第54話 監獄塔
「──諸君らはこの国の未来を支える中心人物となっていくじゃろう。期待しておるぞ」
今は入学式。ランブルロックの話が終わったところだ。
今回は一時間で済んだので短かったが、ケアフはきっとぐっすり入眠していることだろう。
「……にゃ!」
声がした方を見るとナウンスがケアフの傍にいた。おそらく小突かれたのだろう。
……うん、やっぱり彼女は寝ていたようだ。
ちなみに今回もランブルロックの話はメチャクチャ面白かった。ケアフも寝ずに聴ければいいのだが……。
しかし、入学式か。去年だとこの後ゼションが挨拶をしていたが……。
「では続いて、この国が誇る勇者、エイバー様に諸君らへの激励のメッセージを送ってもらおう。それではな」
その言葉に講堂中が騒めき立つ。
今年はエイバーさんか。そうだよな。オレにとっては身近なおじいちゃん感さえあるが、あの人は勇者で、凄い人なんだよな。
ランブルロックが恭しく礼をし、壇上にエイバーさんが上がる。
「ご紹介にあずかった、エイバー・SS・ウーパーだ!」
さてさて、エイバーさんはおしゃべり好きのおじいちゃんなのだが、こういう挨拶でも長話になるのかなっと……。
「ワシが学生だったときは、みんなも知っての通り、魔王という強大な敵がいた。奇しくも、その脅威が人々を成長させていたと言えるだろう。だからと言って脅威に怯える日々が良かったとは口が裂けても言わないが……今の世でも競うことはできる」
「そう、競う! ある分野で誰かと自分を比べたときに、自分が劣っていると感じたのなら……そして、悔しいと感じたのならば、それはキミたちの成長に繋がる第一歩だ! その気持ちを持って歩み続けていれば今日の自分よりも明日の自分はきっと強くなれる!」
「もちろん、悔しいと感じない子もいるだろう。その場合は、自分が負けていたら悔しいと思う分野を思い起こしてみるのもいいとワシは考える!」
「戦闘力で人々を助ける者、知力で人々を助ける者……キミたちが歩める道は無限に分かれている。焦らず、じっくりと考えることだ!」
「……さて、学生だった頃、こういう挨拶は早く終わってほしいと思っていた。だから、ワシの話も手短に、これで終わらせることにしよう! 改めて新入生諸君! 入学おめでとう!」
エイバーさんが笑顔で手を振ると、講堂は絶大な拍手に包まれる。
短くて、それでいて良い話を聞いたと思わされる、学生にとって助かる挨拶だった。
「エイバー様、ありがとうございました……えー、それでは、保護者の方と在校生、教員から退席させていただきます」
「──いやぁ、ひいじいちゃん、あんな感じで短く話をまとめることも出来るんだなぁ!」
「あっはは、私たちと話すときはいつも長話ですからね……」
「オーホッホッホッホ! 時と場所と場合を考えるのはデキる大人の基本よ! 伝説の勇者様ともあろう方が意識していないわけないわ!」
「にゃ! そうなるとランブルロックせんせいはできないおとなってことになっちゃうぞ!」
「それは……言葉のあやってやつよ! それに、みんなだって少しはあの長話を自重してほしいと思っているでしょう?」
「まあ、すこしはおもっていますよ……ええ」
「小職も同意だな。長話に慣れさせるという目的が無いわけではないのだが、それにしても話が長すぎる」
「あっ、ナウンス先生!」
教室に帰ってきていつもの面子で話していると、ナウンスがいつの間にかケアフの後ろに立っていた。
「にゃ! じぶんのせきにもどりまーす!」
数日前に行われた試験の結果はオレ、ユーティフル、ストレンス、カイン……の順番だったのでオレたち四人は並んで自席に座ったまま話していたのだが、最下位で最後列のケアフだけはわざわざこちらに来て会話に加わっていたのだ。
「……ふむ、よろしい。全員席に着いたようだな。それでは、本日の授業を始めていく。まず話すのは『監獄塔』についてだ」
「罪人達が収容されている塔なのだが……何故塔の形をしているか、わかる者はいるか?」
オレを含め、数人の生徒が手を挙げる。
「ふむ、それでは、『インディ・C・レバー』……答えよ」
当てられたのは最前列右端に座るインディだった。
「はい、それは塔の主の特殊能力、『特殊能力無効化』の範囲が自身の半径十メートルであり、高さの制限が無いから……なのです」
「うむ、よろしい。この塔が出来るまでは強力な特殊能力を持つ罪人は即座に極刑になっていたが、監獄塔の主がこの塔の建設を提案したことで人間族と耳長族の国に住む強力な特殊能力を持つ罪人は皆この塔に収監される事となった」
「にゃ! その『とうのあるじ』がとつぜんしんじゃったらどうするんだ!?」
「塔の主の死に起因し爆発する魔道具が各階に散りばめられている……まあ、塔の主は耳長族であり、厳重な警護下に置かれてあるため、そうなるのは数百年後だろうがな」
「にゃるほど……」
数百年後……気の遠くなる話で、オレとは無縁だな。
「貴様らの中にもこの監獄塔の看守を務めたいと思う者が出てくるやもしれないが、くれぐれも収監される側にはならないようにな?」
「はい!」
言い聞かせるような重みのある口ぶりに、オレたちは思わず大きな返事をした。