第59話 エンドリィの指摘
「おっにぃ〜ちゃま〜っ!」
「うわっ!?」
急にエンドリィに抱きつかれる。
……そうか、オレは寝て、今は夢の中なのか。
「あははっ、びっくりさせちゃった? おにいちゃまのエンドリィだよ〜!」
「オレのって……」
相変わらずドキリとする発言をする子だ。
「つぎにゆめであえるのはいつだろ〜? っておもってたけど、おもってたよりもはやかったなぁ〜! これがわたしの『おにいちゃまへのあいのちから』かもっ!」
「あはは……でもまた会えて嬉しいよ、エンドリィ」
君の元気な姿を見るのは喜ばしい事だ。やっぱる発言にはドキリとするけれど。
「えへへぇ! そういってくれてわたしもうれしいよっ! おにいちゃま!」
「ふふ……あ、そうだ。今回も何か用事があるのかな?」
少しの間見つめ合っていたが、彼女が何か用を持って現れたのなら早めに聞いておこう。
夢の時間は無限ではないのだから。
「えー、ようじがなかったらあえないの〜?」
「あっ、いや、そういうわけじゃ……」
「……えへっ、じょうだんだよ、おにいちゃま! そんなにいそいでるわけじゃないけど、おにいちゃまにはなしておきたいことがあって」
「……話しておきたいこと?」
いったいなんだろう?
「そのまえに……きょうはおつかれさまっ、おにいちゃま! ラビィがちゃんとまほうをつかえるようになるまでおしえるの、たいへんだったでしょ〜?」
「いやいや、教えたのはケアフとカインたちだから……」
「それでも、なにかあったときのこと、ずっとかんがえてたでしょ? だから、おつかれさま〜っ!」
「……ありがとう」
陰ながらの努力というものは本来知られないものだ。
故に、それをこの子に知られていることは気恥ずかしいが、少し嬉しくもある。
「うんうんっ! ラビィ、さいしょにみたときは、いやなやつだなっておもったし、いまでもそうおもってるけど……すこしはたいどもやわらかくなってきたね」
「……そうだね」
少なくともケアフへの態度は柔らかくなった。これは大きな進展だろう。
あとはアリスジセルとの溝を上手く埋められたらいいのだけれど。
「むりにうめるひつようはないんじゃないの〜? あのふたり、みずとあぶらってかんじだし〜」
「まあ、キミの言うことはもっともだけど……あの子たちは何事もなければ十二年は同じ教室、寮で生活するんだ。できれば仲良くなってほしいよ」
馬が合わない奴、ちょっと苦手くらいの奴ならまだいいが、嫌いな奴と一緒にいることはどうしようもなくしんどいものだから。
変えられるものなら変えてあげたい。
「ふぅん、おにいちゃまはそういうかんがえかたなんだね……それはそれでとうといなぁ」
トロンとした目をするエンドリィ。尊いと言われるとなんだか背中が痒くなるのだが。
「……アリスジセル、クラスのみんなと馴染めるといいけれど」
「それはきっと、アリスジセルしだいだよ〜。けど、ちょうどいいや! きょうはあのこのはなしをしようとおもってたんだぁ!」
「アリスジセルの……?」
「そもそもアリスってなまえさぁ、ぐうぜんなのかな? おにいちゃまとあったひ、そしておやすみのひにきているあのおようふくって、えほんの『ふしぎのくにのアリス』のアリスにそっくりだったじゃん」
それはたしかに、オレも考えていた。
ワンダーランドという苗字も、あまりにも偶然の一致すぎると。
「養護施設の児童は施設長から苗字を与えられる……そう考えると、施設長のダイナさんは」
「うん、『ふしぎのくにのアリス』をしってるってかんがえるのがしぜんじゃない?」
「オレと同じ転生者ってこと?」
「そうかもしれないし……べつのかのうせいもあるよ!」
「別の可能性……?」
……そうか。
彼自体が転生者でなくとも、知ることができる。
例えば、転生者から教えてもらう、だとか。
「そうっ、わたしたちがしってるてんせいしゃといえば、ゼションだけど……あいつ、さいごに『しゅんかんいどうまほう』でどこかににげようとしてたよね?」
「……向かおうとしていた先がダイナさんのところだったって可能性があるわけか」
ありえない話ではないが、オレにとって、ゼションの友達というのは悪印象でしかない。
それに、あれだけのことをやらかした後で尚も助けを求めることができるということは……。
ゼションの悪事をダイナさんが知っていた可能性が高いということになってしまう。
「わたしははじめからうさんくさいな〜っておもってたけどねっ!」
「……でもまだ確定情報じゃあない。アリスジセルの育ての親を簡単には疑いたくないよ」
「……うんっ、けど、きおくのすみにはおいておいたほうがいいよって、そういうはなしっ!」
「……そうだね」
仮にダイナさんが悪人だとして、彼が何をやろうとしているかも検討がつかないし、今の段階でソレを調べることもなかなか厳しいだろう。
「はいっ、とりあえずこれできょうのようじはおわりっ! ……それじゃ、おにいちゃま、いちゃいちゃしよ〜!」
「……い、いちゃいちゃ?」
言うが早いかエンドリィはオレに近づいて腰回りに抱きつく。
「えへへっ、ゆめのじかんはそんなにながくないからねっ、つぎにあえるときまで、じゅうでんさせて〜っ!」
「……まあ、キミがそうしたいならそうすればいいけれど」
……この子も物好きだよな。陰キャであるオレのことを知った上で好意を向けるなんて。
「むー……まえもいったでしょ? 『わたしにはおにいちゃましかいない』って。いまとなってはそれいがい、ひつようないんだよ?」
「……キミに他の選択肢があったならって、思わざるを得ないよ」
「むむむ〜、やっぱりねがてぃぶだね、おにいちゃま。でも、そんなところもすきだよっ!」
「あはは……」
──なんでもかんでも好きだと言ってくれるエンドリィに苦笑いを浮かべながらも、夢の時間が終わるまで楽しく話すオレであった。