第63話 グリフォンキング
……そうだ、こういうときこそ冷静になれ。
「レディー……!」
竜巻の中で自由に動かない腕をどうにか胸元に持っていき、呼吸ができなくなりそうな中なんとか『宣言』をする。
「『中上昇魔法』ッ!」
そして『上昇魔法』を唱えて、竜巻よりも更に上に跳ぶ。
「エンドリィ!」
同じようなことをしたのか、見上げればエストがいて。
「着地しますわよッ!」
「はいっ!」
地面にふわりと着地し、竜巻が過ぎ去る音を背中で感じる。
無事着地できたはいいものの、かなり飛ばされてしまったな。他のみんなは無事だろうか。
「とりあえず元いた場所に戻りましょうッ! ストレンスが心配ですわ!」
「ええ!」
あの竜巻が魔法だというならその発動者がいるということだ。
もしかしたら今も一人で戦っているかもしれない!
「ちょっと失礼っ! 抱えますわよっ!!」
「わっ……!」
「レディー……!」
オレを抱えたエストは宣言し……。
「『大上昇魔法』ッ!!」
大級の上昇魔法で山頂くらいの高さへと浮かび上がる!
「……あそこですっ!」
「ええ、見えましたわッ!」
先ほどまで居た開けた場所が見える。
そこには先ほどのグリフォンよりも一回り大きいグリフォンがいて、ストレンスと激戦を繰り広げていた!
「ワタクシはこのままあのグリフォン目掛けて突撃しますわッ!」
「わかりましたっ! 今離していただいて大丈夫ですッ!」
「ええ、離しますわよッ! ……レディー、『大上昇魔法』ッ!」
オレを離したエストが上昇魔法を足元に展開し、グリフォン目掛けて飛んでいく!
……って、オレも使わないと!
「レディー、『中上昇魔法』ッ!!」
「……レディー、『中上昇魔法』ッ!!」
「レディー……ッ! 『中上昇魔法』ッ!!」
中級魔法では一跳びとはいかず、何度も魔法を発動し、開けた場所へと戻る。
「ストレンスさんッ! エストさんッ!」
「おおッ! エンドリィも無事だったんだなッ! よかった……ぜぇッ!」
チラッとこちらを一瞥した後、エストの突撃によって態勢を崩したグリフォンの嘴を殴りつけるストレンス。
「ピュイイイイイィィィッ!!」
パキリと音が響いた後、グリフォンが叫ぶ。
流石に粉砕は出来なかったようだが、しっかりとヒビが入っていて。
改めてゼションのタフさに想いを馳せそうになるが、今はそんなことをしている場合ではない。
「セツナの姿は見たかッ!?」
「いえ! けれどあの子ならきっと無事ですわッ! 今は目の前のコイツに集中しましょうッ!!」
「ええ、そうですねッ!」
グリフォンが羽ばたき、牽制と共に『宣言』をする……『極大竜巻魔法』がくるッ!
……よしッ! 『ユアーレディーゴー』ッ!!
「ピュッ!? イィィィィィィィッ!?」
明らかに困惑した反応を見せたグリフォンに『大竜巻魔法』が直撃し、ぶっ飛ぶ!
しかし、流石は鳥。翼を羽ばたかせ姿勢を安定させた後、オレたちをジッと見つめている。
「……ッ! あっ!」
「おいッ!! アイツも逃げんのかよッ!」
「そうはさせませ──」
「はああああぁぁぁッ!!」
振り向き飛び去ろうとしたグリフォンにエストが先ほどと同じように攻撃を仕掛けようとするが……その前にッ!
飛んできたセツナがグリフォンに剣の腹を押し込むッ!
「ピュイイイイイィィィッ!!」
オレたちの目の前に墜落するグリフォン。
打ちどころが悪かったのか、半壊した嘴が何処かへと飛んでいく。
「皆様、遅くなり申し訳ありませんッ!」
「わははッ! 気にすんな気にすんなッ! よっし、揃ったことだしボコボコにしてやろうぜッ!!」
「ええッ! いきますわよッ!!」
「はいッ!」
オレたちはもがくグリフォンにそれぞれ攻撃を加える……が、その羽毛と筋肉の硬さにまともに傷をつけられない。
「クソッ! こいつ、かてぇなッ!」
「あら、根を上げそうですの?」
「まさかッ! ワクワクしてきたところ……だぜぇッ!!」
「ピュイイイイイィィィッ!!」
パァンッ!!
と破裂音が周囲に響く。
凄まじい威力のパンチだ。
「レディー、『大水属性魔法』ッ!!」
グリフォンがたまらず叫ぶ……その隙をセツナは見逃さなかった!
大水属性魔法を開いた嘴からグリフォンの体内へと発射し水で埋め尽くしたのだ!
「──ッ! ──ッ!!」
最早グリフォンは叫ぶことも叶わずもがくのみで。
その動きは急に止まった。
「……やりましたわねッ! セツナッ!」
「皆様のお力あっての事です」
「……わっはっはッ! お見事だ! まさかのハプニングであったが、まさか『グリフォンキング』を極大級魔法を使わずに倒すとはなッ!」
「うおッ!? ひいじいちゃん!?」
いつの間にかオレたちの背後に立っていたエイバーさんが拍手をする。
「グリフォンキング……コイツが」
グリフォンたちのボスである『極大級魔物』であり、各所に点在する無数の巣を回っているという。
ちなみに、魔物のボスは基本的に『キング〜』という名前なのだが、コイツだけは後ろにキングがつく。理由としては『言いにくいから』というくだらないものなのだが。
それにしても、言われなければ逞しいグリフォンだなぁとしか思わなかったかもしれないな……。
いや、極大級の竜巻魔法を使うという特徴があったか。
「なかなかにタフなヤツだったなぁッ!」
「できればこの武器で決着をつけたかったですけれど、今のワタクシたちではそれはまだ叶いませんでしたわね……」
「それができればワシという先生はいらなくなるからなッ! だーいじょうぶ! この後しっかり稽古をつけてやるッ!」
ため息を吐くエストに対して豪快に笑うエイバーさん。
「……が、その前に飯にするかッ!!」