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第52話 すぐ脱ぐお姉さん

「な、なんなんですかこのヒト! ヘンタイです! ヘンタイがいます!」

「え、ええエンドリィせんぱい! あれは、あれはなんですか!?」

「あはは、まあ最初はビックリするよね。寮長さん……ルファイア先輩は特殊能力のせいで服を長く着れないんだよ」


 ルファイア・A・トリッパー、新十一年生。今年度の寮長に就任した先輩だ。

 特殊能力の全貌は明らかになっていないが、服を着ていると身体が熱くなってめちゃくちゃしんどいらしい。


「な、なるほど、とくしゅのうりょく……それじゃあ、しょうがない、のかな?」

「うぅ、めのやりばにこまるよぉ……」


 混乱しながらも頷くラビィとオレの背中で顔を隠すアリスジセル。

 うんうん、去年のオレたちを見ているのかのようだ。


「はぁ〜、スッキリしたぁ〜。驚かせちゃってごめんね〜」

「うわっちかづいてきた!」

「改めてよろしく〜。わたしは『ルファイア・A・トリッパー』。仕方なく寮長をやることになったお姉さんだよぉ〜」


 まるで変態が近づいてきたように……いや、絵面だけ見ればそうとしか見えないが、ラビィの失礼な発言にものほほんと笑っているルファイア。

 寮長になる条件は寮生の十年生で最も優秀な成績を修めること。彼女は実家生の生徒を入れても学年全体で最優秀の成績を叩きだしている。すぐ全裸になるけど凄い人なのだ。

 ……代表生挨拶の時に脱がないかすっごくヒヤヒヤしたけれども。


「ぶっちゃけ俺もまだ慣れてねぇんだよなぁ……」


 ストレンスの方を見ると顔を片手で覆っていた。

 まあ、この件で『ウブですね』と揶揄うのは酷か。


「おいコラ! ルファイアおまえ! またいつの間にか脱ぎやがって!」

「え〜、だってしんどいんだもん」


 つかつかと歩み寄ってきた副寮長に口を尖らせるルファイア。


「自室以外では服を着ろといつも言ってるだろ!」

「やー、考えてみてよ? ワタシ、この寮のトップなんだよ〜? つまり、ここはワタシの家みたいなもので、ワタシの好きにしていいんだよ〜」

「そんなわけあるかッ! もっと寮生の代表としての自覚を持ってだな……!」


 ルファイアの滅茶苦茶な理論に頭を掻く副寮長。彼女のクラスメイト兼幼馴染を務めるのは大変そうだなといつも思う。


「え〜、だったらキミが寮長になればよかったじゃん。ワタシの成績を抜いてさ〜」

「それが出来ればどれだけよかったか!!」

「……っ」


 語気を強める副寮長の声にピクリと震えるアリスジセル。


「あの〜、寮長、副寮長、アリスちゃんが怖がっていますよ」

「あっ、すまない……!」

「おっと、ごめんね〜。それにしてもエンドリィ、懐かれてるねぇ〜。さっすが〜」


 オレにピットリとくっついているアリスジセルを見てルファイアは軽く拍手をする。


「流石ついでにさ〜、新一年生への施設の案内、キミに任せてもいいかな〜?」

「おいっ、それは寮長の仕事だろうが!」


 ルファイアに噛み付くように副寮長がツッコミを入れるが、彼のソレは虚しく通り過ぎるのみで。


「あっはは、別にいいですよ。私としても、歳が近い新一年生の子と交流を深めるのは願ったり叶ったりですし」

「エンドリィ、あまりこいつを甘やかさない方がいいぞ……まあ、歳が近い方が、というのはおれも考えていたところだ。おまえはしっかりしているし、任せてもいいか?」

「ええ、任せてください!」

「そうか。それじゃあ頼んだ。おれはこいつに寮長としての心構えを叩き込むことにするよ」

「えぇ〜、必要ないよ〜!」

「いいか、そもそもな……」

「もう始まっちゃったよぉ〜!」


 抗議の声を上げるルファイアに容赦なく説教を始める副寮長。まあ、全裸のまま外に逃げるわけにもいかないし、大人しく聞くしかないだろう。安心安心。


「にゃ! みゃーもあんないする〜っ!」

「ええ、せっかくですし、ボクたちでアンナイしましょう!」

「ま、今日は特段予定も無ぇしな〜!」

「皆さんありがとうございます! それじゃ、一年生は私たちに着いてきて! まずは自室に荷物を置いてもらうから!」



「──そうぞうしてたよりももっとすてきなへやですね……!」


 ラビィが驚愕の声を上げながら部屋から出てくる。

 うんうん、一年前のオレも同じことを思ったよ。高級ホテルのスイートルームじゃんって。


「うぅ、おちつかないよぉ〜……」


 一方でアリスジセルはゲンナリした顔で出てきた。


「ふふっ、Fランクにはふさわしくないへやだもの! ものおきにでもすんだら?」

「うぅ〜、ぜんぜんそれでいいよぉ〜」


 今にも泣きそうな声でそう言うアリスジセル。ラビィの罵倒はそこまで効いていないみたいだ。


「……ラビィ、やはりアナタのハツゲンはみすごせません。こうかんがえてみてはどうですか? 『Fランクなのにこのばにいる』と。それだけユウシュウであるとみなされているのだと」

「……」

「いまのボクたちのランクはオヤからあたえられたものにすぎません。そんなものでタシャよりもウエにたとうとすると、いつかコウカイすることになりますよ」

「……はぁい、すみませんでした」

「あやまるならボクではなく、アリスジセルに、です」

「……ごめんなさぁい」

「べ、べつに、きにしてないから……」


 仕方なく、と言った様子で謝るラビィ。強要された謝罪には何も意味がないが……それにしても、カインも言うようになったものだ。


「この寮は七階建ての建物で……二階は一年生と二年生の部屋、三階は三年生と四年生の部屋って感じで二学年で一フロアを使っているよ。基本的にみんなで使う施設は一階にあるから、とりあえずはそこから一通り回ってみよっか!」


 というわけで、オレたちは一年生に施設の案内をするのであった。

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