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第53話 分かり合えない二人

 施設案内と夕食が終わり、オレたちは大浴場にいた。


「エンドリィせんぱい、ぼく、がっこう……がんばれるきがしないです」

「あはは、まだ始まってもないよ……?」


 ぶくぶくと音を立てながら沈んでいくアリスジセルの脇を掴んで持ち上げる。


「だって……なんですか、あのラビィってひと。ぜったいなかよくなれませんよ」

「あっはは……」


 たしかにあの子はなかなかの曲者で、『Fランクと一緒に入浴なんてしたくないです。なんならお湯も変えてほしいくらいですから』みたいなことを言っていたもんな。

 一年前のカインのケアフに対する態度よりも酷いかもしれない。


「にゃ! カインもいちねんせいのときはあんなかんじでみゃーのことをばかにしてたんだぞ! でも、いまではなかよしだっ! きっとなかよくなれるっ!」

「……ぼ、ぼくはべつに、あんなひととなかよくなりたくないです」


 ケアフの笑顔もアリスジセルには届かないようで、またぶくぶくと沈み始める。

 ……初日から先が思いやられるな。


「……ラビィちゃん以外の寮生はそこまで差別的じゃなかったから、まずはあの子達と仲を深めた方がいいかもしれないね。私も最初はランクの差に怖がっていたけど、ケアフちゃんとカインさんがいたから頑張れたんだー!」

「にゃ! みゃーもエンドリィがいたからがんばれたんだぞ〜!」

「う〜……」

「……ほら、アリスちゃんは施設で育ったんだよね。新しい子達が入ってきたときと同じように接してみよう?」

「あたらしいこ…………いえ、ぼくは『すえっこ』なので。おにいちゃんとおねえちゃんは、ものごころついたときからいてくれたから、きんちょうしないんですけど」

「……あっ、そうなんだ」


 末っ子? 彼女の施設は数年間新たな子を受け入れていないのだろうか。まあ、経営も大変そうだもんな。


「……アリスちゃんは好きなもの、ある? 共通の話題があれば話しやすくなると思うんだけど」

「……ぼくは、ぬいぐるみがすきです。かわいいやつ」

「にゃ! そういえばアリスはおっきなネズミのぬいぐるみをもってたな!」

「……おきにいり、なんです」


 そう、この寮に来た時から彼女は大きくて長いネズミのぬいぐるみを片脇に抱えていたのだ。

 たしかに、あれは可愛い人形だな。抱き枕にするのも良さそうだし。

 それにしても、ケアフに対してもアリスジセルはまだ慣れていないようで、オドオドと視線を泳がせている。

 ……オレに慣れるのは早かったのに、果たしてオレとケアフの何が違うというのだろう。


「うんっ、ぬいぐるみ、いいんじゃないかな! 学校の売店にも小さなぬいぐるみは売ってるし、誰か誘って見に行ったり……」

「……それ、エンドリィせんぱいじゃだめですか?」

「あはは……私も誘われるのは歓迎だけど、やっぱり同学年に友達は必要だよ」

「う〜……」


 ぶくぶくと沈みゆくアリスジセルの脇を再び掴んで浮上させる。


「もちろん、私も出来る限りの手伝いをするから……ね?」

「……わかりました。すこしだけ、がんばってみます」

「にゃははっ、がんばれがんばれっ! みゃーだってまほうもべんきょうもだめだめだったけど、ここまでこれたんだ! きっとアリスもだいじょうぶだぞ!」

「……ありがとうございます」


 やはりケアフに慣れていないのか、お礼を言いながら沈んでいくアリスジセル。

 とりあえず今回は放っておこう。


「おっふろ、おっふろ〜……やあ、エンドリィとケアフ〜。さっきぶりだねぇ〜」

「あっ、寮長!」


 ルファイアが鼻歌混じりに浴室へと入ってきた。

 たまに全裸を寮生に晒している彼女だが、普段光魔法で隠している部分を曝け出されると、なんだか本当に見てはいけないものを見ているような気がする……いや、風呂場で全裸なのは当たり前なのだが。


「そこの推定アリスちゃんはどうしたの〜? なんか沈んでるけど」

「そういう気分みたいです」

「そっかそっか〜。いやぁ、今日は案内お疲れ様〜。ワタシの代わりにやってくれてありがとうね〜」


 だらしない笑みを浮かべるルファイア。

 やや吊り目の金色の瞳、ツンとした高い鼻。

 黙っていればクール系の赤髪美女なのだが、動けばクールのクの字も無くなる。


「いえいえ、私としても良い経験になりましたから……それにしても、副寮長のお説教、長かったですね。大人しく服を着て施設紹介をしていた方が穏便に済んだんじゃないですか?」


 オレ達が一通り施設紹介を終えて解散した後もルファイアはクドクドと説教されていたんだよな。


「まあね〜。だからこそやったっていうのもあるけど〜」

「ああ……」


 明確には言葉にしないが、ルファイアは副寮長の事を好いているらしい。

 ……魔法で一部隠しているとはいえ、全裸を晒して恥ずかしくないのかと聞いた際、『それがいいんだよ』と返されたことがある。

 ……うん、第一印象で変態だと思ったオレ達はどうやら正しいらしい。


「にゃ! みゃーはそろそろのぼせそうだからあがるぞ! エンドリィたちはどうする〜?」

「ぼ、ぼくもそろそろあがろうかな……」


 いつのまにか浮上していたアリスがケアフに続いて立ち上がる。


「うん、じゃあ私も……それでは寮長、また明日! おやすみなさいっ!」

「はいはい、おやすみ〜」


 ヒラヒラと手を振るルファイアに礼をして、オレたちは脱衣所へと向かった。

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