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第64話 魔物を食べよう!

「メシ……そういやひいじいちゃんは『飯の用意はいらない』って言ってたよな? 用意してくれてんのか?」

「いいや、これから作るんだッ!」


 これから作る……? もしかして。


「あの、エイバーさん、その材料って……このグリフォン達ですか?」


 オレはグリフォンの死体を指さしながらエイバーさんを見る。


「ああ、その通りだッ!」

「魔物を食べる……方もいるというのは話には聞いておりましたが」

「いざ、自分たちがその立場になると抵抗がありますね……」


 エストとセツナが珍しく渋い顔を見せる。

 まあ、オレも食べるのは初めてなのでその気持ちもわかるが……。


「魔物……マジかよ」


 元奴隷、つまり人間扱いされない存在であるストレンスすらちょっと引いている。

 現在の人間社会において、魔物食への認識というのはそういうものなのだ。


「まあ、平和になった今なら魔物に拘らんでもいいだろうが……またいつ魔王のようなヤツが現れ危機に瀕するかもわからん。食べられるようにはなっておいた方がいいぞッ!」


 そう言いながらエイバーさんは剣を構え、グリフォンへと振るう。

 すると、あんなにも硬かった羽毛がすんなりと剥げて、グリフォンの素肌が露わとなった。

 ……どういう技術だよ。


「さ、食べられる分だけ剥ぎ取るぞッ! シンプルに塩焼きといこうかッ!」

「それでは、火を起こしましょうか……」

「はい、お嬢様……」


 若干乗り気でないエストたちがテンション低めに焚き火の用意に取り掛かる。


「あっ、私も手伝いますっ!」



「──『極小火属性魔法ディシィファイア』!」


 エストが火属性魔法を発動し、焚き火が完成する。


「こっちも準備できてるぜー」


 グリフォン肉が刺さった串を持って近づいてくるストレンス。

 なんというか、諦めた表情をしている。


「わっはっは! そう萎えるな! 味はかなり美味いからなッ!」


 豪快に笑いながら串を火に当てるエイバーさん。まあ、要するにデカい鳥肉だから変な味はしないだろうが……。


「ん……」


 肉の焼ける匂い……オレは鶏肉を加熱したときに出るソレが少し苦手なのだが、同じ感じがする。やっぱり鳥なんだな。



「──さぁ、完成だッ!」

「……見た目は、美味しそうですわね?」

「ええ……」

「では、いただくかッ! ……うむッ! 美味いッ!!」


 ニカッと笑みを浮かべるエイバーさん。

 魔物肉……この世界で培ってきた価値観があるので少々の抵抗感はあるが、前世では絶対に食べられないものとして憧れもある。

 ……よしっ!


「いただきます……! んっ、熱っ」


 少し硬めの肉で、苦労しながらも噛み切る……うん、噛めば噛むほど鶏肉のような旨みが広がって!

 この弾力も癖になるな! 上手い例えが思いつかないが、瑞々しいジャーキーといった感じだ。


「美味しいっ!」

「……本当ですの?」

「……凄いですね、エンドリィ様は」


 グリフォン肉を食べたオレを見てもなかなか手が動かないエストとセツナ。


「……ハッ! 料理にイチイチビビってんのも性に合わねぇ! いただくぜッ!」


 そんな中、覚悟を決めたストレンスが肉にかぶりつく。大口を開けて食べてるところが漢らしいな。


「……んだよッ! めっちゃ美味ぇじゃねぇか!」

「わっはっはッ! だからそう言ってるだろうッ! 殺してからすぐの肉故に、新鮮で美味いんだッ! これが時間が経つと食えたもんじゃなくなるからなぁ……」

「なるほど……!」


 魔物の肉が市場に出回らない理由として、腐りやすいという特徴が挙げられる。

 人間よりも更に多くの魔素で構成されていることが関係していると言われているが……学者じゃないのでオレも詳しくは説明できない。


「ワタクシも、いただきますわ……!」

「……いただきます」


 エストとセツナも肉を一口食べる。


「……なるほど! たしかにこれは美味しいですわね!」

「ええ……よく噛まないと喉に詰まりそうですが、味はとても美味しいです」


 強張っていた二人の表情が緩む。

 百聞は一見にしかずと言うように、自分で体験してみないとわからないよな、こういうことは。


「ストレンス、コレも食べてみろッ! さっきの肉よりも硬いが、お前なら食べられるだろうッ!」

「んだよ、わざわざ硬い肉を食わなくても……」


 不服そうな顔でエイバーさんから串を受け取り、肉にかぶりつくストレンス。

 咀嚼して飲み込んだその時には、彼の目は大きく見開かれていて。


「おぉッ! たしかにさっきの肉よりも硬ぇけどもっと美味ぇッ! なんてーの? 旨みが強いって言うんだっけか!」

「わははっ、それはグリフォンキングの肉だ。原理はよくわからんが、こっちの方が美味いッ!」

「グリフォンキングの……」


 ストレスをかけない方が肉が美味くなるなんて話をよく聞くが、魔物に関しては話が別なのだろうか。


「……まあ、肉が美味いのは良い事だが、気になることがある。今この山にグリフォンキングがいたことだ。例年通りならばこの山付近に姿を見せるのは三ヶ月ほど後のはずなんだ」

「あまりにも、早いですわね?」

「そうだな……ただの偶然ならばいいのだが」


 ……何か理由があるとするなら。


「何か他の生物に追いやられた結果そうなった……というのなら、無視できない状況ですよね」

「そうだ。流石、エンドリィちゃんは賢いなぁッ! ……まあ、報告はすれども、調べるのはワシらではないからな。頭の隅に置いておくくらいでいいだろうッ!」



「──ごちそうさまッ! いやぁ! 美味かったぜッ!」

「うふふ、そうですわねッ! 午後も元気に動けそうですわッ!」

「わははッ! 魔物の肉は魔素が豊富だからなッ! 魔力だって完全に回復しているだろうッ! 将来何処かへ旅をするなら、魔物肉は重宝するから覚えておくようにッ!」


 旅、か。たしかにこの世界を見て回るというのも面白そうだ。


「ええ、とても勉強になりました……エイバー様、午後の修行は何をするのでしょう?」

「ああッ! 次はお前たちの『武器の振り方』を矯正しようと思うッ!」

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