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第55話 馴染めない二人

「──よろしい。本日の授業は終了としよう。貴様らにも今日から後輩ができた。恥ずべき姿を晒さぬよう、小職と共に励んでいくぞ……それでは、解散!」


 ナウンスが教室の外へと出て行くと、ケアフが荷物を持って駆け寄ってきた。


「にゃ! はやくいくぞっ!」

「なによ〜? いつにもなく急いで」


 はやるケアフの様子にユーティフルは首を傾げる。


「あはは、どうやら一年生の様子が気になってるみたいで……」

「ああ、先輩風を吹かせたいってことね? どっしり構えてた方がカッコいいと思うけれど」

「わははっ、俺も今朝同じことを言ったぜ。けどまぁ、これだけ気にしてくれている先輩がいるっていうのは良いことじゃねぇか!」

「ちょっとたよりないですけどね……」

「にゃ! カイン〜、なんかいったか?」


 ケアフがジロリとカインに目を向ける。


「あっ、いえ、ケアフをバカにしたいわけではなく、ボクもなんです。トシじたいはボクたちよりもうえのストレンス、おじょうさまとしてイッパンジンにはえがたいケイケンをつんでいるユーティフル、そしてシンドウのエンドリィ。オサンカタはにねんせいでもたよりになるとおもいますが、ボクたちは……」

「にゃあ……それは、たしかに」

「気にしすぎじゃないですか? それに、最初から頼りになる先輩なんていませんよ。一緒に成長していくものですから」

「うーん、そのハツゲンがすでにおとなびていて……やっぱりボクはまだたよりないコドモだなぁっておもってしまいますね」


 カインが俯く。

 ……が、比べても仕方無いだろう。だってオレは一度学生生活を終えた二十七歳のオッサンだったんだから。


「わははっ、だからこそ大人になろうと努力できるんだろ! カインもケアフも、立派な先輩になる素質があると思うぜ!」

「うんうん、私もそう思います」

「オーホッホッホッホ! ワタシも、カインたちのやる気は買ってあげるわ〜!」

「そう、ですかね……」

「にゃ! みんなこういってくれてるんだ! きっとだいじょうぶだぞっ! ということでっ! さっそくいちねんせいのきょうしつをのぞいてみよ〜っ!!」


 張り切って教室を出て行ったケアフの後を、各々顔を見合わせ笑いながら追う。



「──ちょっとアナタたち! ホントウにBランクとCランクなんですか!?」

「にゃ、この声は……」

「ラビィ……」


 扉を開ける前に聞こえた怒号に、カインがため息を吐く。


「……あっ」


 扉を開けると視線が此方へと集中する。


「何があったんですか?」

「みんなワタシよりもヒッキシケンのテンスウがひくいんですよ! BランクとCランクのヒトがたくさんいるのに、なさけないハナシですっ!」

「それは……ラビィががんばったからじゃないですか? ボクだって、ヒッキシケンはサンイでしたが、それはドリョクしたからで」

「ワタシたちがドリョクするのはトウゼンじゃないですか! すこしでもケッカをだして、ジブンもカゾクもいいセイカツができるようにしないといけないから!」

「にゃ……それは、はりきりすぎじゃないか?」

「ケアフセンパイはだまっててください、ワタシのホウがアタマがいいジシンがあるので!」

「にゃにぃ……!?」

「……ふふっ、これは厄介な一年生がいるものね?」


 ラビィの横暴な態度にユーティフルが笑う。


「アナタは……『ユーティフル・B・クトレス』!?」

「アナタが言いたい事もわかるわ。つまり、エリートになるためにワタシたちは弛まぬ努力を積むべきで、ランクに見合った結果を出せていない人たちがサボっているように見えるのね?」

「……そう、です」

「……アナタはランクに囚われすぎよ。既に言われているだろうけれど、今のアナタたちのランクは親が与えてくれたものに過ぎないわ。個人の優劣を決めるものじゃないの」


 ユーティフルが諭すような口調で話す。その後ろでケアフが何か先輩っぽいことを言おうとしていたが、既にユーティフルのペースなので、ケアフはただただ後ろで頷くだけの人になっている。


「めぐまれたカンキョウにうまれて、ケッカをだせないことは……はずかしいことだとおもいますけど」

「人間だもの。向き不向きもあるわ? 筆記試験は得意じゃなくても魔法が得意な人間もいるでしょう? もちろんワタシには『Sランクの娘』としてどちらも優秀な成績を収めなければならないという意識はあるけれど……それを他人に強いようとは思わない。エリートたる自覚は強制されて持つものではないもの」

「で、でも、エリートたるジカクは、このがっこうにかようセイトはもっていなければならないもので……」


 ラビィは言葉を詰まらせながらもユーティフルへの意見をやめない。

 ところでそのエリートたる自覚云々を繰り返すのはやめてほしい。オレには無いものだから。


「そうね。みんながみんな、学校に入ったときから自覚を持っているべき。その意識を持っているのはアナタの良いところね。けれど……その意識を以って他者を見下すことは、将来誰かの上に立つ者としてやってはいけないことよ」

「…………ガッカリ、したんです」

「にゃ……がっかり?」


 ケアフが首を傾げる。


「どんなすごいヒトがいるんだろうって、ワクワクしてたんです。でも、ワタシ、イチバンになっちゃって……」

「つまり、アナタの行動は理由をつけて八つ当たりしているだけよ。それも、ただの一度の試験結果だけで。それは傲慢だわ」

「…………」

「ラビィちゃん、人は成長するんだよ。もちろんラビィちゃんも成長するけど、今回の試験の結果で『悔しい』と思った人がいれば、君よりももっと成長するかもしれない。エイバーさんも言ってたでしょ? 競えって……君がガッカリするのはまだ早いよ」

「……ごめんなさい」


 ラビィはまだ教室に残っていた一年生に謝罪し……周囲の重苦しさが少しだけ緩和される。


「……にゃあ、やっぱり、せんぱいってかんじがするなぁ」


 ケアフは感心するようにため息を吐く。

 まあ、今回はユーティフルが立派だったな。


「……ところで、アリスちゃんは?」


 周囲を見回すが、彼女の姿は見当たらない。


「……アイツならソッコウでリョウにかえりましたけど」


 ラビィが呆れたような声色でそう言う。


 な、馴染めてねぇー……。

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