるように掲げた。


「今、ワシの頭と同じ高さに掲げたこの木刀目掛けて、思いっきり切り掛かってくれッ!」

「承知いたしました……はああああぁぁぁッ!!」


 セツナは木刀をエイバーさんが掲げたソレ目掛けて叩きつける。


「うむ、悪くはないが……一度交代しよう。次はセツナちゃんが木刀を掲げていてくれッ」

「は。承知いたしました」


 今度はセツナが木刀を地面と平行に掲げる。


「痛いかもしれんが、歯を食いしばって耐えてくれッ! フッ!!」


 エイバーさんが素早く木刀を振るう。


「……ぐッ! う、ぁ……ッ!」

「セツナッ!!」


 バキン、と何かが折れるような音がした。

 セツナが掲げていた木刀は途中から彼女の手元を離れたので、折れていないはずだが……。

 だとすれば……。


「……わ」

「おいおいおいッ! ひいじいちゃん! 腕を折るこたぁねぇだろッ!?」


 そう、セツナの腕はありえない方向に折れ曲がっていた。


「何事も体験しなければ身に付かん、それに力の逃し方もお前達には覚えてもらわねばならんからなッ! ……エストちゃん、セツナちゃんの腕を治してやってくれッ!」

「言われなくともッ! レディー、『中風属性回復魔法ディキャウィンドヒール』ッ!』

「はっ、ぁ……ありがとうございます、お嬢様」


 エストが回復魔法を発動すると、セツナの腕があるべきカタチに戻る。


「こんな老いぼれでも先ほどのような芸当ができる。ワシの力は特段強くないというのにだ。これが、武器の振り方の重要性なんだッ!」

「……なるほど」

「……身体で理解できました。おそらく、先ほども武器を振るう単純な力自体は私の方が上回っていたであろうにも関わらず、私のソレでは微動だにせず、エイバー様の一撃は私の武器を打ち払い、骨を折るまでにも至った。この差をご教授いただきたいです」


 そう、たしかにエイバーさんはまだ余力がありそうな武器の振り方をしていた。にも関わらず結果はこうなのだから、バケモノを見るような気持ちになってくる。


「ああ、そのためにワシはここにいるんだからなッ! まずは……これはどんな武器にも共通して言える事だが、『脱力』だッ!」

「脱力……」

「ああ、力を抜くこと……それは力を込めることと同じくらい大事なことなんだッ!」

「……なるほど、『緩急』ですね。脱力して筋肉を緩めて伸ばす、力を込めて筋肉を強張らせる。そのタイミングを意識するだけでも動きが変わってきそうです」

「おおッ! 流石はエンドリィちゃん! その様子だとスポーツも得意だろうッ!」

「あはは……普通ですよ」


 まあ、この身体なら得意な方ではあるが、先ほどのエイバーさんの話を理解できたのは、格闘技漫画を読んでいたことが大きい。


「脱力……緩急、ですか」

「まずはワシがタイミングを教えよう。少し離れていてくれッ!」


 エイバーさんの言葉にオレ達は少し距離を取る。


「脱力、力を込めるッ!」


 ビュンッ! と風を斬る音。

 ソレは一瞬の素振りだった。


「……速すぎてよくわかりませんわっ!?」

「ひいじいちゃんッ! もっとゆっくりできねぇのかよ!?」

「わははっ、すまんすまんッ! もっとゆっくりだなッ! ……脱力! そして!」

「ここで力を込めるッ!」


 今度はゆっくりと木刀を振るうエイバーさん……なるほど、タイミングは掴めたかもしれない。


「一度私もやってみます。脱力……力を込めるッ!」

「……ふむ、少し力を込めるタイミングが早いな」

「脱力…………力を込める!」

「そうそうッ! そんな感じだッ!」


 普通の素振りよりもややゆっくりと木刀を振るうセツナ。

 やがてその素振りは速度を増していき……。

 風を斬る音が恐ろしくも心地良い。


「……よぅし! それじゃあもう一回打ち込んでみろッ!」


 そう言ってエイバーさんが再び木刀を地面と平行に掲げる。


「参ります……はああぁぁッ!」


 持ち手がエイバーさんだということもあって微動だにしないが……先ほどの動きより『良くなっている』ことは確かにわかる。音の重さだって全然違う。


「……手応えはどうだ?」

「ええ、先ほどとは段違いです」

「わははッ! そうだろうッ! それじゃあ、今からは剣特有の姿勢を矯正していこうッ!」



「──はああああぁぁぁッ!!」


 木刀と木刀がぶつかる音、だけでなく、バキリと音が鳴る。


「……おっと、木刀にヒビが入ってしまったなッ!」


 エイバーさんが手に持った木刀を見て満足気に微笑む。


「木刀を一発で折れるようになれば、合格点というところだなッ!」

「ヒビ、どころか折る、ですか……精進します」


 頬から垂れる汗を拭って礼をするセツナ。

 ……というか、木刀の一撃で木刀を折れるものなのか? たしかに、それができれば骨に当たろうが関係なく砕けそうだが。


「セツナ、凄いですわっ! ワタクシも負けていられませんわねッ!」

「わっはっはッ! それじゃあ次はエストちゃんの指導といこうか!」

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